テラーノベル
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「バイオレッタ、バイオレッタ! しっかりしろ!」
次に目を覚ました時、視界に飛び込んできたのは白い天井だった。
学院の保健室だ。
傍らには、軍服の上半身が裂け、肩や腕から血を流したアレク。
そして、涙目で私を覗き込むフローラの姿があった。
「お姉様っ……!」
「……フローラ?」
「よかったですっ……」
フローラが今にも泣き出しそうな顔で、私の手を握りしめている。アレクは、苦々しく顔を歪めた。
「まさか、自爆魔石を使うとはな……」
「自爆魔石……?」
彼が言うには、あの男は最初から私たちを巻き込んで自爆するつもりだったらしい。
攻撃魔法を封じた自爆魔石が炸裂した瞬間、アレクが咄嗟に、強力な闇魔法を展開して攻撃を相殺してくれたらしい。けれど、その凄まじい衝撃波までは殺しきれず、私は吹き飛ばされ、気絶してしまったという。
「……あの男は?」
私が尋ねると、アレクの目が険しくなった。
「死んだ。奴の足首には、例の毒事件の犯人と同じ『黒い山羊(バフォメット)』の刻印があった」
「……っ」
(やはり、ベラドンナ──つまり現王妃と裏で繋がっているんだわ……!)
ちなみに、爆発のせいで学院の屋上は完全に瓦礫の山と化し、しばらく立ち入り禁止になったという。
(文化祭中に屋上爆破って、もう事故報告書どころの話じゃないわ……!)
「お姉様、大丈夫ですか……っ?」
「ええ、私は大丈夫よ。この通り、ぴんぴんしてるわ」
私は上体を起こして見せた。
フローラがホッとしたように胸をなでおろす。
対して、アレクは拳を握りしめ、痛々しいほどしゅんと肩を落としていた。
「……俺がいながら、お前を守りきれなかった」
あまりにも落ち込んでいるので、私は思わずベッドから手を伸ばし、彼の頭を軽くポンポンと撫でた。
「十分よ。あんたが守ってくれなかったら、私、今頃死んでたわよ」
「……」
「それより、そんな怪我して……ちゃんと治療してもらいなさい」
「……何もしなくてもすぐ治る」
「だめよ。ちゃんと治療してもらいなさい。これは責任者としての命令よ」
「……」
その時、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
勢いよく扉が開き、レオンが飛び込んでくる。その背後には、白衣を着た初老の男性を伴っていた。
「バイオレッタ! 大丈夫!?」
私たちが怪我をしたと聞きつけ、なんと王室の侍医を緊急テレポートで連れてきてくれたらしい。
(さすが王子……相変わらず行動力のスケールが大きすぎるわね)
「まず、どちらの方から診察を?」
困惑気味の侍医が尋ねる。私はベッドの上で即答した。
「アレクが先。私より、明らかに重症よ」
「俺は平気だ」
「これは命令よ!」
私がピシャリと言うと、アレクはしぶしぶ、侍医の前に身を差し出した。
侍医はアレクの体を慎重に診察し――。
やがて、信じられないものを見るように顔を青ざめさせた。
「……こ、これは、なかなかの重症ですぞ……!」
保健室に、緊張が走る。
「腕と肩の深い裂傷もさることながら……肋骨が二本も折れております! さらに、右手と右足の骨にもヒビが入っている。普通なら、激痛で立っていることすら不可能なはずですぞ!」
「ちょっと……!」
私は思わずベッドから身を乗り出して叫んだ。
「なんでそんな大事なこと、黙ってるのよ!?」
対するアレクは、ふいと気まずそうに視線を逸らした。
「……お前に、余計な心配をかけたくなかった」
「はあ、もう……! バカね、あんたは!」
呆れ果てて、私はフローラを振り返った。
「フローラ、今お医者様が言ったところ、全力で治癒してあげて!」
フローラは、アレクをジロリと睨みつけた。
「……これはお姉様のためですからねっ!」
「……フン」
フローラが両手をかざすと、翡翠色の光がアレクの身体を包み込んでいく。
「これほど深い傷や骨折は、すぐに元通りにはできません。でも、痛みと炎症を抑えて、回復を早めることはできます!」
フローラは傷口を薬草液で消毒し、手際よく包帯を巻いた。さらに右手と右足を固定具で動かないようにしてから、真剣な顔で告げる。
「しばらくは絶対安静ですからね!」
「……」
アレクは不満そうだったが、反論はしなかった。
続いて、侍医が私を診察する。
「お嬢様の方は、軽い脳震盪ですな。今日一日は安静にしていれば問題ありません」
侍医が去ったとたん──
レオンがパチンと指を鳴らした。空間が歪む。王宮の厨房から直接テレポートされてきたのは、湯気の立つお粥だった。
「じゃあ今日は、僕がバイオレッタにご飯を食べさせてあげるよ」
レオンはキラキラした笑顔でスプーンを持った。
「はい、あーん?」
「いらないわよ」
私は即座に拒否した。
「代わりに、あんたが『あーん』してあげるべき人は、そこにいるでしょ」
私はアレクを指差した。
「アレクは右手が使えないんだから」
「えっ!?」
レオンの顔が引きつった。
間髪入れずに、フローラが私に抱きついてくる。
「お姉様のお世話は、私がします! 食事も、身支度も、ぜーんぶお任せくださいねっ!」
「え、ええ……ありがとう、フローラ」
フローラが私を独占する中、部屋の隅から、凍りつくような殺気が立ち込めた。
右手を固定されたアレクが、般若のような顔でレオンを睨みつけている。
レオンの顔から、さーっと血の気が引いた。
「あ、はは……。じゃあ、アレク……」
レオンは震える手でスプーンを持ち、アレクの前へ差し出した。
「あ、あーん……?」
「……殺すぞ」
「ケガ人が言う台詞じゃないよね!?」
こうして保健室には、右手を固定されたアレクに、冷や汗を流すレオンが恐る恐るお粥を食べさせるという、王国史上もっとも気まずい「あーん」が爆誕したのだった。
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