紫苑side
レコーディング初日終了。
2曲を録り終わり順調な滑り出し。
このまま体調に支障が出なければ
いいんだけど…。
『お疲れ様でした!』
蓮は夕方から9人仕事のため、
休憩後、マネージャーさんの車で出かけて
行った。
本当は最後まで居たかったみたいだけど
体調もいいこともあり
『大丈夫だから』と蓮に告げ、
泣く泣く出かけてった。
スタッフの方に自宅まで
送ってもらい暗い部屋に
明かりを灯す。
『ただいま…』もちろん返答はない。
蓮は今頃収録で頑張っている頃だろう。
荷物を部屋に置き、喉の乾きを癒すため
キッチンへ行くと朝出かける時には
置いてなかったサンドイッチとメモ書きが。
【紫苑 おかえり!初日無事終了お疲れさま。
疲れてない?食べれる分だけでも
お腹に入れてお風呂で
リラックスタイム♡してね
遅くなるから先に休んでて。
明日も午後からレコーディングだよ。
頑張ろうね。 蓮より】
いつの間に作ったんだろう?
クラブハウスサンドイッチ。
私の好きな物ばっかり。
ピクルスは苦手だから
ブラックオリーブが添えてある。
愛情詰まったサンドイッチをパクリ。
どこのお店のものより美味しい♡
蓮は一つ一つ覚えていてくれて
大切にしてくれる。
それが何より嬉しかった。
あっという間に完食し、
お風呂のスイッチを入れ
お皿を洗って珈琲を飲む。
いつもは蓮が豆を引いて
作ってくれるんだけど
インスタントの甘いやつ。
たまに飲みたくなるんだよね。
今日は声出してちょっと運動もしたから
自分を甘やかしちゃおっと。
お風呂の準備が出来るまで、
明日の確認
明日は蓮とブースに入って一緒に歌う。
デュエットソングー For Us ー
作詞家さんと私で打ち合わせをして
書いてくれた共同クレジットになってる。
大切な人に届けたい 想いを込めた
ラブバラード。
オケを聞いた時に感動して
泣いちゃったんだよね。早く歌いたい!
あ、お風呂鳴ってる。入ってこよっと!
『えっ?なにこれ?』
朝お風呂入った時気づかなかった
首元と胸元の赤い痣。
これってもしかしてキ〇マーク?
鏡に映る自分の顔が
真っ赤になっていくのが分かる。
これ 蓮が付けたんだ。
……待って!これ…西園寺さんに見られてる?
後ろから声掛けられて…
あの時笑ってたもん。
独占欲強いのはいいけど(←いいんだ笑)
周りの人に
気づかれるのは気恥ずかしい…。
朝は湯気が充満してて鏡曇ってて
見えなかったからコレあるの
気づかなかったんだ。
もう 恥ずかし。
明日はタートルネックにしなきゃ。
頭と身体を洗い終え、
チャポンと浴槽に浸かると
浮力に抵抗するように身体が溶けていく。
あぁー気持ちいい!極楽極楽♡
ゆったりと浸かりバスタオルに包まって、
脱衣場の棚にパックマスクが
置いてあるのを見つける。
1日メイクしてたから蓮の配慮だろう。
ホント イケメンで
配慮の出来る甘やかしクンの彼氏。
……なんて人生の最高の
最後のプレゼントだろう……。
生きていられる時間が限られていることを
改めて身に刻まされる。
…………ッ。鼻の奥がツンと痛くなると同時に
大粒の涙が頬を流れる。
蓮の前では泣かないって決めてたから…
でも今 独りだし、ちょっとだけ弱気に
なっても良いよね。もぉ……我慢も限界。
そのままバスタオルを握りしめ、
久しぶりにわんわん泣いた。
感情が壊れたかのように。
ひとしきり泣いたあと、
蓮の用意してくれたパックマスクで
泣き腫らした顔を冷やして取り繕う。
気づかないフリをしてくれることを祈りつつ、
