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アジトに戻った四郎達は、兵頭雪哉の到着を待っていた。
六郎はモモを風呂に入れる為にリビングにはおらず、六郎を抜いた5人がリビングにいたのだった。
「四郎、手当てした方が良いよ。ほら、上着とシャツ脱ぎな。」
二郎はそう言って、四郎に上着を脱ぐように指示をした。
四郎は黙ってジャケットとシャツを脱ぎ上半身裸になりると、二郎は救急箱を開けた。
「傷、増えたね。」
二郎は四郎の体にある古い傷を見て呟いた。
「この仕事してれば嫌でも付くだろ。」
煙草を咥えた四郎は火を付け、言葉を放った。
「てゆうかさー、三郎の奴はどこに行ったんだろうなー。帰って来ないし、連絡来てないの?四郎。」
「来てない。」
五郎の問いに答えた四郎は白い煙を吐き出した。
「四郎にも連絡が来てないのか!?」
「あぁ。」
ガチャッ。
玄関の扉が開くと、四郎達は全員立ち上がった。
静かな足音が廊下に響き、リビングのガラス張りの扉に2人分の人影が映った。
一郎はすぐさま扉に近付きドアノブを捻った。
「お疲れ様です、ボス。」
「おう、お前等もご苦労様。怪我の具合はどうなんだ?四郎。」
兵頭雪哉はそう言って、四郎の方に視線を向けた。
四郎は煙草を消し兵頭雪哉の問いに答えた。
「擦り傷だけなので、大した事はないです。」
「なら良い。六郎とモモちゃんは?」
「六郎なら、モモちゃんと一緒にお風呂に行きました。モモちゃんをお風呂に入れる時間だったので…。」
「そうか。なら、先に話をするか。」
二郎の言葉を聞いた兵頭雪哉は、ソファーに腰を下ろし岡崎伊織は兵頭雪哉の後ろに立った。
「ボス、俺から先に宜しいですか?」
四郎は兵頭雪哉に問いた。
「何だ?」
「賭博に行った連中達の証言はどうやらJewelry Words の力らしいです。モモがテレビを見ながらそう言っていました。」
「何?Jewelry Words の能力だと?」
「はい。モモが言っていたので…、本当かどうかは分からないんですが。Jewelry Pupil 同士にしか、分からない何かがあるみたいです。それと椿の所にもJewelry Pupil がいますね。賭博の時に椿が言っていましたし、俺も会った事があります。デパートの襲撃の時、やり合いましたから。」
「椿の所にJewelry Pupil がいても、おかしくはない。アイツはJewelry Pupil を集めている。四郎を賭博に招待したのも、四郎の存在を世間に知らせる為だったのかもしれんな…。俺の判断ミスだ。」
兵頭雪哉はそう言って、四郎達にタブレットの画面を見せた。
画面に映っていたのは、四郎の写真と違法賭博を開催した男として書かれ、少年少女殺害の殺人者とも書かれていた。
「何だこれ!?全然、嘘の情報じゃねーか!?これも、Jewelry Pupil がやったのか?」
「モモちゃんのJewelry Wordsの能力を見ただろ?情報操作が出来てもおかしくないよ。記憶を改竄(かいざん)させたりも出来るのかもしれない。」
五郎の発言を聞いた二郎も言葉を放った。
「ネットも四郎の話題で持ち切りだね。配信者達も配信のネタとして、四郎を血眼になって探してるね。」
パソコンのキーボードを叩きながら七海が言葉を放った。
「四郎は暫くここにいろ。今は仕事に出ても、しょうがないからな。それから、三郎の事だが…。」
岡崎伊織は一呼吸してから再び口を開けた。
「まだ、居場所は分かっていない。下の奴等に捜査はさせているが…、連絡が来たら知らせてくれ。四郎、お前には連絡は来るだろうからな、分かったな。」
四郎はこの時、兵頭雪哉と岡崎伊織に三郎から連絡が来た事を言わなかった。
三郎から来たと言えば、最後のメッセージの部分を言わないといけなくなるからだ。
四郎は三郎を裏切る事は最初からなく、初めて兵頭雪哉に嘘を付いたのだった。
「分かった。」
そう言って、四郎は脱いだワイシャツを手に取った。
CASE 六郎
モモちゃんの白い髪を丁寧に洗い、シャンプーを流した。
「四郎は、私の事をどう思ってるのかな…。」
「え?」
あたしは突然の問いに驚いた。
「どうしたの?」
「美雨ちゃんと、あの男の子が羨ましいなって。」公園にいた時の事かな…?
