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初日から今日までいろいろとありすぎてパニックになっていたがようやく落ち着いた学院生活になってきた。
季節は冬になろうとしていた、肌を刺激する冷たい風が吹いている。幸い獣人は自身の毛があるからある程度耐えられるが人間はそうはいかない。
講堂は換気という理由で窓が全開になっている、今日は風が強いせいで寒く授業に集中しずらい。
「今回はアビリティについてでも話しましょうかねぇ」
生徒が寒がっているというのにそれを無視して授業をし始めるミンク教官。
アビリティについてはアシュトン様の件以来自分も気になり始め図書館などで調べていた。
セトが言った通りアビリティというものはその人の中に眠っているその人だけの特別な魔法。
なおアビリティを持っているのは魔力を持つものだけ、技によっては魔力の消費が多く命を落とした例もあるのだとか。強い能力であるほど反動も強い、それがアビリティだ。
「はい、ではここに白骨化した頭部があります」
いきなり何をいうんだこの教官は。そんなものを取り出すのだから講堂はざわつきでうるさくなる。
「お、落ち着いてください、これ自体は私がやったわけではないですよ!この学院に保管されているものを持ってきただけです!」
でもミンク教官って一応学長なんだよね?ていうことはやっぱり……。
「見ていてくださいね?」ミンク教官は骸骨に手を当てて魔法陣を展開した。
何をするのだろうと思った瞬間、頭が真っ白、いや視界ごと真っ白になり映像が流れ始めた。
(なんだ、これ、誰かが戦ってる?)
見えた光景は知らない人が戦っている映像だった。触れようとしても干渉できないし足を動かすこともできない。まさか、これが教官のアビリティ?
けれどなんということだろう、開始数分も経てばその人は殺された。唐突すぎるが考察するならその人が死んだ理由を簡潔に映像として映し出すものということになるか。
まるで映画かのように終わったかと思えば真っ暗になり気づけば現実に戻っていた。
「なぁセト、今のって……」
隣に座っていたセトに話しかける。
「アラドもみてた?あの光景」
「あぁ……」
どうやらここにいたもの全員があの光景をみていたみたいだ。
「はいっ今みなさんに私の能力でこの方の過去を共有しました」
簡単にいうけどそれって結構すごいことだよな……。
「アビリティを習得する方法はあるのか?」
ニルが質問する。
「基本的には自ら習得しようとはできません。時に例外もいますが普通は感情の起伏が大事になります、例えば自分はこうなりたい、などの揺るぐことのない強い意志を持った時覚醒したりすることがありますね」
ミンク教官は話を続ける。
「よくあるのはその時偶然使えてそれ以降全く使えないなんてことがあります、そこは他の通常魔法同様特訓すれば自分の意志でコントロールできるようになってきます……」
みんな真剣に聞いていた、いつもは寝るやつもいるのに、こういう話になると極端に真面目になる奴らは少なくない。
「教官殿!今帰りましたぞ!」
バンっ!と勢い良くドアが開いた、入ってきたのは威勢のよさそうな獅子獣人だ。
「お帰りなさい、シリウス君、今授業中ですので後にしてくださいね」
「わかりました!」
あれ、意外に言うことは聞くタイプなんだ、人は見た目で判断しちゃいかんな。
「僕もアビリティが使えるようになりたいなぁ」
数日はアビリティの話で暇な時間がなくなりそうだ。午後の授業が始まろうとしているがセトもオスカーもアビリティの話で盛り上がっている。
そういえば俺が入学した理由はこのアビリティが関与しているんだったか。
時を操る、空間を歪ませるなんて能力、俺に本当にあるのか?
