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しろニキ
人外+リーマンパロ
しろ→狼男
ニキ→吸血鬼
しろせんせー視点
「せんせー……ヘルプ!!」
「お前何しとんねん……」
両手に山積みの書類を持ちながら俺に助けを求めているのは同僚のキャメ。あまりにもお人好しなキャメは押し付けられた仕事に文句ひとつ言わず、なんなら受け持ってしまう。そして、あまりの量にタスクをこなしきれずに俺は勿論。酷い時はニキやりぃちょを巻き込むほど。自分が苦しむくらいならそんな優しさなんて捨ててしまえば良いのにな。
✺
そんなこんなで手伝う羽目になった俺とニキはいつぶりかも分からない残業に疲労困憊だった。クソガキも連行しようと試みたが、残念ながら結果は敗北。上手いこと躱されてしまった。
そんな余所事をやめ、再びキーボードへ手を伸ばす。
あと5文。
あと4文、3文。
2文。
1文。
カタ、と音を鳴らし、肩の荷が解れた。それでも油断は禁物。誤ってデータを削除することだけは避けるように慎重にマウスカーソルを動かして、データをファイルに保存し、キャメへ転送。そしてデスクトップPCのシャットダウン。
そこで漸く、今日の業務を完遂させた。
「だあ”あ”っ!お前まっじで次は断れよ!!」
少し大袈裟に、少しの優越感に浸りながら、うんざりだと言わんばかりの声を上げる。俺の言葉にあはは…と苦笑するキャメを見て、こりゃまた手伝う羽目になりそうだ、と肩を落とした。
二人よりも一足先に終わらせた俺は羽を伸ばすついでに差し入れか何かを買ってこようと財布片手に椅子から立ち上がった。ぐーっと伸びをして、歩く。席に戻っても仕事をしなくていいだなんて最高の気分だ。そうして、コツコツと自身の足音だけを響かせながら向かったのは社内の自動販売機。直近で急低下した気温とモーターの熱気を考慮したが、まだ暖かい飲み物は補給されていないので、残念ながら冷たいコーヒーを3本買った。
「ほらよ」
「……ッ!」
デスクトップに釘付けなニキの首筋へ缶を当てると、一周まわってか声すらも出さずに睨みつけられる。ククク、と押し殺した笑みが自然とこぼれる。
「おまっ、それ…」
「俺の奢りやぞ」
「さっすがボビー!」
“奢り”その言葉にぱっと顔を明るくさせたと思えば、ニコニコと煽てられる。お調子者め。
そんなお調子者は缶を開け、ひと口。ラストスパートだと言わんばかりに集中し始めた。
仕事へ取り掛かったニキを余所目にもう一人の働き者の方にも缶コーヒーを渡しに行った。
✺
仕事が終わってしまった以上することも無く、ただぼんやりとスマホを弄っているとわざとらしいエンター音が社内に響き渡った。
「っし!!」
どうやら俺の相方も業務を完遂させたようだ。彼もまた、俺と同じようにキャメへデータを転送し終えたようで大きな溜息をついていた。
「後は俺がやっとくから二人は帰って大丈夫だよ。ありがとね」
「あいよ。体調管理だけは怠んなよ」
「お気遣いどうも」
そんな俺らを見越してかキャメは帰宅を促してくれる。普段ならば車で家まで送ってくれたりするのだが、どうやら今回は駄目なようだ。キャメもキャメで仕事してんだし、しょうがないわなとしみじみ思う。そうしているうちにも、空気になりかけている隣席の相方の方へ目を向けた。
「ニキ?」
ぼうっと何か思い耽る様子だったので、名を呼べばはっとしたような顔でこちらを見つめてくる。なあに、とうっとりした口調で問うてくるものだから、普段とは違う様子にドギマギしそうだった。
そんな心理を隠蔽するように「帰んぞ」と声をかけると、俺のよく知るニキの「あーい」という腑抜けた返事が聞こえた。
退社後、大した会話もせず、途方に暮れながら歩き続ける。こんなお通夜みたいな空気ならば、ひとりで帰った方がマシだったかもしれない。
「ボビーッ、!」
「ぅお……」
不意に声高らかに名を呼ばれたと思えば、腕を掴まれ、道標へとぐんぐん進む。連れてこられたのはどこにでもある路地裏で、何をしたいのか全く見当もつかない。
「ニキ?なしたん?」
「うるさい。だまって。」
「…は?…ちょ……ぃ”ッ…」
五月蝿い。そう言われた頃には彼のしたい放題だった。流れるように壁際へ追いやられ、ワイシャツの襟をズラされ、彼の頭が俺の首元付近へやってきたと思えばがぶり、そう音がしそうなほどの激痛が俺を襲う。
「っ、ん…む……ッ、ふ、……」
久方振りの残業に心身共に満身創痍のままで、まともな判断を下せる訳もなく、此奴なんかしてんなーくらいの認識でしか無かった。まあ、唯一指摘するのならば、すげえ声漏れとんなという点だけだ。
