帰りの電車では、ボックス席に座った。幸い目の前には人はいなくて、邪魔が入らず話ができる。といっても、遅くまで起きていた俺たちにはそんな余裕はなく、二人して大きなあくびをしていた。
「なぁ」
少しウトウトしかけたとき、袖を引っ張られた。
「なに?」
あろまはリュックの中から何かを取り出して俺の手に乗せる。小さな紙袋。中身は見えないようになっていた。
「やるよ、それ」
「えっ、なにこれ?」
「いいから開けてみ?」
こいつの事だからどうせ変なものでも入ってるんじゃないかと警戒心強めでそーっと開けてみた。
「あ…」
中に入っていたのは、昨日土産物店で見たシャチのストラップだった。機嫌の悪そうな顔のシャチだ。
「昨日の、買ったんだ?」
「ん、俺みたいって言ったから」
「でも、俺はウミガメじゃないんだ」
「ああ、それは―」
リュックからもう一つ袋を取り出して、中身を見せてくれた。
「あ…そういうこと…」
あろまが手にしていたのは、俺に似たウミガメ。そのボーッとした感じが似てるらしい。
お互いのものを交換して持ってる感覚だ。学生の頃そういうの流行ったっけ、と懐かしくなってくる。一緒にいた友達は彼女とペンを交換したり、まぁ色々してたわけだけど。そんなノリなのかな。
「お互いの似てるやつ買ったんだ」
「まぁね。俺さ、独占欲強いみたいだから」
「そうなの?」
普段の感じだと、何かに執着する感じではなかったような気がする。心境の変化がどこかであったのかもしれない。その原因が俺だったらすごく嬉しいんだけど。
「だからそれ持ってて。魔除け」
「魔除けって…悪魔かよ」
「女はみんな悪魔だよ」
「うわ…偏見ひど…」
そこまで大きくないストラップだから、魔除けになるかはわからないけど、俺は普段使ってるこのリュックにつけることにした。あろまも、自分のリュックにつけている。
二人だけの秘密って感じでいいな、これ。
「あろまさん、意外とロマンチックなんですね」
「あろみちゃんは乙女だからな」
「言ってろ」
「帰ったらなにする?」
「そうだな…洗濯とか、片付けとかしたいとは思ってるけど」
「じゃあ俺の分も洗濯して」
「わかった」
「それでピザとかとってゲームしたい」
「元気だな。俺眠いんですけど」
「いま寝てけばいいじゃん」
普段とあまり変わらない会話だけど、これから帰って二人でまったり。それを楽しみに俺はふふっと笑った。それを聞き逃さず、あろまは
「楽しみかよ?」
と聞いてくる。
「まぁね」
ふーん、と前の調子に戻ったような、ドライな返事が返ってくる。でも、
「ま、楽しみなのは俺もだけどな」
そんな素直な言葉が聞けるようになったのは、この旅行がきっかけであるのは確かなようだ。
お互いに笑い合って、そっと目を閉じる。肩に感じるのはその温もり。夢じゃないんだ。そう思うと幸せで心が満たされるのがわかる。帰ってからもこいつを独り占めできる。
我慢できるかな…なんて考えながら、襲ってくる睡魔に抗えず、俺の意識は遠のいていった。
The End.
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