「おっし、授業はじめんぞ~今日は特別ゲストもいるぜ」
「がっはっは!後輩どもよ!このシリウス先輩がきてやったぞ!」
来たのはさっき講義中にいきなりでてきた獅子獣人だ。名はシリウスというみたいだ覚えておくとしよう。
テストも近くなったということで本格的に体術をやらないとマズいのだとか、カリキュラム通りにやっておけばいいものをその日の気分で科目を変えるから……。
まぁそんなことは考えなくてよくて、今回は実践訓練ということで実力が同程度の奴と組み手をするということになっている。
俺らが組み手をやる中強すぎるという理由ではぶかれている者が二名、ニルとカイルだ。
どっちの方が強いのか気になるな……。
「むっ?お前らはやらんのか?」
「こいつらでは相手にならんからな、やる意味がない」
「王子……舐めプはやめといた方が……」
「舐めプなどではない、事実だ、貴様もすぐに捻りつぶせるぞ」
「そうかそうか!そんなに強いのか!ならばワシと戦え!」
突然の提案にカイルはすこし驚いた。ニルは鼻で笑いながら「いいだろう」と余裕がありそうだ。
「ちょ、ちょっと待て!ダメだ!シリウスに勝てるはずがないだろう!?」
ニルも相当な強さを持っているはずだがシリウス先輩はそれ以上に強いのか、ますます気になってきた。隙をみて俺は教官に話しかけた。
「シリウス先輩ってそんなに強いんですか……?」
「強いってもんじゃない、あいつのアビリティは……」
どうやら強さの秘訣はアビリティにあるみたいだ。
「ふん、勝てないなど言葉でなら何とでもいえるだろう?」
しばらく教官は考えていた。
「いいじゃないか!教官、ワシも王子も戦いたくてうずうずしているのだ!」
「わかった、じゃあニルとカイルが戦い勝った方にシリウスと戦う権利をやる」
「いや、僕は戦うつもりは……」
察しろと言うかのように教官はカイルを睨む、そういえばニルより強いと言っていたか。
つまりニルでは相手にならないだろうからカイルと戦わせて負けさせて諦めてもらおうという魂胆か。カイルはそれを察してしぶしぶ「わかりました」と了承した。
「そんなことをする意味があるのか?相手は人間だぞ、俺を舐めているのか?」
「まぁまぁ、いいじゃないか、ということで、始め!」
合図とともに二人は間合いをとり睨みあう。先に動いたのはニルだった。
見えない、素人には到底目でおうことができないスピードだ。風を切っていくスピードにカイルはしっかりと対応している、なんなら反撃せず避けることしかしない。
「避けてばかりでは勝てんぞ!」
「当たらなければ負けることもないね」
「むっ……あやつ、まるで未来を見ているかのような行動をしているな……」
確かにカイルはニルの行動する一歩前ですでに行動をしている、もしニルが気づいているなら軌道を変えられるはずだ、なのに。
「くそ!なぜこれだけして攻撃が当たらない!」
「あなたがもっと速い行動しない限り敗北するのは貴方だ、少しでもスキがあるかぎり僕に攻撃を与えることはできない」
あれ以上にどうスピードを上げるんだよ、無理だろ。
ニルも相当な強者なはずだ、しかしカイルがそれを圧倒している。カイル、どれだけ強いんだあんた……。
ていうか攻撃するつもりでいるけど捕まえれば終わりなんだよね、こいつらルール聞いてなくね?
「じゃぁ、反撃するね」
カイルは瞬時にニルの背後に移動した。そのまま腹に拳を突く。
「うぐぁ!?」
ニルの苦しそうな声が聞こえる。ニルは痛みに悶え地面に膝をついてしまった。
「そこまで!カイルの勝ちだ」
納得いかん、と立ち上がろうとする、なぜそこまでして勝つことにこだわろうとするのかな。
「ではお前がワシと戦うのだな!」
わくわくとしてそうなシリウス先輩とあまりやる気のないカイルの戦いが始まる。
「はぁ、手加減してやれよ、シリウス……」
「わかっておる!では行くぞ!」
手加減しなければならないほどシリウス先輩は強いのか!?ニルを圧倒したカイルより!?
「…………!?」
カイルはいきなり突っ込んできたシリウスに遅れをとった、先ほどのように余裕のある回避はできていない。余裕の回避ではなく、できて回避であり攻撃はできそうにない。
「はっはっはっ!この動きについてこれるとはなかなかだな!ならもう少し力を使うとしよう!」
「…………やらせない……!」
何かいいかけたシリウス先輩を全力で阻止しようとするカイル、なぜ何も言わせないようにしているのか?
「むっ、俺の能力をわかっているのか、しかし残念だったな!もう遅いぞ!」
(……はっ!?)
言葉とともにカイルの背後からもう一人のシリウス先輩が現れる。これがシリウス先輩のアビリティなのか……?
「予想済み……!」
しかしわかっていたのかカイルはサンドイッチにされていたところをすぐに横へと抜けた。
「貴様の能力はなんとなくわかっておるぞ!それも罠だ!」
「うわっ!?」
カイルは後ろからまた現れたシリウス先輩にがっちりと体を掴まれた。抵抗しようとも人間と獣人では根本的な力の差がありすぎる、そのためカイルは何もできず掴まれたままだった。
「最初から、分身だったってこと……」
「そういうことだ!しかしあれを対策されたときは少し焦ったぞ、保険をかけといてよかったわ」
「な、なにがなんだかわからない……」
ここにいるもの全員がそう思ったであろう、分身してるシリウス先輩にみんな釘付けだったのだと思う。
「シリウスはな、分身を作れるんだ、しかも本体も分身体も弱体化したりしない完全なコピーなんだ」
なるほど、最強といわれる理由がよくわかった。しかしそれに対抗できたカイルもなかなかなものだろう。ていうか、この一瞬でインフレがすさまじいな……。
最初はニルが強いと脳に焼き付いていたのにそのニルがカイルにボコされカイルの方が強いんだなとなっていたのに。
そのカイルがシリウス先輩に手も足も出せずにやられたのだ。上には上がいるというがいきなりここまでの強さの度への上がり方がおかしい。
こんなの見ちゃったら強くなりたいと思って頑張ってた子がやる気なくしちゃうんじゃ?
