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【夜と16とハロウィンと】
オレンジ、パープル、甘い香り。
今日に相応しい色の光が、瞼を開けた私の目に映る。
それは、少し離れた所から見えている照明のようだった。
「…ハロウィン?」
そうだ、今日はハロウィンだ。
…だとしても、なぜ知らない町に居るのだろう。
「あれ?君、見ない顔だけど…。…あっ、もしかしてそういうこと?」
「そういうこと…?」
オレンジとパープルで統一された光を頼りに、まだ比較的薄暗い路地を歩いていたとき、黒い髪の青年に話しかけられた。
「…それ、牙?」
「えっ?牙?…あぁ、俺ヴァンパイアなの。」
「ヴァンパイア…って、あの血を吸う?」
「あー…ほら、それより君のこと!迷い込んできちゃったの?」
「気付いたらここに居たの。」
「…もしかしてだけどさ、気付いたらベンチの上で眠ってた?」
「そう。」
私は、確かに赤茶色のベンチの上で目覚めた。
でも、彼はなぜそれを知っているのだろう?
それに、ヴァンパイアって?
「なるほどねぇ…。じゃ、この町について教えてあげるよ!」
「いいの?」
「勿論!俺もパシリ帰りだし、せっかくだから歩きながら話そっか。」
「お願い。」
「えーとね…まずここは『チルドラート』。妖怪達が住む町で、今日みたいなハロウィンの日は住民のほぼ全員が外へ出てどんちゃん騒ぎするんだよ。」
「妖怪達が住む町?」
「そう、妖怪達が住む町!サダコとかのワフウな妖怪じゃなくて、ゾンビとかパンプキンとかのモンスターが多めだよ。」
「それは貴方も?」
「俺はさっきも言った通りヴァンパイア。血は吸わないけど。」
…血は吸わない?なぜ?
「…どうして?吸わないと生きていけないんじゃ?」
「それがね、自分の血でも大丈夫なんだよね。本能的な問題で、最低でも月イチは吸血しないと発作が出るらしいんだけど…、それが血であれば種族は何でもいいんだってさ。」
「そうなんだ。意外。」
「でしょ?…というか、反応冷たくない?種族差別?」
「ヴァンパイアを見たのは貴方が初めて。差別のしようがない。」
そんな会話を続けていると、数分前までは遠いように見えた光が目の前にあった。
どうやらバー?のようだ。そう書いてある。
「…幼い女ノ子?」
「にしては性格が大人びてるんだよね〜、この子…。」
「へぇ〜…見た感じミイラ君パターンっぽいけど。いくつなんだい?年齢。」
「11歳です。」
「小学生なのか?」
「5年生です。」
そこには、パッと見でも分かるくらい有名な妖怪が複数居る。
「そうだ、自己紹介とかしない?その方が親しみやすいだろうしさ!」
「いいト思う。」
自己紹介をする流れ…
だけど、素直に名前を言ってしまって良いのか考えてしまう。
「OK〜!さっきも話したけど、まず俺はヴァンパイア。」
「あたしゴーストって言ウの。怨霊ダけど仲良くしテね。」
「僕はパンプキン。どうぞよろしくね〜。」
「ミイラだ。元は人間だが…よろしく頼む。」
ヴァンパイアの青年、ゴーストの少女、パンプキンの少年、元人間のミイラ。
…その中に、人間にしか見えない少年が居た。
「貴方は…人間?」
「へっ?ボク?…あ〜〜〜、待ってごめん気抜いてた!」
「しっかリして」
「ごめんごめん。で、自己紹介だっけ?」
「そうだよ〜。」
「えーと…ボクはベルゼバブ!人間でも悪魔でもないよ!」
「その姿で人間じゃなくて、その名前で悪魔じゃない?」
「そう!ボク獣!暴食獣!人間の姿と獣の姿があるよ!」
暴食獣…、人食?それとも雑食?