確かに辰巳さんと一緒にいた男は、Jewelry Pupil の子供を大事に思っているのが分かる。
だけど、四郎はそう言う感じじゃない。
2人にはまだ、距離がある。
知り合ってまだ日が浅いし、信頼関係も築いていない。
「モモちゃんは何で、四郎の事が好きなの?」
あたしはそう言って、モモちゃんの体を優しく洗い始めた。
柔らかいスポンジに泡を染み込ませ、肌が傷付かないように洗う。
「私を助けてくれたから。」
「うん。」
「私、自身に興味がないから。」
「興味がないから好きなの?」
「うん…。Jewelry Pupil ?だからとかじゃなくて…。」
「四郎はそう言うのに、興味はないわね。」
シャワーで泡を流し、モモちゃんを湯船に入れた。
「モモちゃんは、四郎と一緒にいてどう?」
「ポカポカするよ。頭を撫でてくれたんだよ?」
「へぇ、四郎が頭を撫でるなんて初めてじゃない?」
「そうなの!?」
モモちゃんはそう言って、あたしに近寄った。
アパタイトの瞳がキラキラ光っていて、目が眩みそうだった。
「そうだよー?あたしには撫でた事ないもの。四郎なりに大事にしようと思ってるんじゃないかな?」
「そうかな…。」
「モモちゃんと四郎にはまだ、時間が足りないのよ。慌てなくて良いから、ゆっくり仲良くなれば良いんじゃないかな?」
「六郎って、すごく大人だね。」
「モモちゃんよりは大人だよー。」
四郎なりに、モモちゃんを大事にしようとは思ってるのね。
あの四郎がね…。
四郎は三郎以外に心を開いていなかったし、あたし達に開いてくれるまでかなり時間が掛かった。人を信じて裏切られて、信じる事が怖くなって。
「六郎は大事な人いるー?」
泡をフゥッとしながらモモちゃんが尋ねて来た。
大事な人…か。
「ボスや四郎達は大切だよ?一緒にいるからね?そうだなぁ…。会いたい人はいるかな。」
「会いたい人?」
「うん、その人はね…。あたしのお兄ちゃんなんだけど、あたしの前からいなくなっちゃったんだ。」
そう。
あたしは兄を探している。
思い出したくない過去の中でも、兄だけいつも思い出す。
ガシャーンッ!!
ガラスの割れる音と、汚い男と母親が床に倒れた。
「はぁ…、はぁ…。」
兄の手には血の付いた包丁が握られていて、カタカタと震えていた。
「お兄ちゃん…?」
その日は雨が降っていて、湿った空気だった。
雨音と兄の息遣いだけが部屋の中に響いていて、赤い流れた血が白色の絨毯を赤く染めた。
兄は振り返って、あたしの体を抱き締めた。
「お兄ちゃん?」
「もう、大丈夫だからな。もう、あんな酷い事をされなくて、お前が傷付かなくて良いんだ。」
幼かったあたしは、目の前で起きた事が理解出来ていなかった。
兄はあたしの体を離し、泣きながら部屋を出て行った。
あの日から、兄が家に帰って来る事はなかった。
あたしはあの頃は小さかったのに、母の再婚相手からセクハラをされていた。
あたしの体を嫌らしく触り、嫌がったら殴られた。
兄はあたしを守ろうといつも殴られていた。
そんな、あたし達を見て母は何もしなかった。
見て見ぬフリをして再婚相手の男のご機嫌を取っていた。
今、思えば兄が母と男を殺したんだと分かる。
兄だけがあたしを守ってくれた。
その兄が、あたしを置いてどこかに行ってしまった。
あたしは兄を探しす為にボスに拾って貰ったんだ。
「六郎?」
モモちゃんの声で、ハッと我に返った。
「あ、ごめんね。こんな事を話すのは四郎達だけだったから。昔の事を思い出しちゃった。」
そう言うと、モモちゃんが抱き付いて来た。
「ん?どうした?」
「私も六郎の事、好きだよ?」
アパタイトの瞳があたしを捉えた。
可愛いな…。