「シリウス先輩、すごかったよなぁ!カイルを圧倒しちまうんだぜ!?」
さっきまでのアビリティの話はどこへやら、すっかりシリウス先輩とカイルの戦いの話に切り替わっていた。ニルもすごかったよ、そういうとオスカーは。
「そうかぁ?調子乗ってたし、ざまあみろとしか思わなかったな」
絶対にニルの奴、プライドを傷つけられて落ち込んでるだろ…………。
さて、午後の授業が終わりまして、いつもの暇な自由時間がやってまいりました。最近はカイルとオスカーに鬼畜の筋トレをさせられ全身筋肉痛だ。しかし、それで疲れて休んでいるとセトが僕に構えといわんばかりにこっちを見てくる、はっきりいって全員を相手する余裕はない。
「あっ、インク切れた……」
テストが近づいてきたため、今日まで無視してきた勉強をすることにしていた。座学、実技のどちらもだ。
実技はなんとなくやる内容がわかるが座学は一切わからん、おそらく歴史的分野が主体になると思われるためそこを中心にやっていた。
でもなんということか、勉強をして早数十分、ペンのインクが切れてしまったのだ!
人というものは勉強できる環境が完璧でないと勉強意欲はなくなっていくのだ。今ここで切れたということは神から勉強をやめるべきというお告げ……!じゃ、今すぐやめるか、とはいかない。
今バックを確認したら予備のインクが全てなくなっていた、これは買いにいくしかないな。
「おっ、購買にいくのか」
購買に行こうとした俺を引き留めてきたオスカー、多分買い物を押し付けるつもりだな。
「オスカーの注文は受け付けないからな」
「なんだよ~ケチっ」
なんて言おうとダメだ。オスカーを冷たく突き放し購買に向かった。
何気に初めて来る購買、食物品から生活用品まで幅広く売られている、とても便利だ。
食品もみたいが、お金があるかといったらそうではない。とりあえず目的のものを買うとしよう。
「あっ、シリウス先輩」
全体的に商品が安く、替えのインクも多く買え満足しながら自室に戻ろうとしていたとき、入り口付近で何かをじっくりとみているシリウス先輩を見つけた。
「ん?お前は……待て今思い出す」
俺の名前、教えたことないんだけど。
名前を思い出すために真剣に考え始めてしまった先輩、答えを出してもよかったのだが「言うな」の一点張りで一向に進まなかった。
「思い出したぞ!アラドだな!」
「教えた記憶ないんですが」
「後輩の名前を覚えるのも先輩の役目だろう?」
さっきまで自室で一年の名簿を見て名前を覚えようとしていたんだとか。もっと他にやることあるだろ……。
「それより、何みてたんですか」
「あぁ、これを見よ」
指された方向には不思議な形をした果物が。表面は黒いが少し紫がかっている、蔕の形が歪だ。
「この珍妙なフルーツを買おうか迷っているのだ」
商品名の書いてある札とかないのかよ……。
「変なもの買ってお腹壊してもしりませんよ」
「ワシの腹は強いから大丈夫だ!やはりこういうのは冒険してみなくてはな!買うとしよう!」
勢いで買ってしまった危なそうなフルーツ。シリウス先輩はどう食べるのかと興味深くみていた。
あの場で話しかけなければよかったと、俺は後悔している。
「お前も食べるだろう?」とシリウス先輩は勧誘ではなく明らかに強制の意味でそう問いかけてきた、後輩という理由もあり断ることができず嫌々一緒に食べることになった。
「よーしっ!食べようではないか!」
自室につき例の果実をまじまじと見る。やっぱ食べたくねぇ……色がもうダメだと悟ってるよ。
「半分にしなくてはな……ふんっ!」
ナイフも使わずに半分にしようとすんなよ!粉々になったらどうしてくれるんだ!
おとなしくナイフを持ってこればいいのにシリウス先輩は待ちきれないのか素手で強引に果実を真っ二つにしようとした。これが本当の脳筋プレイヤーというものである。
素手で強引に割った果実は予想通り真っ二つにはならず大きさに差がでてしまった。
「…………ほれっ」何も言わず小さいほうを笑顔でこっちに渡してきやがった……。まぁいいだろう、買ったのは俺じゃないし。
割った中身をみると白い物体がいくつかあった、これを食べればよいのだろうか。
「実食だっ!」
あっ、そのまま食べちゃった……。
バクっ!という効果音がみえそうな程小さい果実に対して豪快に食べた、しかし。恐らく皮だと思われるものごと先輩は謎の黒い果実を食べてしまった。
自分はおとなしくこの白い物だけたべるとしよう。
『うまっ!』
小さいし黒いと、見た目は最悪だったのだが食べてみるとしっとりとした感触と濃厚な甘さが口に広がった、わずかな酸味が無駄な甘さを消しさっぱりさせてくれる。しかし口の中ですぐにとろけてその味はなくなってしまう。それにより食べるものにもう一度食べたいという感情を増幅させてくる。
「やはり試してみるものだな!甘さと苦味がうまく調和されておる!しかし、名はなんというのだろうな?」
皮は苦かったってことか……まぁ本人がそれでもおいしいというなら。
「聞かなかったんですか……」
「忘れておったのだ……」
肝心なところ抜けてるタイプだな、この先輩……。