眠りについた。
蓮side
家に戻って来るとダイニングに小さな明かりが
灯っていてテーブルの上には
〖サンドイッチ美味しかった♡
フルーツヨーグルト冷蔵庫に
入ってるから食べてね。〗のメモ。
食事は済ませて帰ることも伝えてあったけど
疲れて帰ってきて、
こういうの用意されてるとか、
さすが女の子だよね。
幸せだなって思えてしまう。
真っ先に紫苑の顔も見たいけど
きっと寝てるだろうから
取り敢えず、シャワー浴びよう。
…実は病院で良くないことを聞いたんだ。
検査の結果 紫苑の脳が腫れてきていると。
圧迫されている神経が
脳を押しているせい。
痛みがない訳じゃなくて、少しづつ
手からこぼれる砂のように消えていってる
兆しだと。
……ッ……くッ。シャワーの音に
泣き声を隠す。
【頼むよ……もし、神様とかいるなら
あと少し、オレたちが
幸せに過ごせる時間を
忘れるまでの時間を延ばして……。
紫苑の夢を叶えさせて。
俺の残りの寿命
神様に全部あげるから…さ……。】
気持ちを持ち直し十分に温まった
身体と感情ををクールダウンさせる為、
バスタオルを肩にかけて上半身裸で
ダイニングへ歩いていく。
冷蔵庫から水とヨーグルトをだし、
喉を鳴らして水を飲んだあと
ヨーグルトに口をつけた。
「おっ!美味っ!」
イチゴとブルーベリーソースの
シンプルなヨーグルト。
温まった身体をクールダウンするには
充分すぎるデザートだった。
部屋に入って背中を向けて寝ている
紫苑の顔を覗き込む。
相変わらず涙の跡が滲んでる。
恐怖と戦っているんだから
仕方の無い事だけど、
いい加減その荷物俺にも
預けてくれないかな。
涙の跡を人差し指でそっと拭い、
ただいま、とおでこにキスを落とす。
オレのキスにはどんな時にも反応する様に
インプットされてんのか
(…んッ)と小さく声が出る。
その声に襲いたくなる気持ちを
ぐっと堪えて首の下に腕を入れ
身体をそっと自分の方に向け
腕枕をする。
昨日は背中を向けたまんまだったから、
今日は少し愛しい君の寝顔を
見ていたいと思った。
小さな寝息の中、痛みからか顔を歪める紫苑。
ギュッと抱き締め頭を撫でて
少しでも痛みが和らいでくれるようにと
願いながら顔を見つめる。
痛みに気づいたら離れてしまう気がして
いつも怖くなる。
日付が変わって今日は出会って1年目の記念日。
盛大にお祝いしたい気分だが、
今はレコーディング優先、時間が無い。
取り敢えず互いの左手の薬指に銀の印だけ
そっと通して、短い眠りにつくとしよう。
・・・
朝起きて、いつものように目覚めと
同時にオレの寝顔で顔を赤らめる紫苑を
薄目で確認しつつ、
動き出そうとする紫苑を腕の中に納め直し
イチャイチャタイム。
彼女の仕事柄なのか、朝、
目覚めんの早いんだよね。
ご飯を作ると聞かないので、
昨日と同じで沢山のキスを紫苑にあげる。
耳元で今オレは紫苑が食べたいの。
昨日の頑張ったご褒美ちょうだいって
せがむと、仕方ないなと
紫苑からキスのプレゼントをくれる。
手を絡ませて抱き合えばこっちのもん。
朝から絡み合って、抱き合って、愛し合う。
夜はいつも寂しくなるから
抱き合って眠りについて
朝幸せにしてスタートさせたいって
気持ちもあり、なんとなく
そんな風にしていたんだ。
左手の薬指にキラキラする銀の印。
彼女は指輪の存在に気付かない。
細く長い指がオレの手に絡まり、
愛を受け取ろうと必死にしがみついてくる。
いつか来る終わりのその日まで
この手を絶対離さないと誓いながら。
・・・・・