「…おい」
首筋から離れた感覚がしたため、一体なんなんだと問い詰めてやろうとしたが、次の瞬間、体全体に体重が乗っかる感覚がした。その要因は見なくても理解できる。
しょうがないか、と満腹中枢の刺激により眠りの底についた彼をおぶって、再び歩き続ける。幸いなことに俺の家はここからさほど遠くない場所にあり、体力の消耗も想像よりは控えめに済みそうだ。
✺
帰路に着くと時計の針は12を越えており、寝てしまいたかった。俺の背中で眠る彼に羨望を感じながら、寝室までおぶり、ベッドに寝かせた。
俺もこのまま寝てしまいたかったが、流石にシャワーだけでも良いから風呂に入ってしまおうと思い、洗面所へ向かった。
「うわなんか滲んどる…」
ワイシャツを脱ぎ、洗濯機の中へ突っ込もうとしたのだが、少し固まった赤黒い何かが、首許の襟あたりに染み込んでいた。面倒臭いと溜息をつきながら、お湯で手洗いをした後、風呂へ入る。
じくじくとした痛みを享受しながら、身体を浄める。朧気な意識では感じなかった痛覚を認知しつつ、久方振りの同種との出会いに歓喜していた。
明日は彼を問い詰めるとしよう。
そう決意しながら簡易的にではあるが、傷口を処置し、睡魔に唆されるように寝支度を済ませた。が、俺のベッドで寝るニキの寝相が思ったよりも悪く、スペースがどこにも無かったため、大人しくリビングのソファで寝ることにした。
掛け布団に包まって暖を求めながら目を瞑り、深い睡眠の底に落ちていった。
✺
少しの肌寒さと朝焼けの刺激に目が覚めた。やがて、思考が覚醒していくと共に少しずつ五感を取り戻して行く。
「………いっ、てぇ…」
朝5時頃。予定よりも早く起きてしまったのはソファという寛ぐには不十分な環境だったから。あまりに窮屈で寝返りを打とうにも打てないソファでは肩凝りが悪化するばかりだ。だが、日頃の疲労を少しでも回復させるために、取り戻した五感を遮断して二度寝した。
✺
それから再び目を開けた際にはお昼を優に超えていた。休日とはいえ、これ以上は流石にまずいな、と思った俺は起床し、何となく身支度をし始める。
ぼんやりと歯磨きをしていると、突如ガタン!と音が鳴った。音の発生源の方に向かおうと嗽をして、洗面所を後にする。
「おーニキ起きたか」
自室の扉を開ければベッドから転がり落ちたのか、なんとも無様な恰好をさせた友人がそこには居た。
「へ、ぇ…?…ボビー?」
なんで居るの、と目線から伝わる動揺がもう面白い。吹き出してしまいそうなのを堪えて、状況説明でもしてやろうかと口を開く。
「ここ俺ん家な。お前の思っとるようなことはなんもあらへんよ」
「っぁ、そう…」
俺の言う「思ってること」が彼にとってどこからどこまでの範疇かなんて分かりやしない。
「あーそうそう、お前吸血鬼なん?」
この際だからついでにと思い切って発した俺の問い掛けにぴしりと固まってしまった。
それから数秒も経過すれば、状況を理解し始めたのだろう。彼は目を見開き、口をはくはくと動かす。
そうして彼は口を開く。
「そうだって言ったら俺はどうなんのさ…」
「別に取って食おうだなんて思ってへんよ」
嘘こけ…という冷ややかな目線を送られたが、取って食おうだなんて本気で思っていない。有りつける飯が吸血鬼だなんて美食とはあまりに掛け離れているだろうに。
それでも目の前のこいつに肩入れしてやろうと考えてしまうのは、俺が損得勘定の念に縛られているからなのだろうな。
「吸血鬼であるお前の飢餓を救えんのは狼男の俺しか居らんのやろ?」
傲慢な態度も次第に威勢を失う。俺の言葉に心底バツの悪そうな顔になる様がなんとも滑稽で、胸のどこかが疼く。
「お前らにその認識があるようにこっちにもその認識はあんねんな」
吸血鬼と狼は相性が良い。けれどそれは食糧的飢餓における吸血鬼側の認識。実際、食を求める回数の多い吸血鬼は人間の場合、一日三食と仮定すると恐らく三日も持たないだろう。なんなら一日持つかが怪しいレベルだ。常に飢餓状態な吸血鬼が好むのは早死にする人間よりも血液の循環を多く行う狼族、鬼族である。
血液の循環が多い。
それ即ち、吸血鬼における永遠の糧ということである。また、それら種族は吸血鬼に一日一食を与えたとて、被害は大して被らずに済む。それは持ち合わせた治癒能力の高さと特有の強靭な肉体に恵まれているから。
だが、それとは別に吸血鬼とは圧倒的な上下関係が存在する。吸血鬼が持ち合わせるチャームにあてられてしまえば最後、後は食を与えし奴隷へと成り下がるのみ。
「こんな都合いいカモ離すわけないんやろ」