疑問に抱いた私は、ハテナが浮かんだ瞬間即座に聞いていた。
「人を食べる?」
「選り好みすればそうだね。人肉が1番好き。更に選り好みすれば心臓。」
「贅沢なとこ取るね、ベルゼ君も…。」
「あ、やっぱヴァンパイアだから分かっちゃう?」
「いやいや、俺人間の血は吸わないからね?」
「え?…あー、そういやそうだったね。ボクとしたことがうっかりしてたよ。」
「ははっ、やっぱり君達仲いいねぇ…。僕もそういう子欲しかったな〜…」
「ボクとヴァンはもう4世紀の仲だからね〜。」
「もうそんな経つっけ?……あ、そういえばふと思ったけど、君…名前は?」
やはり聞かれた。
…人外とは言え、素直に本名を名乗るのは危険な気がする。
「…言えない」
「危機管理能力が高イ子だね、ミイラと違ッて」
「…耳が痛い、やめてくれ」
ミイラが両手で耳を覆う仕草をした直後、あたりが冷気に包まれた。
「す、すみません皆さん!お待たせ致しました…!
あ、パ、パンプキンさん!これ、頼まれてたグミです!」
「あぁ、どうもありがとう。」
そこには、真っ白な美しい長髪の女性が居た。
…恐らく…というか、周りに雪のようなものが飛んでいるので雪女だろう。
「雪女さん、ちょっと人を紹介するね。この子、ちょうど今日迷い込んできちゃった人間の子。」
「そ、そうなんですね…!ヴァンパイアさんがここまで連れてきてくださったんですか?」
「そーそー。この子がベンチで眠ってたらしいんだけどさ、それをパシリ中のヴァンが見つけてボクらのとこまで。」
やっぱり雪女だった。
…にしても、今までの人?とは違う印象がある。
「えっと…よろしく?」
「!…えへへ、よろしくお願い致します!」
こちらから『よろしく』と挨拶をしただけで、雪女さんの表情がぱあっと明るくなる。
よほど人間に悲しい思い出があるのだろうか。
「あ、あの、恐縮なのですが、お名前って…?」
「…あ、…言えない」
今のところ、ヴァンパイアと雪女さんが特に安全なようには見える。
…が、今後のことに響くかもしれない。名前は言わないでおこう。
「も、申し訳ありません…。」
「…謝らないで。」
「は、はい…。それでは、何とお呼びしたら良いでしょうか…?」
「うーん……『ヒューマン』とか?僕はパンプキンだし、ヴァン君はヴァンパイアだし。」
「えー、安直過ぎない?ボクら妖怪はそれぞれの個体でも数えるくらいしか居ないけど、人間って何那由多も居るんだよね?」
「流石にソんなに居なイと思う」
それはそうだ。正確な数は分からないけど、おそらく億か兆、もしくはその1つ上だったはず。
「うーん…『リィラ』とかどう?」
「『リィラ』…?どうして?」
「うーん、呼ばれる本人から理由聞かれちゃったなぁ…。…うーん…、なんとなく、かな。俺の直感じゃないけど。」
「本当になんトなく?」
「本当になんとなくだよ。」
リィラ。
それは、私の本当の名前ではない。
見知らぬ吸血鬼から提案された名前。
…だけど、私はその名前に既視感があり、確かにその名前を愛していた。
「…いもうと…。」
「えっ?」
「妹の名前と同じなの。…私と同じような青い髪で、父親譲りの赤色の瞳で。」
「…その妹さんは今どうしてるの?」
「居なくなっちゃったの、46日前。」
「46日…9月15日…。…そっか、ツラいこと思い出させちゃったね。ごめん、俺反省するよ。」
「…いや、悪気が全く無いのは分かってる。だから謝罪は要らない」
「大人びた子だね〜…。僕の11才の頃とは大違い…。」
「どんな子だったの?」
「酒ばーっか飲んでたよ。ほら、このグミあるでしょ?これと全く同じグミを───」
『11才でお酒?』…という疑問が浮かんだそのとき、パンプキンによって開けられたグミ袋に真っ白な雪が降り注ぐ。
「わ、わああああああああっ!?す、すみません、すみません!その石ころで躓いてしまって…!いや言い訳はダメですよね、ごめんなさい!え、えっと、えっと…!!」
「いいんだよ、落ち着いて。そもそも、買ってきてくれたの雪女さんだし」
「す、すみません、ありがとうございます…」
どうやら、雪女さんが躓いてしまい、脊髄反射で雪を降らしてしまったらしい。
「謙虚ダよね、雪女ちゃん。」
「そ、そうでしょうか…?」
「……ストちゃんってさ、飴噛み割るよね」
「なんデ知ってルの?」
「半透明だからだよ、ストちゃん」
ゴーストが、ネオンピンクカラーの飴をバリボリ噛んで食べていた。気持ちは分かる。
…そんな他愛もない話をしていると、どこからか声が聞こえた。
『えー、皆さん!トリック・オア・トリーーーート!』
「?」
『本日は10月31日、1年で唯一、1日中月が輝く日!』
1日中月が輝く…?
