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「レオン。私、心当たりがあるの。この場の後処理とお客様の対応、任せてもいい?」
「もちろん」
レオンはすぐに頷いた。
「フローラは、もし怪我人がいたら手当をお願いね!」
「はいっ、お姉様!」
そして私は、アレクに声をかけた。
「アレク、ついてきて!」
「……ああ」
***
私が向かったのは、学院の飼育棟だった。
ドアをノックすると、中から黒ぶち眼鏡をかけた、小太りで温厚そうな教師が顔を出した。
その腕には、身体の一部が霧のように消えたり現れたりするミストキャットが抱えられている。
「おや、ウィステリア伯爵令嬢に、ベルシュタイン公爵? まだ文化祭の最中では?」
「先生! コットン・キャンディ・シープのおやつクッキーの仕入れ先は!?」
「え? ハーレー商会だよ。学院の魔獣の餌は基本的に全部そこから仕入れているんだ」
教師は不思議そうに首を傾げたあと、ふと思い出したように続けた。
「……そういえば、今日は追加納品の日だったな。ちょうど今頃、裏門に荷馬車が来ているはずだが」
「ありがとうございます!」
私とアレクは、すぐさま裏門へ向かって走り出した。
***
裏門には、教師の言葉通り、荷物を積んだ馬車が止まっていた。
一人の作業員が、魔獣の餌が入った木箱をせっせと積み下ろしている。
「ちょっと聞きたいのだけれど! 昨日、コットン・キャンディ・シープのおやつクッキーを納品したのはあなたかしら!?」
息を切らせて尋ねると、作業員は驚いたように顔を上げた。
「いや、俺じゃねえ。昨日の担当は別の奴だ。……ほら、あそこにいる」
作業員は少し離れた場所を指差した。
その先には、木箱を抱えて飼育棟へ歩いていく、一人の男の背中があった。
「そこのあなた!」
私が声をかけた瞬間、男の肩がビクッと跳ねた。こちらを振り返り、私とアレクの姿を確認する。次の瞬間。男は抱えていた箱を放り出し、逃げ出した。
「待ちなさい……!」
男が逃げ込んだのは、学院の屋上へと続く非常階段だった。
カン、カン、と金属の足音が高く響く。
私とアレクは、その後を追って階段を駆け上がった。
息が切れ、足がもつれそうになる。それでも、ここで逃がすわけにはいかない。
階段を上りきり、ようやく屋上へ辿り着いた。
屋上の中央で、男が足を止める。
逃げ場を失ったはずの男は、怯えるどころか、不気味にニヤリと唇を歪めた。
「はあ、はあ……! クッキーに魔力増強剤を仕込んだのは、あんたね!?」
私が息を切らせて問い詰めると、男は狂ったように笑い出した。
「あははははっ! いい気になるなよ、伯爵令嬢」
狂ったような笑い声が、屋上に響く。
男は不気味に目を細め、言い放つ。
「『あの方』の目は、どこにでもある……!」
「あの方……?」
男が懐から取り出したのは、赤黒く妖しく光る魔石だった。
アレクの表情が変わる。
「まずい」
次の瞬間、男はその魔石を屋上の床へ叩きつけた。
「伏せろ!」
アレクの腕が、私の腰に回る。そのまま強く抱き寄せられた。
赤黒い炎の障壁が、一瞬、私の目の前に広がった。
――バーンッ!!!
鼓膜を破らんばかりの爆音が響き、視界が真っ白に染まる。
(え、ちょっと待って、これ――)
私の意識は、そこでぷつりと途絶えた。