朝起きると南雲くんは既に仕事に行っていた。これから1週間も合わないんだから今日ぐらい起こしてくれても良かったのに、そう考えながら広い家を見渡す。
2人でも広いこの家は1人だと寂しく感じる。南雲くんはいつもこんな気持ちだったのかな?それとも慣れてるのかな?…
「慣れちゃいけない物だね」
帰ってきたら綺麗な家に美味しいご飯作って待っててあげよ。
そのために有給も取りたいな〜、今日相談してみよ。
「いい返事が来るといいな」
そう言い私は家を出て仕事に向かう。
「黒川さ〜ん 、再来週の木曜日空いてる? 」
いつも通り休憩室で昼ごはん食べながら齋藤さんと喋る。
「空いてますよ」
「じゃあさぁ!殺し屋展示会行こ!!」
“殺し屋”その一言で食べていた昼ごはんを喉に詰まらせそうなほど驚いた。もちろん齋藤さんの口から殺し屋って単語が出たのも驚いたが1番は人を殺すのが職業である殺し屋を展示してそれを公の場で公開していることに驚いた。
「お父さんがチケット2枚くれたんだ〜だから黒川さんが良かったら一緒に行かない?」
「行きましょ!」
「お父さんこれの為に2年前から予約してたんだって笑、面白いよね」
そう言いながら齋藤さんは殺し屋展示会のホームページを見せてくれた。そこには
〝次のチケットは6年待ち〟そう書かれていた。
「本当に一緒に行く人私でいいんですか?」
「私さぁ〜親が偉いとこの役員だからお金目的で近づいてきた人達いっぱい居たの。でも黒川さんだけは家柄に関係なく私と仲良くしてくれたの」
前々から齋藤さんが裕福な家庭に育ったって聞いていたが詳細までは気になっていなかったし聞こうともしていなかったのが齋藤さんにとって“お金じゃなくて私を見てくれてる”そう思われていた。
「ごめんね〜空気悪くしちゃったよね」
「全然、友達だから家柄とか気にしませんよ」
私も齋藤さんの期待に応えようと“友達”そう呼んでみた。何も返事をしない齋藤さんにもしかして不愉快だったかな?なんって考えながら齋藤さんの方を見ると、まるで宝物を見つけた子供みたいに目をキラキラさせて
「友達…?、そう友達!!!」
と興奮した様子で再び話し始めた。
2人で休憩時間が終わるまで色んな話題の話をしてそれぞれの仕事に向かった。友達ってことで敬語じゃなくてタメ語で話すように言われたし、苗字呼びも禁止にされたけど嬉しかった。
引っ込み思案の私は昔から友達ができなくて、子供の頃はいつも1人で遊んでた。齋藤さんにとって私は自分を見てくれた人。私にとって齋藤さんは大切な友達。
まさか大人になったこの時に友達ができるとは思っていなかった。
予定より仕事が長引いてしまい時刻はとっくに12時をすぎている。私が受け持っていた患者さんの容態が急激に悪化し緊急手術が必要になった。手術には家族の同意が必要な為お子さんに電話し急遽病院に来てもらった。幸い手術は上手く行っ た。その後も緊急要請などがあり、昼から何も食べれていない私は限界突破していた
「未来〜、はいこれ!」
そう言いおにぎり3つとスポーツドリンクを差し出してきた。
「えっ?いいの?」
「うん、私もさっき食べてきたから未来も食べてきな!」
「ありがとう〜」
利津から貰ったおにぎりとドリンクを持って休憩室に行く。
食べ終え休憩室を出て数分作業をした後私は夜勤の方と代わり病院を出た。
外は人通りが少なくなってきていてどこから不気味さもあった。
病院から少し離れた位置にあるタクシー乗り場で待っていると後ろから伸びてきた手によって身動きができなくなった。反射的に瞑ってしまった目を開け状況を見る。口元にはハンカチ。そして後ろに人。急いで後ろの人を投げようとしたが手に力が入らない。続いて足にも力が入らなくなってきた。目を開けてハンカチを見た瞬間に息を止めたが間に合わなかったみたい。
徐々に薄れていく意識の中でこの匂いは人体に影響の無い強力な睡眠剤と理解したのを最後に意識を失った。
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