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共感してもらえてとても嬉しいです!柊さん、コメント有難うございました!
どのくらい寝ていたのだろうか…目が覚めて起き上がり外を見る。まだ外が明るいのを見て安心する。雨はいつの間にかあがっていて日差しが縁側に差し込んでいた。
「起きた?体はしんどくない?」
声のする方へ振り返ると着物姿の彼がカメラをみながらそう問いかける。
「あ、ごめんなさい。俺寝てしまって。体も綺麗にしてくれて有難うございました。」
羽織っていた着物は無くなっており、着てきた服に変わっていた。寝ている間に着替えさせてくれたんだとわかるが、それに気付かない程俺は寝入ってしまってたようだ。
「写真…よく撮れてるね。」
「有難うございます。」
「僕、この写真好きだなぁ…」
そういう彼に近づき一緒にカメラの画面を覗く。そこには横を向く彼が写っていた。髪の毛が顔にかかりあまり表情は見えないがどこか寂しげにも見える。
「なんで好きなの?」
「僕、寂しかったんだ…それを見透かされたみたいで。」
「今も?」
そう問いかけると笑顔で俺の方を見る。持っていたカメラを俺に渡すと立ち上がり外へと向かっていった。
「ねぇ、写真撮って。」
振り返る彼の表情はどこか嬉しそうにも見えた。俺はカメラを持って縁側へ向かう。カメラを覗きフォーカスを彼に合わせシャッターを切る。
「え…」
俺は驚いた。シャッターを切った瞬間、ひらひらと花弁が降ってきたからだ。周りに木々や花々などはない。それによく見るとほんのりピンク色をしたそれは桜のようにも見えた。
「手、止まってるよー」
「あ、ごめん!」
俺はまたカメラを覗き写真を撮る。雨上がりで日差しが強いのもあり、舞う花弁がキラキラと光り彼を一段と輝かせる。驚きや不思議な気持ちはとうに消え目の前の彼に惹きこまれていた。
「撮れた?」
「はい。どうですかね?」
「うわぁ…すごい綺麗な写真…」
「はい、とても綺麗でしたよ。」
俺は嬉しくなり彼がどんな顔をしているのか見たくなった。だが、俺が思っていた表情とは違って何故か彼は笑顔で涙を流していたのだ。
カメラの画面にポツポツと彼の涙が落ちる。俺は袖を伸ばして彼の涙を拭った。
「なんで、泣いてるんですか?」
「あはは、なんでだろうね…」
「嬉しく…ない?」
「違う!めちゃくちゃ嬉しい。」
「なら、この写真印刷して持ってきます。」
「え…いいの?」
彼は少し曇った表情の後、すぐに笑顔になってそう答えた。気にはなったが笑顔の彼を見ると嫌な訳ではなさそうだった。
「次、会う時に渡します。」
「うん!楽しみにしてる。」
「じゃぁ、俺はこれで。」
「有難う…あ!名前聞いてもいい?」
「俺はshkです。」
「shkね!僕はbr。」
「brさん…」
「さん付けも敬語もいらない!」
「じゃぁ、brまた。」
「うん、shkまたね。」
お互いに手を振りながら挨拶を交わす。俺はカメラを握りしめて家路へと向かう。また彼のことを一つ知れた喜びと写真を気に入ってくれた事に嬉しくなり早く次が来ないかと今から考えていた。
「よし…」
数日が経ち、俺は今まで撮った写真を印刷し一枚のアルバムにした。喜んでくれるかなと期待を胸に家を出る。
いつもの茂みを抜けて到着までもう少し。ようやく家が見えてくる。しかし、そこには今までとは違う景色になっていた。
「え…?」
俺は家の前で立ち止まる。いつもの玄関、その左を行くと縁側がある。しかし、何故か縁側の正面にこの前には無かったはずの桜の木が立っていた。
「桜…?」
そっと近づき桜の木に触れる。すると何故だか感じた事のある温もりが木から伝わってくる。
俺は自然と涙が溢れた。その温もりは紛れもなく彼と同じだったからだ。
「br…?」
答えるはずが無いのにそう呼びかける。
「ほら…写真持ってきたんだよ。見える?綺麗に撮れてるでしょ?」
アルバムをめくるたびにbrとの思い出がよみがえり涙が止まらなくなる。するとヒラヒラと花弁がアルバムに落ちる。彼も見ているのだろうか、花弁が落ちたページは彼が好きだと言っていた写真だった。
「br…有難う。俺、brに会えて楽しい事いっぱいあった。brは…?」
“俺と会わなければ”と言いかけたその瞬間、物凄い風が吹き花弁が舞う。まるで言うなと言われてるかのように。
「…一緒に見よっか。」
俺は木にもたれかかり腰を落とす。思い出を語りながら一枚、一枚、写真を見た。
時折涙を拭いながらその度に花弁がアルバムに落ちてきてbrに大丈夫と言われているみたいだった。
「…最後のページ」
花弁の舞う中で写るbrは本当に綺麗だった。俺はアルバムを閉じてその場に置き立ち上がる。優しくまた桜の木に触れる。
「え…」
“shk、ありがと”
さっきまでは無かった文字が彫られている。俺はこの桜の木がbrだと確信に変わる。その文字に顔を近づけてそっとキスをする。
「有難う、br。」
桜の花弁がまたヒラヒラと落ちてくる。僕もと答えてくれているのだろう。俺は花弁を1枚手に取り握りしめる。
「またな。」
まるであの時と同じようにbrに挨拶をし、来た道を俺はゆっくりと戻る。
“shk”
と、呼ばれた気がして振り返る。そこには薄らと彼の姿が見えた気がした。俺は笑顔で手を振る。きっと彼も笑顔で振ってくれているだろう。
寂しいはずなのに何故だろうか、きっとまたどこかで会える気がして仕方がなかった。
次会えたらきっとまた写真を撮るだろう。そして伝えれなかった気持ちを伝えようと握った花弁を見て思う。
“大好きなbrへ、またどこかで”
終わり