忘れさられし英雄のお話
とある集落にある日、旅人が訪れた。
旅人は遥か昔に存在していたという勇者の話をよく語っていた。
勇敢なもの、臆病だけどもいざというとき頼りになるもの、腹黒いけど優しいもの。様々な勇者のお話に村人は夢中だった。
なぜなら、世界に希望などないから。
勇者がいなくなってから世界は団結力を失い、各地で戦争が勃発したからだ。
自身のことを旅人と名乗る少女はなぜか村の少年によく付きまとっていた。
「なんで僕に付きまとうの?」
「昔見た勇者によく似ていたからさ」
少しかなしげな表情を浮かべながら少女は言った。
「そうだ!君に私の大好きな、誰にも語っていない勇者の話をしようか」
そう楽しげ、しかしどこかもの暗さを含んだ瞳は少年を魅力するには十分であった。
「語りましょう。紡ぎましょう。これは忘れ去られし英雄の話です」
**
不老不死の力を持つ魔術師の少女は常に勇者とともにあった。
しかし、それ故か時折勇者から疑いの眼差しを受けることもしばしばあった。
とある勇者を除いて
その勇者は歴代と比べても遥かに弱かった。
その勇者は歴代より勇者は遥かに優しく怪しげな少女にも優しく接してくれた。
「ねえ!行かないで。こんな旅に意味なんてないよ」
少女は勇者にすがった。
少女は知っていた。
この世界は勇者や魔王を使い捨て、平穏を保っていることを。
争いをなくすため、敵を作り、英雄を生み出していた。
少女は世界のルールに納得し、傍観者を気取っていた。
そう、告げると勇者は…
「僕は行くよ。そしたらつかの間の平和が訪れるでしょ?」
優しげに告げ、勇者は旅立った。
少女を残して。
やがて、勇者は魔王を倒した。
歓迎のパレードが執り行なわれた。
戻ってきた勇者は物言わぬ亡骸だった。
少女は泣き崩れた。
少女には無限の命が宿っていた。
勇者を監視し、世界を平和にするために。
おそらく勇者に真実を伝えた罰だろう。
何か、行動していたらこの未来は変えられていたのだろうか。
こうして傍観者を気取っていた少女は亡骸を手にすることなく、墓の前で静かに泣いた。
王様は語った。
「あんな弱い勇者いらない」
「死んでくれてよかった」
少女は憎んだ。
変えられない変わらない世界を。
それでも少女は勇者を送り届ける。
彼の望んだつかの間の平和のために。
やがて時は流れ、少女の愛した勇者が完全に忘れ去られたとき。
少女は用済みとなった。
世界は管理者から飽きられたのだ。
用済みとなった世界、それでも世界は続く。
捨てられた少女は世界と心中することにし、終わりゆく世界で勇者たちの物語を紡ぐ。
優しい勇者のお話を除いて。
彼のお話は自身の胸のうちに秘めておきたかったのだ。
それは少女の淡い恋心であろうか。
**
「めでたしめでたし」
そう言われたとき少年の瞳から1雫おちた。
なぜかとても懐かしい気分になったのだ。
「なんで僕だけに話したの」
「さあね」
そう、ここはかつて忘れ去られた勇者が育った土地。
優しい勇者似の少年は一体なぜ似ていたのだろうか。
物語はもう終わってしまった。
今も各地で争いは起こり続けるだろう。
それでも少女は紡ぎ続ける
少女
不老不死。多分世界が終わったら流石に死ぬ。
自身を一度も疑わない優しい勇者に淡い恋心を抱いていた。
少年
とある勇者の生まれ変わり。平和を望んでいる。
他の勇者
世界を大事に思っているからこそ、少女を疑うことも多々あった。普通の人間。
優しい勇者
一度も少女を疑わなかったし誰よりも平和を願っていた。おそらく狂人。
管理者
世界に飽きた。現在は魔法なき世界で人はどう生き、どう滅ぶのかを観測している。お前が滅べ。
猫桜
これを書いた人、忘れじの言の葉に影響された。勇者メインのお話を機会があれば書きたい。
コメント
1件
相変わらずめちゃくちゃ上手いなぁ…