満足感に包まれながら先輩の部屋を出た。あの果実は機会があればまた買うとしよう。
息抜きもできたことだし勉強を再開しようか。自室へと向かおうと歩きはじめた。
「あっ、ニル……王子」
「む、なんだ貴様か」
廊下に一人、彼は外をみていた。気持ち顔が暗いように見える。
これ完全に落ち込んでるやつやな……。
「落ち込んでんのか?」
「ち、違うわ!俺があんなことで落ち込むはずがないだろう!」
強がりめ、おとなしく見下してた人間に手も足もでずやられたことに落ち込んでいたと話してくれてもいいのに。
「落ち込むなって!ニルだって充分強いぞ!」
「だから落ち込んでいないと言っているだろう!人のことを言える暇があったら自分の心配をした方がいいのではないか?」
なんだよ、せっかくフォローしてやったのに。
「うるせぇ……余計なお世話だ」
「要がないなら失せろ」
「はいはい!平民は消えますよ~」
いつか絶対に見返してやるから覚悟しろ、そう決意して俺は走り去った。
「う~ん、やっぱ自発的には難しいかなぁ」
「セト、めずらしく体動かしてたよな」
夕食で人々が賑わう一階ホール。セトとオスカー、俺の三人でいつものように食べていた。
今日はアビリティのこともありセトが珍しく体を動かしていた。
いきなり「はぁぁぁぁ!」って声を上げたときは覚醒したのかとビックリした。
「だって、自分のアビリティがどんなものか気になるじゃん!」
「期待してしょぼかったらどうすんだよ、あんま焦んなよ」
「俺もそう思うぞセト、今考えるものじゃないぞ」
文句がありそうながらも正論をぶち込まれたことに何も言い返せず黙りこむセトであった。
「隣、いい?」
横から話しかけてきたのはカイルだ、どうやら他に席がなかったみたいだ。
「おっ!カイルじゃねぇか!今日のシリウス先輩との戦いすごかったぜ!」
「あれは、相性が悪かった……」
「おっ、いいわけか?」
「違うもん、僕のアビリティとあの先輩のアビリティの相性が悪かったんだもん」
不機嫌になってしまったカイルは口を利かず黙々とご飯を食べて去ってしまった。
カイル、初めてのときは怖そうな奴だったけど意外に可愛い子供なところがあるかも?
夕食後、風呂に入ろうとしていたのだがセトもオスカーも。
「汗掻いたから先に入っちゃった」といってきて別の人を誘うことにした。
一人で入ればいいのだが、誰かと入浴するのが毎日の楽しみになってきている。別に変な意味はない、ただ裸の関係でしか話せないことだってあるからな!
「まさか誘ってもらえるとは思いませんでしたよ」
はい、本日私が風呂に誘ったのはラタール学院の教官にして学長、ミンク教官です。
彼の体を見るのは初めてだ、ウォーロック教官ほどの筋肉はない、けれどそれぞれの部位に無駄のない程度に筋肉がついている。普段眼鏡をつけているため外している姿も新鮮だ。
「まさか来てもらえると思いませんでしたよ、あははっ……」
もちろん、体をみるためとか、ただ寂しいからとかそういう理由で教官を誘ったわけではないぞ。
「この前アシュトン様から聞いたんですけど、俺が入学できた理由にアビリティにあるって」
「私も聞いたときビックリしましたよ、時空を操れるなんて前例がないんですよ、なのでここで守りつつ育てて覚醒させようという結論に至ったわけです」
「えっ、守るってどういう……それと覚醒するかもわかりませんし」
「もし覚醒した際、貴方の能力は全ての国から求められるでしょう、そうなっては貴方の身が危ないですからね。大丈夫です、覚醒しないからと強制退学させたりなんかしませんよ、ゆっくり見ていくとしましょう」
私はそろそろ上がるとします、そういってミンク教官は行ってしまった。
俺はみんなみたいに才能のある存在になれるかな?
自室に戻るともう照明は消されていた、明日も早いしもう寝るとしよう。
「おやすみ、二人とも」
「すまん!今日は授業できねぇ!個々で自習にしてくれ!」
今日の授業はいつもより活気に満ち溢れていた、アビリティの話があってからというものの生徒たちはアビリティを獲得するために必死になる者が多いのだ。
しかし突如放たれる教官の自習宣言、教官には生徒からのブーイングの嵐。
「うるさい!俺だって忙しいんだ!」
ブーイングの飛び交う中、俺らはじっくり話し合っていた。
「なぁなぁ、何があると思う?」
「ミンク教官との打ち合わせとか?」
「あの教官は授業中に呼び出すような人じゃないだろ、そんなことはいいから組み手でもしようぜ?」
考えても仕方ないか。
三人で組み手をしながら数分、俺はあることに気づいた。
オスカーのズボンの尻の部分が破けているとかそれを見たセトが釘付けになって集中できてないとかそういうのではない。カイルがいないのだ、フードをかぶっているため視界に入りやすいのだが明らかにその姿はない。
まぁあいつ強いし自室に戻ったりして別のことしてそうではあるが、授業を抜け出すような奴ではないだろうから、やはりおかしい。
ここで名探偵アラドは考えました、唐突な自習宣言で消えた教官、それに合わせるかのように消えたカイル……これはやはり事件の予感……!
