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43
みら

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チョコ子
537
翌日。
仕事の合間。
深澤と渡辺が楽屋へ戻ると、阿部が先に座っていた。
テーブルの前で腕を組み、ものすごく真剣な顔をしている。
「……」
深澤が足を止めた。
「何、その顔」
渡辺も阿部を見る。
「怖いんだけど」
阿部は二人を見上げ、静かに言った。
「座って」
「何で?」
「いいから」
深澤と渡辺が顔を見合わせる。
「怒ってる?」
「分かんない」
「俺ら、何かした?」
「昨日しただろ」
渡辺が「あ」と小さく声を出した。
深澤も思い出す。
「最終兵器?」
阿部の眉がぴくっと動く。
「その呼び方やめて」
「で?」
深澤は阿部の向かいに座った。
「どうだった?」
渡辺もその隣に腰を下ろす。
阿部は二人を順番に見た。
「ダメだった」
「……」
「……」
深澤と渡辺が同時に黙る。
阿部が続けた。
「着た」
「めめも見た」
「固まってた」
渡辺が言う。
「じゃあ、効いてんじゃん」
「俺もそう思った」
「で?」
「近づいてきた」
深澤が身を乗り出す。
「おお」
「似合ってるって言った」
「うんうん」
「すごく、って」
渡辺も頷いた。
「そこまでは普通にいいじゃん」
阿部は一度、深く息を吸った。
「カーディガンをかけられた」
「……」
「……」
「風邪ひくよ、って」
深澤はゆっくり背もたれに寄りかかった。
渡辺は数秒、何も言わなかった。
「それで?」
「額にキスされて、台本を読みに戻った」
楽屋が静かになる。
阿部はじっと二人を見た。
「どう思う?」
深澤が先に口を開いた。
「……優しい」
「そういう話じゃない」
「いや、だって」
「カーディガンまでかけてくれたんでしょ?」
「だから、それが問題なの!」
阿部が珍しく、机を軽く叩いた。
「何で!?」
「俺だって分かんないよ!」
「めめが優しいのはいいの!」
「じゃあ、いいじゃん」
「よくない!」
渡辺が「面倒くさ」と呟く。
阿部が睨んだ。
「翔太がやれって言ったんだからね」
「着るだけって言ったじゃん」
「着た結果がこれなんだけど!」
「俺のせいじゃない」
「半分くらい翔太のせい」
「ふっかもいた」
深澤が驚く。
「俺を巻き込むなよ!」
「二人とも責任取って」
「何の責任だよ!」
三人でしばらく言い合っていると、やがて深澤が両手をテーブルに置いた。
「ちょっと整理しよう」
「何を?」
深澤は阿部を見る。
「まず、めめは今でもあべちゃんに毎日ハグする」
「する」
「キスもする」
「する」
「好きって言う?」
「言う」
「ご飯を作る?」
「作る」
「一緒に寝る?」
「寝る」
「帰ってきたら嬉しそう?」
阿部は少し考えた。
「……嬉しそう」
渡辺が即答する。
「倦怠期じゃなくない?」
「でも!」
阿部は自分の首元を指差した。
「ここ」
深澤と渡辺が阿部の首を見る。
何もない。
「綺麗でしょ」
渡辺が答える。
「綺麗だけど」
「そうじゃなくて」
阿部は真剣だった。
「前は、こんなに綺麗な期間なんてなかった」
深澤が吹き出した。
「そこが基準なの?」
「俺にとっては重要なの!」
「何でだよ!」
「変化が分かりやすいから!」
渡辺も笑いを堪えながら言う。
「倦怠期チェックに『首に跡がない』なんて項目はないから」
「じゃあ、何ならあるの?」
「知らないよ」
「翔太が言い出したんでしょ!」
「俺は倦怠期かもって言っただけ」
「余計なことを言った自覚はある?」
「ちょっとある」
「ちょっとなんだ」
深澤はまだ笑っている。
阿部は不満そうに二人を見た。
「笑い事じゃないんだけど」
「ごめん」
深澤は何とか笑いを収めた。
「でもさ」
「何?」
「普通に考えて、飽きたって感じではないと思う」
渡辺も頷いた。
「俺も」
阿部が少しだけ期待したように二人を見る。
「本当に?」
「だって」
渡辺は指を折りながら数え始めた。
「毎日ハグする」
