それは、ほんの少し前の出来事だった。
あの日、木陰で重ねた指先。そっと、でも確かにふれたぬくもり。
あれから。
タマモクロスは、オグリキャップと目を合わせるたびに、なんとなく胸がざわつくようになっていた。
今日も放課後、トレーニングを終えて、ふたりで裏庭のベンチに座っている。何気ない時間―のはず、なのに。
「、、、あのな、オグリ」
「うん」
「、、、この前、木陰で指、重ねたやろ」
「、、、うん」
オグリは、すぐに顔を赤くした。でも、それでもそれでも目をそらさず、真っ直ぐに見てくる。
「タマモ、、、あれ、私、、、すごく、嬉しかった」
その一言で、タマモの胸が跳ねた。顔が熱くなる。
「わ、わかっとるわ、そんなん、、、うちも、あんなの初めてで、、、なんや、どきどきして、、、」
「、、、今も、してる?」
「、、、、、、してる」
タマモは、小さくうなずいた。そして、勇気を出して、そっと言葉を重ねる。
「なあ、オグリ。あんた、うちのこと、どんな風に思ってる?」
しん、、、と静まりかえる空気。少しだけ、風が桜の残り香を選んでくれる。
オグリはしばらく考えたあと、真っ直ぐな声で答えた。
「、、、大切、だと思っている。レースでも、日常でも、、、一番、君のことを見てる」
そして、ほんの一瞬の枕黙のあと。小さく、でも確かに―
「、、、たふん、好き、なんだと思う」
その言葉を聞いた瞬間、タマモの、視界がふわっと熱くなる。思わず、制服の袖で目元をこすってしまう。
「そっか、、、うちも、たぶんやない」
タマモはにっこり笑って、オグリの手をとった。今度は、指先だけじゃない。しっかり手のひらを包むように。
「うちは、オグリのこと、、、本気で好きや。大切に思っとる。ずっと前から、ずっとな」
静かに結ばれる手。もう、ためらいはない。もう、まめらいはない。
ふたりの間に流れる空気は、優しくて、甘くて。それは、春の、どんな花よりもあたたかい時間だった。