そうとなれば調査しなくては!
「悪い、ちょっと自室に忘れ物してきた」
「そうなの?教官にバレないようにね」
よし、いい口実が正直思いつかなくて自室に忘れ物っていうことにしといたけど、こいつらが勘の悪いガキで助かったぜ。俺は一人で寮へ戻ることにした。
ミンク教官と話あっているなら今この空間には誰もいないはずだから何も怯える必要はないはずだ。例えそうでなくてもあの人は授業が終われば自分の部屋でずっと作業をしてそうであるから教官に見つかることはないだろう。
一応警戒しつつ、ゆっくりとウォーロック教官のいそうな場へと歩く。潜入捜査みたいで楽しい!
いそうな場としては自室か。それともまだ一度も入ったことのない会議室とよばれる場所か。
「だから!私は協力しないといっているだろう!」
怒鳴り声が響く、教官の自室の方だ、誰かと喋っているのか。
「……が……なたは……の……ゆうだ……」
もう一人は冷静な声でなにやら言っている、声が大きくないためドア越しからはあまり聞こえなかった。
しかし、さっき確かに聞こえた協力という言葉。教官は何に対して協力はしないといっているのか。
(そういえば、この前人間の兵と喋ってたよな)
俺はふと思い出した、そういえばこの前武装をした人間の兵と教官が喋っていた、そのときも教官は全力拒否していた。
俺の頭に電流が走った、まさか教官と人間兵の間になにやら隠された関係があるのでは!?
間違いない、これは必ず裏がある……!
ていうか忘れてたけどカイルはどこなんだよ、あの声はカイルの声じゃなかったし。
「もう話は終わりだ!ほら出てけ!」
(マズイ、隠れなくては)
しかし廊下という場所に隠れられるような所はない。そのことを俺は全く考えていなかったのだ。
走って逃げてもいいが曲がり角までが長すぎる、確実に聞かれていたことがばれるためダメだ。
ドアの裏側にいても相手は騎士だ、気配ですぐにバレるためダメだ。
これが絶体絶命というものか。何か、何か助かりそうな場所はないのか!
(……仕方ない……)
一つ、助かる方法が思いついた、あそこにある部屋。誰の部屋かわからないがあそこなら近いため今なら逃げられる。命がなくなるよりかはマシだ!知らない人の部屋じゃありませんように!
決意して俺は誰の自室かもわからない部屋に思い切って入ることにした。
(いや今全員外にいるんだから誰もいないだろ)
フラグ回収はこの数秒後だった。
「ふ、不審者……!?」
なんでピンポイントに人のいる部屋に入っちゃったのかなぁ自分。
部屋には外にいなかったカイルがいた。ここはカイルの自室だったのだ!
机にはタルトのようなものと紅茶が置かれている、美しい至福の時間を堪能していったみたいだ。他の奴らが外で自主練しているというのに。
「わ、悪い、しばらく匿わせてくれ」
「まさか、ウォーロック教官が気になってたの?」
「か、勘のいいガキは嫌いだよ……」
足音が遠くなるまで静かにタルトを挟みつつ黙っていた。
「ていうか、外にいかないのかよ」
「しょうがないじゃん……このタルト今届いたんだから、腐りやすいし」
「一個食べていい?」
「……一個だけだよ」
カイルって甘い物好きだったりするんかな?二つ目を食べようとしたら剣先を喉に突き付けてきたんだよな…………。
いつもコーヒーばかり飲んでいたが紅茶も悪くない、今飲んでそう思った。少しばかしの甘い物休憩というやつだ、イチゴのタルトは甘く酸っぱい。口の中が甘みでたくさんになってきたら紅茶を飲む、この繰り返しで無限に食べられそうだ。
「そういえば、カイルって何でフード被ってんだ?ファッション?」
「……教えない」
「お願い!教えて!」
どれだけ強請ってもダメの一点張り、頑なに教えようとしてはくれない。
「そ、そろそろ戻ろ?怪しまれる」
「うっ……確かに……」
教えてくれないというのなら強硬手段にでるしかない。いくら常にフードをしているとはいえ、風呂のときまでフードを着用するだろうか?いいやするはずがない。
作戦を頭の中で練ることにした。彼は絶対にみられたくない、ということは人がいないと思われる時間に入浴していると考えられる。
ということは遅い時間、あるいは早い時間にいる可能性がある。そこを狙うとしよう。
「アラド、遅かったな、なにしてたんだよ?」
ずっと動いていたらしく汗をたくさん掻いて、疲れたのか地面に倒れていたオスカー。
体の温度の高さと外の温度の低さに差があるせいか、水蒸気が水滴に変わっていく光景が見える。簡単に言うと、体から湯気が出てる!というやつだ。
「いや、探すのに想像以上に時間が掛かったんだ、気にすんな。ていうかセトはどうした、さっきから一言も喋らないぞ……」
うつ伏せの状態で地面にぶっ倒れているセト、彼の体からも湯気がでている。
「あ~、なんか張り切りすぎたみたいだなっ!さっきぶっ倒れたんだ!」
「そこまで無理して体動かしたのかよ!」
体をゆっくりと仰向けにさせる、顔の具合をみて判断するためだ。
白目をむいてぶっ倒れてるセト、こんなにきれいに気絶するやつはいないぞ……と褒めてやりつつ楽な体勢にさせる。
「ほぼうつ伏せじゃねぇか、これ本当に正しい姿勢なのか?」
さて、医者の子供の医療講座だ。
もし気絶している人がいたら仰向けではなくてうつ伏せ気味の横向きの状態にしてくれ。頭を後ろに反らせ上になる腕を曲げさせる、その手の甲に顔を乗せるようにする。
これは気道を確保する回復体位とよばれるものだ、もちろん傷病者の状態によってはこれが適さないこともあるため注意が必要だ。人が目の前でぶっ倒れてたら是非試してみてくれ。
「いや、この体勢が一番気道を確保できるんだ、あとは起きるまで安静にさせとくんだ」
「保健室に運ばなくていいのか?」
「体が熱すぎるからね……変に環境変えたら体が適応できないし」
授業時間が終了するころ、セトは意識を取り戻した。
「んんっ……」
「おっ、起きたな」
「あれ、僕、オスカーと限界まで組み手して……それで」
あれ、これオスカーが悪い説ある?
