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大森元貴 × 若井滉斗
恋人同士
若井さん微病み?
気がついたら、朝だった。
カーテンの隙間から、淡い光が差し込んでくる。なのに、起き上がる気力がない。
もう、何日こうしていただろう。
スマホの通知は見ないふりをして、食事もまともにとっていない。
人と会うのが怖い。
誰かの視線が、言葉が、俺を刺してくる気がしてならない。
ステージの上でも、日常の中でも、「自分」という存在が急にぼやけて、 本当に俺はここにいていいのかと、そんな考えが頭を占める。
「若井」
不意に名前を呼ばれた。
ドアの向こうから、元貴の声がする。
「……入っていい?」
返事はしなかった。
それでもドアはゆっくりと開いて、 彼がそっと部屋に足を踏み入れる。
寝転がったままの俺を見て、表情を崩すことも、眉を寄せることもなく、 ただそこに座った。
「……おはよ」
「……おはよう」
自分でも驚くほど声がかすれている。
元貴は持ってきたマグカップを差し出し、「甘いカフェオレ。飲める?」と聞いた。
手を伸ばそうとして、やめた。
飲みたい気持ちはあるのに、 受け取った瞬間、「ありがとう」とか「美味しい」とか、 ちゃんと言わなきゃいけないような気がして、そのプレッシャーが胸を締め付ける。
頭では分かっているのに、言葉は喉から出てこようとしない。
「飲まなくてもいいよ。置いとくから」
そう言って、ベッド脇の棚にカップを置く。
俺が言葉を探して黙っていると、彼は続けた。
「仕事、休んでるの、連絡は俺がしてるから」
「……ごめん」
「なんで謝るの?」
その問いかけに、答えられない。
「迷惑かけてる」としか思えなかったから。
「俺はさ、若井が笑ってても笑ってなくても、 起きてても寝てても、どっちでもいいんだよ。」
「若井が生きてる、それだけで、もう充分だから」
その言葉が、まるで毛布のように静かに降りてきた。
胸の奥の固くなっていた部分が、少しだけほぐれる。
「……でも、俺、今の自分が嫌いだ」
「そりゃあ、そういう時もあるよ。俺だってあるし」
「元貴は……ちゃんとしてるじゃん」
「ちゃんとなんかしてないよ。俺、若井の前だから落ち着いてるだけ」
僕は目を上げた。
彼は柔らかく笑っていた。
その笑顔は、慰めとか同情じゃなくて、 俺と同じ高さで、一緒に立ってくれているような温度を持っていた。
「ね、若井。無理に何者かにならなくていいよ。
他人の評価って、天気みたいなもんだ。
晴れる日もあれば雨もある。
いちいち全部に傘さしてたら疲れるだけだ」
「……そんなに簡単に割り切れない」
「うん、簡単じゃない。でも、少しずつでいいじゃん。 今は、俺が傘さすから」
元貴は俺の手にそっと触れた。
温かい。
その温度を感じた瞬間、堰が切れたように涙が出た。
みっともないと分かっていても、止まらなかった。
彼は何も言わず、俺が落ち着くまで背中を撫でてくれた。
その優しさに甘えながら、胸の奥に少しだけ「生きたい」が戻ってくるのを感じた。
「……元貴」
「ん?」
「一緒に……カフェオレ飲む」
「…うん」
彼は棚からカップを取って、俺に手渡した。
まだ温もりが残っている。
ひと口飲むと、甘さと苦さが同時に広がった。
それは、今の俺と元貴みたいだった。
外はまだ曇っているけれど、
そのうち少しだけ陽が差すかもしれない。
誰かに刺さればいいな〜と思って書きました
コメント
2件
無事刺さりました🥹