…つまり、朝も昼もずっと夜のように真っ暗?
『出会った妖怪には次々とトリートを強要しましょう!』
ハロウィンだから間違ってはないのだろうが、言い方がとんでもないことになっている。
『もしお菓子が無ければ、どんなトリックでさえも許されます。それでは、今日という日を楽しんで〜!』
プツッ…と、放送が切れた。
「おや…ところで今は何時だ?雪女よ」
「え、えっと…午前の2時です!」
午前の2時。
いつもならとっくに寝ている深夜だ。
「…眠くならない」
思わず軽い疑問を口に出す。
「今日来たばかりなのだろう?ならそれが原因だと思うが…。」
「来たばかりだと、眠くないの?」
「なんダっケ、来てカら1週間の人間は体が麻痺しテるから眠くなラなイんだっけ」
「そうだったはずだよ。僕の記憶が合ってればだけど…。」
「そうなんだ。」
なるほど、そういうこと。
未知の妖怪が沢山居る町だし、そんな呪い?があっても不思議では…あるか。
…そして、ここからどうしよう。
本当なら、今日明日にはもう行くべき場所があるのだが。
「ここから帰る方法ってあるの?」
「あるにはあるよ?俺はあんまりオススメしないけど」
あるんだ。…けど、オススメしないって?
「その方法は?」
「…うーん、説明していいのかな、これ」
「ヴァンパイアが説明したクないだけデしょ、あたしが説明スる。来てくレた日付もピンポイントで丁度いイし」
「え、言っていいの?ボクもオススメしないけど」
「お前もただ単に楽しみたいだけだろう…」
どういうことだろうか。
方法を知らないから、説明して貰ってもいいのか分からない。
ただ、『日付もピンポイントで丁度いい』というワードが気になっていた。
「う〜ん…とりあえず、ゴーストちゃんに任せたらいいんじゃないかな?」
「わ、私は皆さんの意見に従います…!」
多種多様な妖怪達が、自分らしい?意見を出している。
「えっト、3つあルんだケど、実質2つだね。」
「どういうこと?」
「3つのうチの1つが、『ハロウィンの日であること』。その日しカ外には出レない。」
『ピンポイント』ってそういうこと…。と納得した。
「エーと、まず1つ目。リィラちゃん、『トリック・オア・トリート』って分かル?」
「うん、さっきの放送で流れてたやつでしょ?」
「そうソう。その言葉をね、この町の妖怪のウち8人に言うノが1つ目。」
「へぇ…。2つ目は?」
「こノ町の全域を見テ回ること。こっチはあんマり難しクないよ。」
つまり…
ポジティブに言えば、この町でハロウィンを楽しめばいい。
しかし、私の中には1つの不安があった。
「…お菓子、どうしよう」
ハロウィンを楽しむなら、お菓子が必要なはず。
もし無ければ、大量にイタズラを受ける羽目になるだろう。
「お、お菓子ならここに…!」
雪女さんが渡してくれた袋には、キャンディ、グミ、マシュマロ、チョコクッキー、スナック菓子など、色んなお菓子が入っていた。
「いいの?こんなに」
雪女さんの謙虚な態度に、私は柄にもなく申し訳無くなっていた。
「はい、是非!リィラさんにもハロウィンを楽しんで頂きたいので!」
「…ありがとう」
いい人?だ。
…人か雪女かはさておき、この笑顔は信頼できるだろう。
「…あ、僕いい案思いついちゃった。」
「いい案?ボク気になる〜」
「そう、いい案。聞いてよ」
パンプキンが、オーナー用の少し大きい席を立ち、人差し指をピンと立てる。
「まず、リィラちゃんはこの町全域を見て回らないといけない。」
「そうだな」
「そして、8人の妖怪にも声をかけないといけない。」
「そうですね」
「そして、この場にいる”妖怪”は6人だろう?」
