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No. 1
【微かな違和感】
朝、いつも通りの時間に目を覚ます。
窓の外は淡い光。風の音。
「今日は船の点検をしなければいけない日だったな」
そう考えながら、龍水は寝癖を指で撫でつけ、いつもの動作で支度を整える。
確か、千空はエンジンを確認したいと言っていたはずだ。何か必要なものがあれば持って行かねば。
一通り身支度を終えた龍水は、ゆったりとした足取りで広場へと向かった。
まだ朝早いからだろうか、昼には笑い声で満ちている広場も、今はしんと静まり返っていた。
静かな朝。よく見る光景だ。
しかし今日は、異様に静まり返っていた。
──誰の声も、物音ひとつさえしない。
背筋に嫌な汗が流れる。
襲撃か?
千空やゲンが攫われたのか?
もしそうなら、あの二人なら何かしら手がかりを残すはずだ。
(……事故? まさか、石化装置……?)
ただ単に、まだ誰も起きていないだけかもしれない。と、 そう思いかけた時、
「よう、どうした、そんな青い顔して。」
背後から声がした。
驚いて振り返ると、千空が立っていた。
龍水のすぐ後ろ、近付いてきたのなら、必ず気付く距離に。
まるで、最初からそこにいたように。
「今日の点検はもうちょい人数集まってからすんぞ。軽ーく準備しとけ。」
いつもの千空だ。
いつも通りの声、普段と変わらない口調、自然な顔。
襲撃の形跡も、目立つ怪我もない。
「……ああ、もちろんだ! それでは俺は先にペルセウスへ行っておくぞ。また後で合流しよう。 」
そう言って龍水が背を向けた瞬間、嫌な音がした。
到底人から出る音ではない、嫌な音が。
千空の方を見る。
しかし、何も変わっていない。
ただ、千空がこちらを見つめている。
龍水は思わず後ずさった。
聞き間違いだったのかもしれない。
千空……、人間から、あんな音がなるはずがないのだから。
できるだけ自然に、ペルセウスの方へと歩いていく。
だがその足取りは、千空から離れたい気持ちが現れているのか、自然と早くなっていった。
(……おかしい。)
なぜ、振り向くまで千空がいたことに気づかなかった?
なぜ、声を聞いた瞬間に“千空だ”と認識できなかった?
千空はいつ、俺の背後に立った?
気のせいだと、自分に言い聞かせる。
だが、嫌な予感は喉の奥で熱を持っている。
あの千空の表情が、
後ろから聞こえた、気味の悪い、何かが割れるような音気味の悪い、何かが割れるような音が、
感じた違和感全てが、脳裏から離れない。
何かが狂っている、そんな気がしてならなかった。