「おいオスカー?セトを無理やり動かしてないだろうな?」
「無理やりにはやってねぇよ!?強くなりたいっていうから手伝っただけだぜ!?」
「無茶な運動させたってことだよな?これは少しお説教もんだぜ!」
「僕は大丈夫、だからそんな怒らなくてもいいんじゃない?」
セトの発言で許してやることにした。
授業が終わったため、まだ足元がふらつくセトを支えながら俺らは自室に戻った。
まだ完全に回復していないセトをベットに寝かせ、暇な自由時間を過ごすことになった。
暇だとしか言ってないが実際そうではない、テストが迫っているため本当は勉強に時間を費やさなければならないのだ。オスカーも筋トレか寝るしかしてなかったのに最近は勉強し始めている。
オスカーに負けるのは癪なのだが如何せんやる気が出てくれない。
あ、明日から勉強しよう……。
「あっ、オスカーと、えっ!?カヌルス!?」
「なんで驚かれなきゃいけないんだよ……」
夕方の日が射される廊下にて珍しいコンビを目にした。
「二人とも、接点あったの……?あとカヌルスは久しぶりにみた気がするんだけど……」
「(前の章に一切でれなかったから)だろうな!俺は忙しいんだよ!」
なんかやけに間があった気がするが気のせいだな。
「アラドも来るか?遊戯室」
「遊戯室なんてあんの!?いくいく!」
「おいおい、俺は許可してな……」
「脇役に拒否権ねぇからぁ!」
遊戯室には俺の知らない遊びがたくさんあった、正確にいうと名前は聞いたことがあるけどやったことはないもの。ダーツやビリヤード、マージャンなどの少し頭を使う遊びがたくさんある。
まさかこんな部屋があるなんて!これで暇を潰すことができるぞ!
「俺ビリヤード初めてなんだけど」
「やっぱ連れてくるべきじゃなかっただろ!」
「ど、どうすればいいんだよ!?」
ルールを全く理解していないため適当にボールを打っている。こんなスポーツ、貴族しかやんないだろ普通。
「見てられねぇ!まずフォームがだめなんだよ!」
カヌルスは下手すぎる俺をみて吹っ切れたようだ。本当に俺のこと嫌ってるのか?って疑うくらい丁寧に教え始めてきた。
「右腕とキューの角度は九十度だ!グリップは深く軽めに握れ、左手と球の距離は二十~二十五センチくらいにしろ」
言われた通りの体勢でボールを打ってみる、さっきとは違いとても打ちやすくなった。
今回はエイトボールという遊び方みたいだ、八の書かれたボールを先に落としたものが勝ちっていう名前のままだ。これが意外に奥深く頭を使う、かもしれない。
思ったよりもハマってしまい気づけば夕食の時間になっていた、ちなみに一回も勝てなかった……。
「あ~楽しかった。アラド、もう戻ろうぜ」
「そうだなっ、じゃあなカヌルス、またやろうぜ!」
「はぁ!?てめぇみてぇな平民と誰がやろうと思うんだよ!もうやんねぇからな!」
相変わらず酷い言いようだけど、教えてくれたし優しさはあるんだよな……。
いつも通り三人で夕食を食べている、今日は高級そうな牛肉のステーキ、玉ねぎとブロッコリーがベストマッチしている、赤ワインのソースが肉の味をサッパリさせ嚙むばかりに肉汁があふれ出てくる。
「そういえば、なんで今日は自習になったんだろうね」
「アラド、自室に戻ったときになんか見なかったのかよ」
「いや知らないよ、俺らの自室から教官のいそうな部屋って全部離れてるし」
本当は知っているがあくまであれは声しか聞いてない。なんなら部分的にしか聞けてない。
あの時は気分が乗って勝手に推理してしまったがその推理が合っているかなどわからない、変に自分で勝手な解釈をしてそれを真実だと思い込み周りに話すのはよくないことだ。
俺はそんなことより今から行おうとしている作戦について考えていた、そう!カイルの素顔を見よう作戦!ネーミングセンスが壊滅的なのはほおっておいてさっそく今日実行しようと思う。多分早い時間帯に来てパッと体洗って出ちゃうだろうから完璧なタイミングで向かわなくては……。
「アラド、どうかした?」
「なんでもないよ、ちょっと考え事」
夕食後、疲れたから早めに寝たいを理由に自室をでて風呂場に来た。人がいたら来ないだろうから相手より多少の遅れをとらなくてはならない。
今か今かとカイルがくるのを待つ、楽しみだ、あのフードの向こう側がどうなっているのか、ようやくわかる。
この時間帯は見事に人がいなかった。ていうか俺が風呂に来るときも誘った以外の人がいないんだがなんで?
