お昼前近かったけど。
「なんだか疲れたね。森の洞窟にはもういないみたいだから、少しやすむ?」
『うん、ちょっとお腹すいたかも』
ははははと笑ってシートを取り出した。
冷たい水をボウルにいれてやれば、ゴクゴクと飲んでいる。俺もコップでゴクゴク飲んだ。
何を食べるかと聞けば、肉がいいと聞こえる。もうデフォルトだよね。皿に入った焼きたてのステーキを取り出してやれば、さっそく食べ始めた。
俺は、今朝買ったサンドイッチだ。今日は卵と野菜、ハムと野菜の二種類だ。
もぐもぐ、もぐもぐ。
ひとしきり食べた後、食器をクリーンして片付ける。
結局、フラットは五枚のステーキを食べた。そう、五キロ。その上に、サンドイッチをそれぞれ三個ずつ。そして大量の水を飲む。これ、俺の何日分かなとおかしくなる。でも細身だと出てたから、しっかり食べさせてやらねば!
とりあえず採取をはじめることにする。表から回り込みながら、ルゴル鉱石を取り始めるフラット。
戦いの後、残ったアリオールを切り取ってゆく俺。
どちらも慣れたものだ。
サーチをかけて探すんだから間違いはない。今日はフラットもサーチしながら集めてるみたい。
サーチって他の人には見えないけど、俺とフラットはお互いの結果が見える。どうやら眷属だから、らしい。
次々とアリオールを採取してアイテムボックスへと入れてゆく。戦った場所以外はきれいに残っているから楽だ。なぜこんなに群生しているのかと思ったけれど、ムーンベアがいたからなんだと理解した。あれほどの数がいれば普通の人は採取なんかできないよ。
でも、今日からしばらくはダメになるよ。だって、俺は全部持って帰る気だし。
途中でホットドッグとステーキを取りだし、スープも作って昼食をとった。
ひと休みした後も、採取作業を再開して午後四時くらいまで続けた。明日は休みになるかもしれないから、今日、頑張ったのだ!
フラットの背に乗ってギルドに戻ったのは、午後四時半くらい。
「お帰りなさい、ナギさん」
ただいま~とカウンターに向かう。まだそれほど混み合ってはいない。
ここで出せる? と聞かれて首を振る。昨日より多いですと言えば、魔物は? と聞かれたのでたくさん、と答えた。それなら裏の解体場ね、と素材買取カウンターに声をかけたお姉さんは歩き出す。フラットにどうするかと聞けば、ここで寝てるというので一人で後を追った。
まずは獲物からだ、とムーンベアを次々取り出して行く。でも、途中で何頭あるのかと聞かれて、一番大きいのが一頭、次の大きさが二頭、中くらいのが十頭、小型が十八頭だと言えば全員が絶句した。
それなら小型のものだけ出してくれと言われた。クマの肉は食べられるのかと問えば、かなり美味いらしい。それなら小型の肉を一頭分欲しいと伝えた。毛皮や他の素材は買い取ってもらうことにした。それなら、一番大きな個体をここに出せと言われたので、ラスボスサイズをデデンとおいた。台の上じゃなくて地面に敷かれたシートの上にね。
解体場の人全員が引いた。この大きさは見たことがないらしい。
じゃあ、次は薬草と鉱石ねと言われたが、どこに出せばいいんだ?
それなら、と鑑定士が保管庫の前へ出してほしいと言う。その場に籠を置いてもらって中に出すことにした。その場で一つ一つ鑑定しながら保管庫へ入れるらしい。大変な作業ですね。
次々出すので、間に合わないようだけど、大丈夫かな?
「明日の予定はナギさん」
えっと、明日は家の契約がありますと答えれば、薬草採取も、落ち着いているらしい。
「それなら、明日は休みにしたいです。いいですか?」
もちろんよ、と笑顔で答えてくれる。最近休んでないからね、とウインクしてくれた。
できるだけアリオールを取り出して、木箱にルゴル鉱石を取り出したけど、半分も出せない。
残りは? と聞かれたので、これの倍くらいありますといえば、さすがね、とひと言だけ聞こえた。
じゃあ、明日の朝食後に残りを出すことにして、今日は終わりとなる。
『お待たせ、フラット』
『全部出せなかった?』
『その通り、無理だった。明日は休みにしたからね。家の契約もあるし、朝食後に薬草、鉱石、ムーンベアを出すことになった』
『なるほど。頑張ったから当然だね。じゃあ、ご飯?』
そうだね、ともう一度クリーンをかけてから食堂に向かった。
いつものように俺の帰りを告げるウエイトレスさんは、お肉を出してねとボウルを持ってきてくれる。そこに、オークのステーキ肉を二十枚取り出す。
どうやら、今日は頑張ったからお腹がすいたらしい。
お願いします、と頼んでから水をゴクゴク飲んだ。
足りなくなったけど、ウエイトレスさんが忙しそうなので、自分の持ってた水を取り出して二人で飲む。かなり喉が渇いてたんだ。ゆっくり休む間もなく、頑張ったから。
明日は家が自分たちのものになる。具体的にいろいろやってみたいことがあるんだけど、ハンマーや釘から買わなきゃね。ノコは風刃でカットするからいらないかな。とりあえず、内側を仕上げよう。この街の気候は良い。冬だといっても雪がチラチラするくらいで、あまり寒くはならない。でも、夏は暑い。まあ、日本の猛暑程ではないよ。夜になればかなり涼しくなるし。
床を張るかな。でも土間の方がいい場所もある。
やっぱり家と呼ぶなら床を少し上げて作ろう。その方が夏も涼しいし。床を風が通るようにしたい。冬はその穴は閉めたいよね。網とかあるのかな。金物屋さんってあるのか? 気がつけば全く街の商店を知らない事に驚く。これ、ヤバいじゃないか!
