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教室の中では、半数以上の生徒が居眠りをしている。なのに怒られる事はない。何故なら教師も寝ているからだ。黒板に向かいチョークを持ち、立ったまま寝ている。器用だ。
折角の居眠りチャンスなのに、こんな日に限って俺は眠くない。季節は春。席は窓際1番後ろ。吹き込む風は穏やかで、最高な環境なのに。
目が覚めているのなら、と教室の中央辺りを見る。2年に進学しても運良く同じクラスになれた沙奈を見つめた。相変わらず可愛い。後からだから顔は見えないが可愛い。
沙奈は中等部2年の時に編入して来た。見た瞬間世界が変わった。沙奈以外どうでも良くなった。以来ずっと同じクラス。もはや運命。
沙奈は、前の席で寝ている弥生を突いて起こそうとしている。良い子だ。時間の許す限り眺めていよう。
チャイムが鳴る。昼休みだ。
「沙奈可愛いよな、つい見ちまう」
前の席の奴が言う。俺はそいつを睨み付けた。
「何だよ、別に見る位良いだろ?付き合ってる訳でもない癖に。そんなに好きなら告れば?」
「出来る訳ないだろそんな事!」
思わず大声で言い返す。うるせえ、とそいつに頭を叩かれた。
そんな俺らの横を山内が通り抜けた。いつも俺らと3人でつるんでるのに完全シカトで。
「山内・・・」
無言で歩いて行くその先、隣のクラスにいる山内の彼女が後ろのドアからこちらを覗いている。
「何だよ、彼女さんかよ」
いつもの山内なら、俺らに彼女の存在を自慢気にアピールしながら向かいそうなもんだが、何だか様子が変だなと思った。
「やっぱいいよな。すぐそばに彼女の存在って」
そんな友人の声を聞きながら山内の様子を見ていると、彼女と一言二言話したかと思うと、彼女の手を取り自分の口元に運んだ。
「な!」
「何だ、アツアツかよ」
俺らは呆れて目を逸らしたが、そのすぐ後、山内と彼女の方から悲鳴が上がって再びそっちを見た。
山内の彼女が手から血を流しながら、廊下の反対側迄飛ぶ様に下がってそこに尻餅を着く。
俺は立ち上がってそっちに向かう。すぐ側に居たのであろう、沙奈と弥生が彼女に駆け寄り声を掛けた。弥生の方が山内に向き直り、肩をどついて詰め寄る。
「あんたどういうつもりよ!」
弥生の顔は青ざめていたが、かなり立腹の様子。
「山内どうしたんだよ」
やっと辿り着いた俺は、山内の肩を引きこっちを向かせて奴の顔を見た。そして引く。
口の端から血を垂らしながら完全な無表情。山内の彼女の方を見れば、遠目で見たよりも沢山の血が手から流れている。沙奈がハンカチを出して巻き付け止血しようとしている所だった。
「あんまりにも美味そうだったからさ」
山内が言った。俺は何も言えずに奴の肩をそのまま後ろの壁に押し付けた。ドタンとでかい音がする。
「哲平君、山内お願い。うちら彼女さん保健室に連れてく」
弥生が俺にそう言って沙奈と一瞬に山内の彼女を支えて歩き出す。俺は、それを追おうとする山内を押さえ付けて「お前何やってんだよ!」と言う。
「言っただろ?美味そうだから食ったんだよ。丁度ランチタイムだ」
「てめぇ」
思わず手が出る。拳を奴の顔に叩き込もうとする。が、片手で軽く掴まれて止められた。凄い力でびくとも動かない。
「興が冷めるよ、死に損ないが」
山内が言った。
「は?どういう意味だよ」
言った俺を軽々と横に払い除けると、保健室と反対の方向へ歩き出した。
「おい山内!」
叫ぶ俺を無視して行ってしまう。
くそ、何なんだよこれは。
混乱と苛立ちを抱えたまま、とりあえず俺は沙奈達を追って保健室に向かった。
保健室の入口で3人に追い付いた俺は、同じく噛まれて出血して駆け付けた生徒が何人かいるのを見て驚く。
「何だよこれ・・・」
中に保健医はおらず、付添の生徒が怪我をした生徒の消毒やら止血やらをしている。
「先生は傷の深い生徒に付き添って中等部の保健室に行ってるの。中等部の養護教諭は元外科医なんだって」
3年の付添生徒が教えてくれた。
「他にもいっぱいいるんですか?その、噛まれた人」
沙奈が聞きながら山内の彼女を空いている椅子に座らせる。
うん、と頷く先輩。
「5人今運ばれているわ。プラス今ここに4人だけど、まだ増えそうな気がする。奥のベッドには登校時に意識を失った人が寝てるし、今日は本当、なんなのかしらね」
包帯や消毒液の場所を聞いて処置をしていく。その様子を俺は見ていた。戦場で救護班の護衛をしている気分だ。
順調に包帯を巻いているのを見ていた時、カーテンの奥で人が起きる気配がした。意識を失っていた生徒が気付いたのだろう。カーテンが開くと、そこからこの学園の有名人が出て来た。
須田愛海だ。