一つの理由としてなら生徒が少ないということか、毎年新入生は十から多くても十五。そのため寮を歩き回っていると似たような人にしか会うことがない、風呂場にも一定の時間帯に人が多くきてあとは少量ずつ、という感じなのだろう。
「…………」
(おっ!あれカイルじゃね?)
やはり自分の考えは正しかった!
予想通りカイルは夕食が終わってまだ数分しか経っていないというのに脱衣所へやってきた。
ここでバレてはいけない、カイルが入った後、偶然かと思わせるように俺も入る。そうすればカイルに待ち伏せされてたと怪しまれることもないし完璧な計画だっ……。
カイルは少し周りを確認しつつ服を脱ぎ始めた、人間の裸体を見るのは初めてだ。
毛は一切なくすべすべとしてそうな肌がみえる、あそこまで毛がないとむしろ美しいと思ってしまう。そしていよいよフードを脱ぐ瞬間がみれる……!
外すと思った、しかし、外さずに入ってしまった!しくじった、中で外すのか……。
しかしここで焦らないのが大事だ、落ち着いて、自然に中に入ろうではないか。
自分も服を脱ぎ風呂場に向かう。
(後ろから、ゆっくり)
相手は最強といっていい剣士の卵、下手したら気配でバレてしまうからな。それと、警戒を怠らないはずだろうから手で隠していたりするかもな……。
カイルは頭を洗っていた、でも後ろ姿でしかも泡立っているせいでほとんどみえない。ここで俺は思った、別にここでバレても問題ないのでは?だって偶然だもん偶然。仕方ないことだからね!
それと素顔がみたいんだからどう頑張ってもバレる、あの視界の広さには勝てないだろうし……。
勇気を出して後ろから驚かすことにした。
「わっ!」
彼の後ろからそう声を出して優しく肩を触る、モフっという感触がない、不思議な感触だ。
「うわぁ!?あ、アラド!?」
「…………綺麗だ」
「……はっ?」
人間特有の毛のないすべすべとした肌、整った顔立ちに透き通って輝く青色の眼。誰がどうみても美少年だ……水も滴っているせいでさらに輝いている。
「な、なに言ってんの……!」
しかし人間にしてはおかしいところがあった、人間の耳は顔の横についているのを昔見たことがある。だけれど、彼の横に人間の独特の形をした耳はない、獣人のように頭の上に何かの動物の耳がついていたのだ!
「人間なのに、耳だけ獣人……?」
「……変でしょ……だから見られたくなかったのに……」
下半身もよく見ると丸いハムスターのような尻尾ともいえない尻尾があることに気づいた。
「ハムスターの獣人なのか……?」
「そうだけど、そうじゃない……」
「内緒にするから、話してくれないか?」
「………………絶対内緒にしてね」
彼は少しずつ話し始めた。
「僕の本名、カイル・ランド・ヒューエイなんだけど」
「えっ!?カイル、お前貴族だったのか!?」
名前が三つ以上に分けられるのは貴族だけだ、しかもヒューエイ家はとても有名な人間貴族なのである。
「うん、一応第二王子なんだけど、規則上の追放を受けちゃったんだ」
「規則上?どういうことだ?」
「わかると思うけど僕はボーランド公国の貴族だ、人間の国なのに貴族が半分獣人のような姿をしてたら、どうなると思う?」
「民からの信頼関係に支障がでるってことか……」
「お父様がそれではマズイ、となって僕を一時的な追放をしたんだ」
「でも、顔を隠す理由にはならないだろ?」
「そ、それは…………」
カイルは答えるのに戸惑っていた。
「だって……なんでハムスターなのさ!僕だってアラドみたいな狼獣人とかかっこいい部類にいたかったのに!尻尾とかめちゃくちゃダサいもん!こんなの見られたくないに決まってるじゃん!」
カイルは溜まった鬱憤をはらすかのように叫び始めた。全て子供のような理由で可愛いよりも呆れが強くなってきた。
「なんか、カイルって教官からの言いつけもあって怖いイメージがあったんだけど、可愛い性格してんな……」
「えっ……あ~多分獣人の方には正しい情報になってないからじゃないかなぁ」
「ん?どういうこと?」
「僕、追放されてからはしばらく外で暮らしてたんだけど、生きるために時々獣人からカツアゲとかしてたんだ。その情報が誇張されて危ない存在ってなったんだと思う」
「いやカツアゲしてる時点で危ない存在だろ……」
「それで……野生動物を狩ってたときにミンク教官に見られて剣技を称賛されてここに入学したって感じかな……」
