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男女と別れてから、涼の様子がおかしい。
どこか考え込んでいるような、浮かない感じ。いつもに増して上の空。
何を話せど生返事だし、そのくせやたらと周りを警戒し黒樹を守るように歩く。
黒樹はもうその変化に堪らず問うた。
「なんなの、それ」
「え?」
これには涼もヒトらしい反応。
「さっきあのチンピラカップルに会ってから、なんか気にしてることない?」
「……」
「なんなの。あの人たち。誰?」
「……」
「黙ってちゃわかんないよ。ねぇ、俺こういうのわかるんだよ。なんで俺のこと、守ってんの」
そこで、涼の目の色が変わった。
覇気。
「お前はまだ知らなくて良い」
「知らなくて良い、って何」
「あ……え?」
「俺は、涼の相棒なんだよ。誇り高き、お前の背中。不良かなんかしらんけど、新参者扱いされたくないな」
黒樹は青臭い苛立ちを涼の心に注いでいく。螺旋を描いて落ちていく。跳ねて少し漏れた。
涼は話しだそうとしない。
「……」
いや、どちらかといえば言葉を探している。
「あれは、いや、あいつらは、俺の昔の相棒だ」
「え?」
「でも、合わなくて」
「なにが?」
「心だよ。必死になって合わせて、戦って。そんなんで強くなれるわけねぇ。あいつら、やり方が汚ぇんだよ。なんていうか、優しい言葉で騙すっていうかな……」
歯切れが悪い。でも、たしかにあのとき黒樹にかけられた悪意は涼のとは違った。蔑む、いや、ある種憐れむような黒い目。
そして黒樹にはもう一つ、気になることがあった。
「俺のことを新しい猫って。どういうこと……」
そこまで言って、黒樹は口を噤む。
また、涼の表情が転がる。
そのまま、二人は押し黙った。
帰り道、やっぱり黒樹は気になった。遊んでいるうち、涼はもとに戻ったが、彼の抱えるなにかを受け止める準備をしておく。
栄の広場で、ライブでもしているようだ。この曲は確か、名古屋拠点の女性アイドルの曲のはずだ。なんでわかったんだろうか、知る由もない。
「黒樹」
廃工場に戻り、タンデムシートから半ば滑り落ちるようにして降りた黒樹に、涼が声をかけた。
「強くなれ」
涼はそれだけ言った。
「どういう……」
「そのままの意味だ。お前の思う”強い男”になってみろ。その火を使ってさ」
翌朝。
黒樹が目覚めると、曇天だった。
黒樹は昨晩のあの言葉がやに心にかかって、火を点けてみた。
燃えやすいものがないか確認し、窓を開ける。幸い無風である。
そのままグッと腹に力を入れる。
腹式呼吸で全力吐息みたいな、上に力を吐き出す感じで力む。然程筋肉の多くない黒樹でも、そうすると指先に、ホント漫画みたいに火が点く。
黒樹はそれをまじまじと眺めた。
感情や体調で温度、即ち火の色がかわる焔の火。あの火事の夜、手に入れた力。親たちは死んでいる。宴は終わったが、まだ壁や柱は騒ぎたがってる。
黒樹は着替えを出し始めた。
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