「キスする」
「かわいいって言う」
「彼シャツにも気づく」
「昨日のも見て固まる」
「それで飽きてるっていうのは無理があるでしょ」
「……じゃあ、何で?」
また三人とも黙った。
深澤が少し考える。
「もしかして」
「何?」
「我慢してるんじゃない?」
阿部が首を傾げた。
「何を?」
「……知らない」
「そこまで考えてから言ってよ」
「めめの気持ちなんて、俺に分かるわけないだろ!」
渡辺も言った。
「何か理由があるんじゃない?」
阿部が渡辺を見る。
「例えば?」
「……」
渡辺が黙り込む。
「翔太?」
「今、考えてる」
「ないんじゃん」
「うるさい」
三人は揃って腕を組んだ。
完全に行き詰まった。
「……」
「……」
「……」
数秒後、深澤がぽつりと言った。
「本人に聞けば?」
阿部がすぐに顔を上げる。
「無理」
「何で?」
「何て聞くの?」
深澤は普通に答えた。
「最近どうしたの、って」
「そのあと、どうするの?」
「何が?」
阿部は少し顔を赤くしながら言った。
「『何で最近、俺に跡をつけないの?』って聞くの?」
深澤はその場面を想像し、また笑い出した。
「それは面白い」
「面白くない!」
渡辺も口元を押さえている。
「じゃあ、『俺に飽きた?』でいいじゃん」
「それも重くない?」
「今ここで俺らを呼び出して会議してる方が重い」
「……」
阿部が黙る。
深澤が頷いた。
「それは翔太が正しい」
「二人とも俺の味方じゃないの?」
「味方だけど」
深澤は笑いながら続けた。
「俺らに答えは分からないもん」
渡辺も少しだけ真面目な顔になる。
「でもさ」
「うん」
「めめがあべちゃんに飽きてるっていうのだけは、たぶん違う」
「何でそこは言い切れるの?」
「見てれば分かる」
深澤も頷いた。
「めちゃくちゃ見てるじゃん、あべちゃんのこと」
「誰が?」
「めめが」
「そう?」
「そうだよ」
渡辺が呆れたように言う。
「気づいてないの、あべちゃんくらいじゃない?」
「……」
阿部は少しだけ安心した。
けれど、やっぱり納得はできない。
「じゃあ」
「うん?」
「何で普通に寝るの?」
深澤と渡辺が同時に首を傾げた。
「それは知らない」
「分かんない」
阿部ががっくりと肩を落とす。
「何のための会議なの」
「そもそも、俺らは呼ばれただけだから」
「責任を取ってって言われてもね」
「二人が煽ったんでしょ」
また言い合いになりそうになった、その時。
楽屋のドアが開いた。
「おはよー!」
佐久間の明るい声が響く。
三人が同時に振り返る。
佐久間は妙な空気に気づき、足を止めた。
「……何してんの?」
「何でもない!」
阿部、深澤、渡辺の声が綺麗に重なった。
佐久間はますます怪しそうな顔をする。
「絶対、何かあるじゃん」
「ない」
渡辺が即答する。
「ある顔してる!」
「ないって」
「何の会議?」
深澤が答える。
「仕事の話」
佐久間はテーブルの上を見た。
資料はない。
台本もない。
いるのは三人だけ。
「仕事の何?」
「……」
深澤が言葉に詰まる。
阿部は小さく息を吐いた。
嫌な予感しかしない。
佐久間はにこにこしながら、三人へ近づいてくる。
「ねえ」
「何の話をしてたの?」
「佐久間」
阿部が真剣な顔で言った。
「絶対に聞かないで」
その言葉に、佐久間の目がさらに輝いた。
「めちゃくちゃ聞きたい!」
「ほら!」
渡辺が頭を抱えた。
緊急対策会議は、結局何一つ解決しないまま、新たな参加者を呼び込もうとしていた。
コメント
3件
隣で昼寝してる家族の横で大爆笑しそうになり起こさない様にタオルで口元押さえて読んでました😂続きが気になる(≧∀≦) 🖤の場合倦怠期とゆうより💚の事が大事過ぎて手が出せないのかな?( ´Д`)=3
続きすごく楽しみ😍
めちゃくちゃ面白かったです!阿部くんの「首に跡がない」問題、その基準が独特すぎて笑いました(笑)深澤と渡辺のツッコミも絶妙で、三人の掛け合いが本当に自然で読みやすかったなあ。最後に佐久間が入ってきて話がややこしくなりそうなのも、すごく気になります!みらさんの書くコメディ、好きです🥀