「俺、パンプキン、ゴーストちゃん、ミイラ君、雪女さん、ベルゼ君、そして人間のリィラちゃん…ホントだね」
そこまで言ったあたりで、なんとなく察することができた。
「僕らが散り散りになって、それぞれの所にリィラちゃんに向かって貰うのはどうかな?」
やっぱり。
私も普通にいい案だとは思う、けど…。
「…だが、それだと人数が足りなくないか?リィラを除けば、この場に居るのは6人だろう?」
そう、懸念点。
2人ほど人数が足りないのだ。
「ふふ…ふふふ…」
気持ち悪い笑みだ。
…というのは少し辛辣だけど、どうして笑っているのかは分からなかった。
「そう言うと思ってね、ちゃんとそこも考慮して計画を立ててたよ」
「ズバリ、ソの計画トは?」
「ちょっとその出し方はまずいかな、明らかに作戦名を言うフォーマットになっちゃうから」
「決めテないノ?作戦名」
「決めてないよ、案を思いついたのもついさっきだし」
グダグダだ…。
まぁ、素早く帰る作戦を考えて貰っている手前文句は言いづらい。
「えーと、その考慮してた計画の内容だけど…、町長さんの所に行くのはどうかな?」
「町長?」
思わず声が出ていたが、数秒経った今思えば町長くらい普通に居るだろう。
「そう、町長。魔法使いなんだけどさ、黒猫も居るからちょうど8人になるんだよね」
魔法使い…まぁ、魔法少女みたいな可愛いものではないだろう。どっちかといえば魔女のようなものだと想像した方がいいかもしれない。
…ところで、黒猫は言語を喋れないのでは?
「黒猫もお菓子を食べたり、言葉を話すの?」
「『黒猫』の妖人だからね。…でも、黒猫のことに関してはベルゼ君のほうが分かるんじゃない?」
「やめてよ、あの猫とボクを一緒にしないで」
ベルゼの名前が出てきた時点でなんとなく理解した。…けど、全然間違ってる可能性もあるので、一応聞いておきたい。
「要するに…ベルゼで言う『暴食獣』の黒猫バージョン、ってこと?」
「うん、概ねそんな感じ。違うところもあるけど…大体合ってる」
「言っておくけど、別にその猫と仲良いわけじゃないからね?」
「あはは、ごめんって」
恐らく、黒猫とやらと過去に何かあったのだろう。
「魔法使いの町長っていうのは?」
「あぁ、そっちね。それはさっき放送してた男の人だよ。ハロウィンとクリスマス以外は滅多に外出しないし、かなり長髪の人だからもし瞳を見れたら結構奇跡だよ」
長髪、男、引きこもり、町長。
偏見に満ち溢れた人物像が出来上がる。
「貴方はあるの?瞳を見たこと」
「僕は無いよ。エメラルドグリーン、マゼンタ、オレンジとパープルのオッドアイ…色んな説があるけど、とりあえず会ってみるのが1番だよ」
色んな説。
その言葉が、私の探究心をくすぐる。
可愛くない小学5年生かもしれないけど、これが私だ。
「それじゃ、まずは散り散りになろっか。僕は一応ここのオーナーだし、最初点になろうかな」
じゃあ俺は、それナらあたしは、ならボクは、など色々声が挙がる。
「オッケー、これで分配は完成だね。」
「…あ、あの、私からも1つ案があるのですが…!」
「どうしたの?雪女さん」
「えっと…途中でリィラさんが次の方の居場所を忘れてしまうと大変なので、前の方が次の方の居場所を伝える、というのはどうでしょうか?」
つまり…、
「パンプキンが『次の雪女さんはここに居るよ』、雪女さんが『次のベルゼさんはここに居ます』…みたいなこと?」
「はい、そうです…!伝わってよかった!」
「それいいね、ボク賛成!」
「我もいいと思うぞ」
「じゃ、そうしよっか。リィラちゃんはそれでいい?」
「うん、ありがとう」
そして、各々が散り散りになった。
まずはこのバー、パンプキンだ。