最後のレコーディング日。
二人で向かい合いブースに立つ。
紫苑はサビとアドリブ録音、
俺はサビとコーラスを一気に録ることに。
愛してるとつぶやく部分を
恥ずかしがって何回か録りなおしになる。
ゴメンなさいとマイクで謝り倒す紫苑に
スタッフは終始笑顔で見守ってくれる。
【紫苑ちゃん、目黒くんへの
愛の告白なんだから照れちゃだめでしょ?笑】
なんて言われるもんだから更に赤い顔。
西園寺さんが俺の方に顔を向け
GOサインをくれる。
【紫苑ちゃん、ちょっと休憩ね。
目黒くん先に録ろう。紫苑ちゃん
ヘッドホン付けたまま待ってて】
『٩( ‘ω’ )وハァイッ』紫苑は水を1口飲み息を吐く。
インストの音楽が流れる。
蓮が歌うように言葉を紡いでいく。
🎼.•*¨*•.•*¨*•.¸¸🎶🎼.•*¨*•.•*¨*•.¸¸🎶
強い君が 涙に暮れる時
その涙を拭う役目は ずっと俺にして
ツライ思いは 俺が引き受けるから
涙も 悲しみも 全部俺にちょうだい
世の中に溢れる ありきたりのラブソング
そんなの響かないから 自分の言葉で
愛を伝えたいんだ
ただ 君を愛してると………
そばに居たい
何もいらない ただ君だけが居れば
それだけでいい
ツライ記憶は 俺が引き受けるから
サヨナラなんて言わせない
だから俺の覚悟 伝えさせて…
死がふたりを分かつまで 一緒にいよう
世界で1番大切な人
「紫苑……愛してる」
インストの静かなBGMに乗せて
紫苑に向けた愛の告白
紫苑はヘッドホンをしたまま
その場に立ち尽くし、
状況を理解できないって顔で
蓮を見つめている。
蓮が「左手を見て」と手に意識を向けると
指に銀のリングがはまっていることに気付く。
蓮の左手にも同じものが。
『フッ……(*꒦ິ³꒦ີ)こんなの……ズルい…
私 …聞いてない……』
ブースの中に蓮が入ってくる。
紫苑は胸に顔を埋めて泣いている。
「ねぇ、返事は?
俺の覚悟分かったでしょ?
みんなも協力してくれたんだよ。
俺たちのことみんな祝福してくれてる。
最後まで一緒に闘うから結婚しよう?」
( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)クスン……よろしくお願いします。
ブースの外から歓声が巻き上がる。
よく見ればメンバーも揃ってて、
社長や西園寺さんも拍手を贈ってる。
なんて幸せなんだろう。
秋風の吹く丘で貴方と出会って
恋に落ちたあの日。
抱えてる苦しみや悲しみを癒したいと
歌ったあの歌達は今になって
互いの愛を伝えてる。
いつかこれも忘れちゃうのかな…
でも…心から愛してくれる蓮の隣で
今は 何も気付かないふりして
笑っていていいよね?
私も蓮を愛してる
それだけはきっと
何があっても忘れないから。
終わり
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最後まで 読んでくださって
ありがとうございました。
こんなに長くなるとは思っていませんでした(笑)
皆様の応援のおかげだと心から思っています。
拙い物語を愛し コメントを下さった皆様
本当にありがとうございます。
どうか感想をどしどし書いてくださいね。
お気に入りのシーンがあればなお嬉しいです。
この先……2人はどうなるでしょうね?
病気に打ち勝てるのか?
スペシャルエンディングその後は
♡500個溜まったら書こうかな……。
それでは 飛鳥でした!
コメント
4件
素敵なストーリーでした(*^^*)
最高すぎる(´;ω;`)😭👏✨