Jewelry Pupil には魅力する力があるのかもしれない。
こんなに可愛い女の子を、大事に出来ない訳がない。
女のあたしでも大切にしたいと、思ってしまうんだもの。
「ありがとう、モモちゃん。」
「六郎は私に優しくしてくれるから好き。」
「そっか。そろそろ、上がろうか。」
あたしはそう言って、モモちゃんを抱き上げ湯船から出た。
𣜿葉の自宅マンションー
「痛ってぇー!!」
「うるさい!近所迷惑だろ!?」
「もうちょい優しくしてくれよなぁ…。」
「薫は𣜿葉の体にある擦り傷の手当てをしていた。
「兄貴が怪我して来るのが悪いでしょ!!」
「うぅ…、仕方がなかったのに…。」
「兄貴が怪我したり、帰りが遅くなったの久しぶりだったから…。」
𣜿葉は薫の言葉を聞いた瞬間、すぐに後ろにいる薫を見た。
今にも泣き出しそうな薫の顔を両手で優しく触れた。
「ごめん、俺が悪かった。」
「何で?今日は行かなきゃいけなかったの?兄貴が行かないと駄目だったの?」
「…、薫。拓也(たくや)さんの事を覚えてる?」
「拓也…お兄ちゃんの事?」
「拓也さんと、両親を殺した男に会いに行ったんだ。」
𣜿葉はそう言って、薫を抱き締めた。
「薫。」
「何んだよ…、兄貴?」
「薫、兄ちゃん…。お前の事まで失いたくない。」
薫は何かを察し𣜿葉の背中に手を回した。
「うん…。」
「薫、何をしてもお前の事だけは守るからな。」
「僕も兄貴…、兄ちゃんを…、守るからね。」
𣜿葉と薫は黙って抱き締め合った。
九条本家ー
辰巳零士はお菓子を持って、九条美雨の寝室の前に立っていた。
「お嬢、辰巳です。お部屋に入っても宜しいですか?」
「辰巳!?ど、どうぞ…。」
九条美雨は襖を開け、辰巳零士を招き入れた。
「どうしたの?あ、お菓子!!」
「親父には内緒です。」
「内緒、内緒!!」
九条美雨は嬉しそうに笑いお菓子を受け取った。
「すいません、お嬢。心配させましたよね。」
「うん、心配した!!だけど、モモちゃんやお爺ちゃんがいてくれたから怖くなかったよ。辰巳が怪我して帰って来たのが嫌だったかなぁ。」
「うっ…。」
「美雨の力、使わなかったの?」
「お嬢の力は使いたくありません。」
辰巳零士はそう言って、九条美雨の小さな手に触れた。
「どうして?」
「お嬢が大切だからです。お嬢の体を傷付けてまで使いたくないからです。」
「美雨も辰巳が大事だよ?」
「その気持ちだけで十分です。あの日、お嬢が俺を引き上げてくれた時から…。俺はお嬢に助けられてます。」
「辰巳、何かしようとしてる?」
九条美雨はそう言って、辰巳零士の顔を覗き込んだ。
「お嬢、俺の事だけは嫌いにならないでくれますか?」
「辰巳…?」
「…、すいません。変な事を言い…。」
「嫌いにならないよ!!」
ギュッ。
「お、お嬢っ?」
「辰巳が美雨を置いて行こうとしても、付いて行くから!!」
「ッフ、あははは!!」
辰巳零士は大きく笑い九条美雨を抱き締めた。
「あの日と同じだ。」
そう言って、辰巳零士は九条美雨の髪を撫でた。
椿の自宅高級マンションー
「嘉助、チェスやらない?」
「チェスですか?」
嘉助は椿の前にあるチェス版に目を向けた。
「そろそろ計画を進めようと思ってね。」
椿はチェスのコマをチェス版の上に並べ、キングの周りにナイトを7個並べ1つを倒した。
カランッ。
ナイトのコマが倒れ、椿はナイトのコマを拾い上げた。
「嘉助、兵頭雪哉の所のナイトを1人連れて来い。」
「…。始めるのですね、椿様。」
「あぁ、コマは揃った。どちらの王が強いのか証明しようじゃないか、兵頭雪哉。」
ガシャーンッ!!
椿はそう言って、並べたチェスのコマを乱暴に倒した。