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王都郊外、結界で厳重に囲まれた訓練場。
私は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(……なに、これ)
目の前の光景が、理解できない。
「今のは、基礎だ」
淡々とそう言ったのは、リヒト・ヴァルツ。
彼の周囲には、いくつもの魔法陣が展開されていた。
光でも、闇でもない。
それでいて、どちらにも干渉するような――歪み。
「……基礎?」
思わず聞き返す。
「そうだ。威圧、制圧、遮断。
すべて“力を見せないため”の技術だ」
そう言って、彼は指を鳴らした。
――瞬間。
空間が、沈んだ。
重圧。
息が詰まり、足元の地面がきしむ。
(……うそ)
魔力をぶつけられているわけじゃない。
なのに、身体が動かない。
「魔力は、出すものじゃない」
リヒトは、私を見て言う。
「“存在させる”ものだ」
次の瞬間、重圧は霧のように消えた。
何事もなかったかのように。
(……この人、強すぎる)
私は、ごくりと喉を鳴らした。
「……すごい」
心から、そう思った。
「……あんなの、見たことない」
リヒトは一瞬だけ視線を逸らし、
すぐにいつもの無表情に戻る。
「比べる必要はない。
君は、君の魔法を使えばいい」
そう言われて、胸が少し温かくなる。
「……リヒトは、怖くないんだね」
ぽつりと零すと、
彼は少しだけ眉を下げた。
「……怖いさ」
「え?」
「君の力は、正しく導かなければ、
世界を壊す」
それでも、と彼は続ける。
「だから、ここにいる」
私は、その言葉を聞いて――
(……この人、好き)
とても単純な感想が浮かんだ。
気づけば、私は彼の外套の端をきゅっと掴んでいた。
「……?」
リヒトが、驚いたようにこちらを見る。
「つよいし、やさしい」
正直な気持ちを口にすると、
彼は、わずかに目を見開いた。
「……離れないな」
「だめ?」
「……いや」
否定は、されなかった。
その空気を――
「……は?」
ぶち壊す声が、響いた。
「なんで、知らない男に懐いてるんだ……?」
聞き覚えのありすぎる声。
振り返ると。
そこに立っていたのは、
ユリウスお兄様。
その隣に、レオンハルト。
さらに、エリオス、セレス、カイ、ノア。
全員、信じられないものを見る目でこちらを見ていた。
「ちょ、ちょっと待ってルクシア!」
「その人誰!?」
「離れたほうがよくない!?」
(……来た)
リヒトは、静かに一歩前に出る。
「王命により、彼女の専属指導を任されている」
「……は?」
ユリウスの目が、細くなる。
「……俺の妹に、何してる」
空気が、一気に張りつめた。
(やばい、これ……)
私は、慌てて口を開いた。
「ち、ちがうの! リヒトは、すごく強くて、ちゃんと教えてくれて……!」
必死な弁明に、
学院側は一斉に黙り込む。
そして。
「……強い?」
レオンハルトが、静かに尋ねた。
リヒトは、短く答えた。
「ええ」
その一言で、
再び空気が軋んだ。
――特訓は、思わぬ形で中断され。
新たな火種が、
静かに生まれていた。