人間と獣人の対立が激しいせいでたった一人の獣人、人間が国によって評価が変わってしまう。教官でさえ間違った情報を信じ込んでしまっている、なぜミンク教官は教えてあげなかったんだ……。
偏見は戦争を生む、という言葉を聞いたことがある。今のカイルの話のように正しい情報を知ろうとしないで勝手にその場の光景で判断し周りに広めてしまう。何事も疑う気持ちを持ちことが大事なんだな…………。
「別に俺は可愛いと思うぞ?その姿」
「可愛いはいやなの!かっこいいがいいの!僕だって男なんだよ!?」
「そうか?女っていわれたら信じれるぞ?俺なら」
「……それどういう意味……?」
「触っていいか?」
「ダメに決まってんでしょ!」
しばらく二人で楽しく話していた、俺の一方的な楽しさであるがな。
時間を忘れていたせいで人が来ることを俺らは考えていなかった。
「おぉ!アラド!ではないか!」
「あっ!シリウス先輩!?カイル、どうするの?」
「ん?隣にいるのは誰だ?女に見えるが……」
「えっ…………」
カイルは女に見えるという言葉で数分口を聞かず湯船に溺れるかってくらい身を沈めて落ち込んでた。ずっと、この前戦った相手のはずなのに……なんで、と嘆いていた。
「いやぁ、すまんすまん!この美少女、ではなく美少年がカイルだとは思わんかったわい」
「ぐ、ぐはっ……」
「先輩!またダメージ入ってますよ!」
「僕、そんなに女に見える……?」
「い、いやそんなことないぞ……」
泣き顔になっているカイルをみてちょっと興奮した、なんて言えないよなぁ……。
「そういえば、シリウス先輩と相性が悪いっていってたけど、どういうこと?」
「えっ、僕がなんでも教えてあげると思わないでよ?」
「カイルのアビリティとわしのアビリティは相性が悪いであろうな!貴様のアビリティはズバリ!相手の思考を読み解く能力であろう?」
「違うかな……」
「えぇ!教えてよ~!」
「まぁ、いいか、バレてもアラドに負けることはないだろうし」
「おい待てどういう意味だ」
遠回しにバカにされた気がするが、聞かなかったことにしといてやることにした。
「先輩がいったことは強ち間違ってないよ、けど思考を読み解くわけじゃないんだ」
「ん?どういうことだ?」
「僕のアビリティは未来が見えるんだ、しかも自分が負ける未来、だからついでで相手のアビリティを見れたりするんだ。そこから軌道修正をしてる」
「つまり、先輩と分身でそれを見ようとすると複数の未来が一気に頭に入ってきて処理できない。ってこと?」
「特定の存在に一つだけなんだ未来をみれるのは、だから本体からしか未来がみれないんだよね」
「それはそれで本体と分身を見分けられそうだけど」
「本体が隠れて無限に分身出せるからそもそもの能力がチート及、あれに勝てる人は中々いないと思うよ」
話が盛り上がってしまい、時間を忘れて長時間の入浴になってしまっていた、そのためか遅いと感じたオスカーとセトが心配し風呂場にやってきてしまったのだが。
「ん?おい、なんで女がいるんだよ?」
「また女って言われた…………」
というオスカーの爆弾発言、それによりカイルはまた拗ねてしまった。
アラドのせいだ、とごもっともな発言をされたが誰もその容姿をおかしいと思わず受け入れてくれたからかすぐに機嫌を直して全員でワイワイと喋り始めた。
「カイル、すっごく綺麗な顔してるよね」
「そのせいで女っていわれ…………うぅ……」
今の自虐だよね?俺ら悪くないよね?
今までの中で一番騒がしかった風呂の時間だったな。
それ以来、カイルはほとんどの奴らに顔がバレてしまったためもう無意味だからと顔を隠すことはなくなった。実は一番驚いたのはニルで教えられるまで女だとずっと思いこんでいたのだとか。
カイルって想像の三倍は可愛い性格をしていた、顔が見えるようになってからは表情がしっかりと見えるようになった。笑っている表情を見たものは昇天すると一時期噂になっていたらしく、実際に見てみると完全に女であり男の原型がほぼなかった。しかもその笑顔が作りではない無邪気なものなのだから破壊力抜群だ、その噂を耳にしたカイル本人は。
「もうやだ整形する!」とハムスターの耳を動かしながら嘆いていた。
ちなみに顔バレしたことに相当怒ってたらしく、俺は機嫌直しと詫びということで一週間甘い物を捧げるということになった。おかげで財布がすっからかんだ。