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『最近、涼ちゃん病気になったのにいきいきしてない?』
エゴサをしている最中、そんな投稿を見た。記者会見を行ってしばらくは沢山の心配のコメントで溢れていたが、いつからかこんな内容が増えてきたように思える。確かに、言われてみればそうかもしれない。今までにやる気が無かったとかそういう事とはまた違い、どこか吹っ切れたようなそんな感覚に近かった。寿命について悩むのにケリを付けられたのならそれでいいと思うけど。
俺は何か、違う理由があるような気がした。
でも、聞き出す勇気なんて起きる訳もなく、淡々と時間は過ぎていった。
◻︎◻︎◻︎
「じゃあ、これで完成になります!」
誰かの声が響く。空気が一気に緩んだ。誰からともなく拍手が起き、お互いをお疲れ様と労る。僕は昔からこの曲が完成して物事を1つ終えた瞬間が寂しくもあり、嬉しかった。元貴がどこからか飛んできてすかさず抱きついてくる。毎度一日の終わりにする、体調チェックの為だ。
「涼ちゃん!!体調は!?」
「うぐっ。あのー、強くない?まあ元気だけどさ…」
「そう!!それなら良かった!!」
でも離してはくれない。僕らあっちでインタビュー受けないといけないんじゃないの?そう冷ややかな視線を送ると、まあまあと軽くいなされてしまう。そのまま僕の胸に顔を埋める。
「…涼ちゃんがいる状態で、この曲完成して、本当に良かった…」
消え入りそうな声量でそう零す。途端に切なくなった。あぁ、言わないと。言わないといけないのに。折角決めたのに。でも臆病な僕はただ元貴をひし、と抱きしめることしか出来なかった。
「いやでも、ほんとにそう思うよ。俺も」
若井も気付けば背後にいて、肩に手を置かれる。言葉とは裏腹にやり切った、というよりまた1つ終わってしまった。そんな憂いさを帯びた顔で見つめられる。何か言おうとすると、元貴がばっとこちらを向いた。
「よし、3人でハグしよ。ニューマルの公開日の時みたいにさ」
いいね、賛成。そう言うと元貴は離れ、若井のスペースを作った。そこにすっぽりと飛び込んでくる。と同時にぐらりと衝撃を感じた。いつもなら何ともないのに、天使病に罹ってここ最近痩せたからなぁ。
「あれ、若井またガタイ良くなった?」
「でしょ。最近鍛えるの再開したのよ」
「さすがガタ井さん。」
「ガタ井じゃないのよ。岩井でもないから」
軽口を叩き合い、笑みが零れる。背中に触れる手が2人とも優しく、とても暖かかった。
「この調子で、ライブも頑張ろ」
離れると元貴が真剣な声色でそう言い、うん、とバラバラに頷く。きっと「調子」には、勢いもあるけど僕の体調も含まれているんだろう。ライブには、絶対万全に体調管理を間に合わせないと。繋いでくれた思いだから。
「ビハインド用のインタビュー行いまーす。大森さん若井さん藤澤さんこちらにお願いします」
間延びしたスタッフの声が聞こえる。返事をして、元貴が僕と若井の手を取った。
「行こう。」
する、と肌が触れる感触の後、腕を組まれているのに気が付く。
元貴が真ん中で、右が僕、左が若井。まぁ写真や動画では逆だけど。いつもの体形だが、距離が近くてなんだかライブのフィナーレみたいだとちょっぴり感じる。
実際、僕の人生も終わりにかかっているから益々そう思わせる。不思議とライブだと寂しいのに、余命を聞いてもこの現状のお陰で辛くなかった。むしろ、いい人生だと振り返れるくらい。きっと、伝える事を決心したからだろう。受け入れられなくてもいい、知ってもらえればそれでいいなんてのはワガママかな。ふふ、と笑みが溢れる。
「涼ちゃん?どした?」
ちらりとこちらを見る。隣にいる元貴には聞こえていたようだ。心配する素振りが、まるで今よりもう少し涼しかった時に僕の連絡で駆けつけてくれた時と同じようだった。ううん、なんでもないよ、とかぶりを振る。
僕の居場所がある。それだけで心救われる。
ミセスが元貴の舵取りで進むように、君は1歩踏み出した。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
次回、バベルの塔の回になります。私は今回は応募断念したのでおうち観戦の予定です。大森さんの襟足復活を密かに望んでいるのは私だけではないはず…笑
次も是非読んで頂けると嬉しいです。