明日は、のんびりと街を歩いてみよう。
ギルドで聞けば教えてくれるだろうし。ドールーハに聞いても良いかもしれない。うん、大人に教えてもらおう。
ベッドでゴロゴロしながらフラットと話しをする。
「家はね、床を少し上げようと思ってる。だから、フラットも外から戻ったら脚を洗ってから入るんだよ。水の中をゆっくり歩いて、タオルの上で脚を拭くんだ。その後で部屋だ。その方が部屋がきれいだし。それとトイレは新しいのに交換するよ。お風呂もつけたい」
『お風呂?』
「うん。温かいお湯をためて、その中で身体を休めるんだ。俺のいた世界には温泉というものがあった。自然に地面から湧き出る熱いお湯だ。それを薄めて風呂にためる場所があったんだ。それぞれの家には普通の水を湧かして入れる風呂があったよ。そんなのを作りたい。フラットと一緒にお風呂に入りたいんだ」
『その風呂と言うものは、身体を休める為なの? 泳げない?』
「うーん、フラットが泳げる広さはないかな。今度、川とか泳げる場所があれば行ってみたいね」
行きたい! と言うので、次の目標は二人で泳ぎに行く事に決まった。
まずは、家。
俺の昔の知恵を絞って家を作る。魔法をたくさん使って便利に作れると思うんだ。
丈夫で便利、楽しい家にしたいな。
朝食の後、受付のお姉さんに呼ばれた。
約束通り、ムーンベアとアリオール、ルゴル鉱石を取りだした。また一杯になった、と肩を落とす職員さんたちに頭を下げる。
「いや、違うんだよ。頑張ってくれるのはありがたい。ただ、処理能力が追いつかないだけなんだ」
なるほど、そういうことか。
一応、俺も解体スキルはあるんだけど、自分たちで食べるものは自分で解体してもいいかもね。
お願いします、と頼んで解体場を出れば、ギルマスに呼ばれる。
「おはようございます、ギルマス」
「おはよう。昨日は大変だったみたいだな。どこで遭遇した?」
「朝早かったので、ちょうど出くわしたみたい。薬草と鉱石があるあたりの森の奥に洞窟があったみたいで、そこから出てきて群れてました。ちょうど岩山を回り込んだら目が合っちゃって」
あははは、と頭をかく。
「そういうことか。それでだけどな。今回、お前はCランクに昇格となる。薬草採取でかなりの実績がある。その上に、先日のオーク討伐、昨日のムーンベアの一掃。このままDランクな訳がない。前例がないから、中央ギルドに連絡を入れた。今までのことも含めて報告してたんだが、やっと今朝返事がきた。これほどの冒険者はすぐにでも昇格をさせよ、だと。まあ、六歳だからな、それだけが引っかかってたみたいだ。でも、これでお前はどこへ行っても問題ない冒険者だな。だが、すぐにはあちらこちらには行かれないぞ。まだ、六歳だからどこへ行っても森には入れない。それは変わらん」
はい、と頷けば、ギルドカードをとお姉さんが取りに来てくれた。
それにしても、と昨日の話で盛り上がる。
薬草もかなりの数らしいので、白金貨が出てくるぞ、と笑っているけど、それこそ六歳の子供に白金貨って。
でも、気になることを聞いてみる。
「あの、戦争っていつ頃まで続きそうなんですか?」
「そうだな、そろそろおわるだろう。どうした、薬草採取が減るからか?」
「違います。戦争があるから薬草採取が高額になるって、納得いかなくて。でも、ひとりでも助かるならと頑張ってきました。心の中では戦争が終わればいいのにとずっと思ってたので」
うむ、とギルマスも腕を組んでいる。
「戦争が終われば、雇われてた傭兵や冒険者が近くの国や街に入り込んでくる。それが一番の懸念事項だな。お前なんか、すぐに目をつけられそうだから気をつけろ。お前、自分が思ってるより可愛いんだからな。男でも女でもいいってやつは多いんだ。お前はそのターゲットになりかねん」
でも、六歳だよ?