「うん、まあ…そう、なんだけど……」
そうなんだけど…とお茶を濁す理由がよく分からない。さっさとチャームなりなんなり使って、俺を丸め込めばいい話だと言うのに。
「いや、その……おれ…さ、チャーム扱えなくて…」
どういう事だ?と思い聞き返して見れば、彼は日頃から人間を襲ったりはしないらしい。なので、今回の事は本当に初めての体験らしい。誠か嘘かは定かではないが、常日頃から輸血パックと時折迷い込んでくる動物達を食糧としていたらしく、それは幼少期からの習慣だそうで、成長期まっさなかだというのにそうしていたが故、充分な能力の発達が見込めず…ということだそうだ。
それを抜きにしたって、人間という食糧に満ち満ちているこの世界でこんなひ弱な吸血鬼がいたこと自体が驚きである。けれど風習上、吸血鬼は目の敵なのだから、こんなにも都合の良い状況に目が眩まない訳がなかった。
此奴はチャームが使えない圧倒的弱者だ。それは吸血鬼内だけの話ではない。相対的に見ても弱者の部類に値する。この世はどれだけ必要な犠牲を払えるかが生き延びるための鍵だと言うのに、彼はどうだ。
捕食を好まず、挙句には餓死寸前だったではないか。お人好し…のようなその行動に俺は軽い不信感を抱きながら、この吸血鬼は酷く忠順なのだと確信した。そしてまた俺は嫌味ったらしく口を開いてやるのだ。
「ニキ」
「なに」
「食は与えてやっから、俺のにも付き合うてや」
「っざけんな…」
「ほらよく言うやん『嫌よ嫌よも好きのうち』って」
それとこれは違うだろ、と文句ひとつ言いたげに目つきの悪い訝しげな表情へと変化する。だがチャームを扱えないが故、顔ぶり、口ぶりしか反抗の意思は汲み取れない。それは彼の方が余っ程理解しているだろう。なんとも哀れで、無駄に拘り深い彼らしいと言えば彼らしい。
たかがチャーム如き、されど魅力の範疇の縮小。頭も良くなければ、劣化に気をかけるほど能力に長けている訳でもない。
__何が出来んの?
そう喉奥から這い上がってきたのは”コンプレックス”という痛いところを突くであろう言葉。発しそうになったそれをぐっと飲み込んで、言い換える。
「そんじゃあ、俺の食糧にでもなってくれんの?」
期待の眼差しに押し潰され、劣等感に囚われた瞳孔が愚者りと潰える………ように見えただけ。
そう見えたから何だと問われれば、あべこべなことを発してしまいそうだが、要約すれば俺がこいつそのものに興味を惹かれたのだ。それは単純なる好奇心と疑問から構成されており、目の前の吸血鬼の全てを暴きたいという欲に近しいのやもしれない。
「………わかった。わかったから、腹減った」
「さっそくご指名ですかいな」
「飯、くれんだろ…」
ぷくりと効果音と共に拗ねる小学生のように頬を膨らまし、目を逸らす様子の相方に挑発される。その様子に俺はこいつよりも優位に立っているのだと脳が錯覚し、その事実に心躍る。これはきっと”人間”としての性なのだろう。
「ん……」
甘く揺らめく吐息を漏らして、鋭利な牙で首筋を噛まれる。持ち合わせた性格に似つかわしくない控え目な噛み方に少しでも愛らしいと感じてしまう。そんな自身の感性に度肝を抜かしてしまいそうだ。
それはそれとして、この血が抜けていく感覚は気分のいいものではない。いくら再生速度が早いからとはいえ、貧血にならない訳じゃあない。
「…ふ、」
ゆっくりと首筋の熱が離れていく。それは彼が二度目の満腹を迎えたことの現れだ。それに、今回は先日よりも機嫌が良さそうに見える。
大変満足そうな彼を見ながら、俺は貧血による眩暈を起こしていた。身体に穴開けて、血を吸われて居るのだから当たり前といえば当たり前なのだろう。
「満足か?」
こくりと頷き、身を預けられる。これが彼の日課なのだろうか。本当、何を考えているのかわからない奴。
「ボビーの血甘くてうまい…」
「まだ飲みたいん?」
「そう、だけど…」
ぽつりぽつりと零された感想…に、少し挑発気味に問いかけると素直な返答がきた。けれど、俺はそんな素直なお願いを聞き入れるほど甘くは無い。
「飲みたいんやったら、俺のにも付き合ってくれんとなあ?」
これは見返りなんかじゃあない。ただ単に俺の欲求を彼にぶつけて、発散したいだけ。
シャラと揺らめくカーテンを開け、眩さが俺を襲う。”それ”に当てられて、自身の底知れぬ活力の漲りをひしひしと感じながら、弱者へと目線を動かす。
「今宵はこんなにも月が綺麗だと言うんに」
木々の奥から顔を出した満月に導かれるよう、本能の赴くまま、言の葉と共に狼煙は上がる。
飢えた腹にはご馳走が付き物だ。