13. 嫉妬の先に
その後、入野自由は自分の気持ちにどう向き合うべきか、ますますわからなくなった。江口が女性スタッフに告白されたことに嫉妬した自分に対して、どこか自分を責める気持ちがあった。普段なら、あんなことでこんなに心が動かされることなんてないのに。だが、それが江口拓也だからこそ、特別だったのだと、入野はようやく気づく。
それから数日が過ぎ、仕事の合間に江口と顔を合わせるたび、入野はあからさまに冷たくなった。口を開けば何かしら反抗的なことを言ってしまい、江口が心配そうな顔をしても、入野は気にする素振りすら見せなかった。
ある日、また休憩室で二人きりになった時、江口はしばらく黙っていたが、ついに口を開いた。
江口「自由くん、なんか最近、変だぞ。俺、何かした?」
その言葉が、入野の胸に響いた。江口の声には、いつもの優しさと少しの戸惑いが混じっていて、入野はそれに答えられずに一瞬目をそらした。
入野「別に、なんでもないよ。」
入野は無理に笑おうとしたが、その笑顔がすぐに崩れた。
入野「本当に…何でもないんだ。」
江口は黙って入野を見つめ、そして少し考え込んだ後、ゆっくりと手を伸ばして、入野の肩を軽く叩いた。
江口「もし、何かあったら俺に言って。」
その言葉が、入野をまた一歩江口に近づけたような気がした。
入野はその言葉に一瞬心が揺れたが、すぐにその気持ちを隠して首を振った。
入野「うるさい、別に…」
その言葉がまた、どこか自分の本心を隠すためのものだとわかっていた。だが、どうしても言葉にできなかった。江口の優しさが、何かを期待させてしまうようで、心の中で自分の気持ちがさらに大きくなっていった。
その後、江口は少しだけ沈黙し、やがてため息をついた。
江口「自由くん、お前、俺のこと…気になるのか?」
その言葉に、入野は思わず固まった。江口の目が、少しだけ真剣な表情を浮かべていた。その瞬間、入野は自分が何を感じているのかを、強く自覚した。
入野「え?」
入野はその一言を発した後、すぐに自分の顔が赤くなっているのを感じた。江口の目が、じっと自分を見つめている。その瞬間、心臓が激しく鼓動しているのがわかる。
江口「お前、最近変だって思ってたけど…もしかして、俺のこと、気にしてるんじゃないか?」
江口の声は、いつも通りの優しさと少しの冗談を交えたものであったが、その言葉に入野は反応できなかった。自分の気持ちが、言葉として出てしまうのを恐れていたからだ。
入野「うるさいな…」
入野は顔を赤くしながら、無理に笑って誤魔化すように言った。
入野「別に、気にしてないよ。ほんと、ただの気のせい。」
その言葉が、逆に江口にどうしても気づかれてしまう。
江口「そうか?」
江口は少しだけからかうような笑みを浮かべ、入野の顔をじっと見つめた。その表情が、どこか入野をドキドキさせる。
江口「でも、もしそうなら…お前が怒った時に俺、ちょっと気になったよ。」
江口の言葉に、入野はまた驚くと同時に、胸の奥が震えるのを感じた。江口はまるで入野の気持ちに気づいているかのように、真剣な目を向けてきた。
江口「だから、もしかして俺が気になるなら…お前も、もっと素直になったほうがいいんじゃないか?」
江口のその言葉は、入野の心に突き刺さった。今まで、自分が隠していた気持ちが、江口の優しさに触れて、一気に溢れ出してきた。
入野は一瞬、言葉を呑み込んだ。
入野「…うるさい、江口なんて…」
その言葉が、また涙がこみ上げてきそうなほど切なく感じたが、入野はなんとかそれを押し殺すように、江口に背を向けて歩き出す。
入野「俺は…」
その時、入野の胸が再び高鳴った。それでも、今はまだ素直になれない自分が歯がゆくて、悔しい。江口に対して、こんな気持ちを抱いていることが、どうしても素直に認められなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!