「いや、そういう趣味のやつもいる。この街の冒険者や領民は優しいやつばかりだけど、戦争で戦ってたやつらは殺伐とした中で生きてただろ? だから癒やされたいと思う者、この際に金を稼ぎたいと思うやつとかいろいろだ。お前が一人暮らしをはじめる時にこんなタイミングで心配なんだ。ギルドの職員は皆心配してる。ドールーハとも話してた。お前の家はドールーハの店の方が近いから、時々顔を見せてやれよ」
はい、と頷いておいた。
どうやら、やっかいな事が起こりそうな予感だね。
家と家族は守りたいからね、俺は負けないよ。
Cランクと書かれたギルドカードを受け取って、この後、家の契約に行くぞと言われる。
もちろん、と嬉しさの余りにっこり笑顔になる。
じゃあ、行くか?
でも、ギルマスの仕事はいいのかな?
ちゃんと今日の為に、昨日まで仕事を頑張ってくれたらしい。ありがたい話だよ、本当に。
フラットと一緒に、購入予定の家に向かう。
お前一人でやるのか?
そう聞かれたけど、実際の所、六歳の俺がどれほど頑張っても限りがあると思っている。誰か職人さんを知らないかと聞けば、ギルマスの同い年の人たちに、大工や内装工事をする職人がいるそうだ。その他にもろいろいるらしく、水関係は配管ができる人もいると聞いた。それなら、聞いてみたいことがある。
よかったら手伝わせてくれ。日当も安く話しをつける。
そう言ってくれたので、会いたいと言えば、今日昼からあけておくように連絡済みだと笑う。ギルマスって、お父さんというよりもお兄ちゃんって感じだね。歳はずっと離れてるけど。っていくつなのかな、ギルマスは。
家の前では既にヨールさんが待っていた。
「おはようございます、ナギさん。今日はよろしくお願いします」
こちらこそ、と頭を下げた。
では、と馬小屋の中に入って、契約することになる。テーブルもないな、と思っていれば小さなテーブルと椅子が三脚出てきた。
おお、アイテムボックスかな。
それじゃあ、と境界線は塀の通り。水は井戸。排水は下水に繋ぎ込んである。などなど、いろいろと確認していった。
倉庫の資材込みで倉庫を含む土地全体を購入する。値段は金貨十二枚。
これからも友人としてお付き合いをしてもらいたいと付け加えてあった。まあ、契約とは関係ないんですがと笑うヨールさんは誠実だ。
「ここに、父のサインは入っております。そして地番がこれですので。あと、敷地図は中央の役所にこれと同じ物が置かれていますが、それは既にナギさんの名義に変わっていますので確認を」
え? まだお金払ってないけど?
本当だ、所有者ナギとなってる!
嬉しいなぁ。ギルマスも一緒に確認してくれたんだけど、全く問題ない契約書だ。じゃあ、と買い主のところにナギと書いた。住所は? と聞けばギルドの住所を教えてくれた。
保証人ってあるけど、と顔を上げれば、俺がなるぞ、とギルマスがサラサラとサインしてくれる。
ギルマスって、マーレ・コクトーっていうんだね。って貴族? と思わず聞いてしまった。
「いや、貴族じゃない。ただ、SSランク冒険者だったから、国王から名字をもらっただけだ」
笑ってるけど、すごいことでしょ、それ。
「ギルマスは若いときからSSランカーとしてやってこられましたからね。偶然、大型のオーガと一人で戦うことになって。それで大きなケガをして、引退したんですよ」
そうなの? 身体は大丈夫? と聞いてしまった。踏み込みすぎだろ、俺。
「ああ。全く問題ない。ただ、とっさの判断ができるかどうかはわからん。治ってからもしばらく続けてた冒険者だったが、自分では大丈夫と思っても、他の人間に迷惑かけることになれば大変だ。それで一応引退した。その時、国からギルマスにと打診されたんだ。なんだか丸め込まれた気もするが、何かあってからじゃ遅いからな」
なるほど、と頷いた。
それほどの腕の人でも不安になることがあるんだ。だから俺のことも心配してくれるんだな。ありがたい。
お金を払って、互いに契約書を一枚ずつ持ち、役所に出すものも一枚、合計三枚の契約書を作成して、金貨十二枚の受け取りをもらって契約は終了した。
「いつから工事を? わからないことがあればいつでも聞いて下さいね」
礼をいい、今日から動き始めると伝えておく。ギルマスの知り合いで職人さんがいるらしいので、手伝ってもらうと言えば、それがいいでしょうねと笑って戻って行った。
俺の手にはそれぞれの鍵が三本ずつ置かれている。塀にあるドアの鍵が二カ所、倉庫の鍵、馬小屋の鍵が二種類。
うん、何かつけないとわからなくなりそうだね。
それなら、と各一本ずつをギルマスに持ってもらうことにした。
なぜ、と聞かれて何かあったときには許可なく入っていいですからと伝えておく。俺が長期の依頼で出かけるときとか、熱が出て動けないときとか。なにより、防犯の意味でもギルマスに持ってもらいたいんだ、保証人だしね。でも、酒を飲んで勝手に入って寝るのは禁止だよと言えば、残念、と返ってきた。何考えてんだろうね、この人は。
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