テラーノベル
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「クソッ……! なんだ、このラグは……!」脳内では、完璧なシミュレーションが完了していた。
相手ガードの重心移動がわずかに右に傾いた瞬間、ボールの軌道、味方センターのスクリーンがかかる角度、そしてカバーに入る相手の走線——すべてが格子状のグリッドデータとして頭の中に展開された。
成功率は99.8%。
左足を踏み込み、0.2秒遅れでディフェンスの裏を通るパスを通せば、確実なフリーのイージーレイアップが完成する。
——理論上は。
「おいおい! なんだあのパス!?」
「ベンチに直接叩き込んだぞあいつ!」
現実の彼の体は、脳の指令に対して致命的に不器用だった。
左足を踏み出そうとして右足のバッシュに引っかかり、つんのめりながら投げ放たれたボールは、明後日の方向へと飛んでコート外のパイプ椅子を弾き飛ばした。
「ハァ……ハァ……」
膝に手をつき、荒い息を吐く。
全米最高峰の大学を8歳で卒業し、最年少で上場を果たし、資産は数千億円。世の中のあらゆる「ルール」を解き明かし、資格も名声も手に入れてきた彼にとって、世界は常に「決定論(すでに答えが決まっているもの)」だった。
だが、このコートの上だけは違った。
頭の中の自分は、まるで風を切る鷹のように自由にコートを舞い、完璧な戦術を描いている。
しかし現身(うつしみ)の自分は、まるで小さな木籠に閉じ込められた鳥のように、一歩踏み出すことすら満足にできない。
「おい、交代するか?」
チームメイトが苦笑いを浮かべながら声をかけてくる。
天才と呼ばれた男のプライドは、ズタズタに引き裂かれていた。脳細胞の全てが「この競技は身体的制約により期待値が極めて低い、撤退すべきだ」と警告音を鳴らしている。
だが——
(……面白い)
彼の瞳の奥に、青い火がともった。
「断る。まだ『変数』の処理が終わっていない」
立ち上がり、バッシュの紐を締め直す。
運動神経が絶望的? 骨格の連動性が欠如している?
だったら、どうする?
筋肉の代わりに『脳』で体を動かせばいい。
運動神経が良い人間が無意識に行っている感覚(センス)の動作を、すべて解剖学、バイオメカニクス、物理演算の「言葉」に翻訳し、自らのどんくさい体に直接コマンドを打ち込む。
1ミリ単位の関節の角度、筋肉の収縮時間、床との摩擦係数——すべてを脳内で意識的に「手動制御」してやるのだ。
「もう一度だ。ボールをくれ」
完璧なIQと、絶望的な運動神経。
不可能を解き明かしてきた天才の、人生で最も無謀で、最も刺激的な「解の導出」が始まった。
コメント
1件
ちょっと待ってこれめっちゃアツい!!🔥🔥 頭は完璧なのに身体が追いつかない天才、めっちゃ刺さる設定すぎませんか…?! “脳で筋肉を制御する”発想、理系的でカッコよすぎるし、籠の鳥の比喩が切なくて逆に燃える😭💪 続き待ってます!ってか早く読ませてほしい〜!🫶✨
#バスケットボール
法蓮 創
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