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けたたましいアラームの音で目が覚める。
翠| 「むーう……うるっさいなぁ……
ってやば!!もうこんな時間!?」
針は午前8時を指していた。いつもなら既に家を出ている時間だ
急いで階段を駆け下りてリビングへ向かう
りょう「おはよ。朝ごはん出来てるよ。」
いつもと変わらぬ声と笑顔に少しだけ安心感を覚えつつ、大急ぎで支度をする。
翠「ごめんっ!バイト遅れちゃいそうだからごはん要らないや!!帰ってきたら食べるね! 」
支度を終え家を飛び出す。ドア越しにりょうの行ってらっしゃいが聞こえた気がするが、返事をする暇もなく全速力でバイトに向かう。
翠のバイト先は個人経営のカフェだ。街の中に1つはあるようなこじんまりとした店だが、マスターの淹れるコーヒーが絶品らしく客足が絶えない。
店の名前はcan relax。訪れる人がゆったりとくつろげるようにとこの名前をつけたらしい。
なんとか遅刻をせずに済んだが、朝食を抜いたせいか少しふらついてしまった。
翠「うぅ…やっぱ食べればよかった……」
「大丈夫?」後ろから声をかけられ「ひゃっ」っと声が出そうになった。
声をかけてくれたのはバイト仲間の門倉さんだった。
翠は正直、この男のことが嫌いだ。何かとあれば理由をつけて食事に誘ってくるし、業務中の不要なボディタッチも多い。何より門倉は高身長であった。翠とは約30cm差あり、喋る時も見上げなければいけないので首が辛く、時折、子供扱いされていると感じる事もある。
ただ、世間的に見れば顔は整っている方らしい。マスター曰く、門倉目当てでこの店に来る女性客も少なくない。というか、ほとんどの女性客が門倉目当てだ。それに門倉の声はどこか安心感を持たせる。嫌いな翠でもそう思うのだからお客さんにとっては門倉と話す時間はとても心地の良いものだろう。
翠「だいっ…じょうぶですよ、ちょっと躓いただけですし。」
門倉「そう?ならいいけど。そういや翠くん、シフトお昼までだったよね?俺、その時間に休憩取るから一緒にご飯食べに行かない?」
まただ。少し喋る隙を与えるとすぐに食事に誘ってくる。誘われる度に断っているのだが、なかなか諦めてくれない。
今回も例によって断るつもりだ。
翠「いきませっ、」言いかけた所で翠のお腹が鳴る。朝食を抜いたせいだ。これでは断りにくくなってしまった。
門倉「お腹、なってるじゃん。かわいい笑じゃ、決定ね」
翠は門倉をキッと睨みつけ、接客をしに行く。
ああ言われてしまってはもう行かない訳には、ふつふつとそう考えている間に退勤時間が来てしまった。
門倉「翠くん、もう上がっていいよ。じゃ、更衣室で待ってて。すぐ行くから。」
このまま無視して帰る事も出来たが、翠は人を無下にするのが苦手だ。嫌いな人でもある程度は優しくしてしまうのだ。そのせいで色々と苦労した事もあった。
門倉「おまたせ〜じゃっ、行こっか。」
門倉曰く、隠れ家的な所であまりお客さんは居ないらしい。こいつ、2人きりの食事を楽しむつもりだ と翠は思った。
しばらくして門倉が口を開く
門倉「俺、諦めてないから。」
翠「、、?何をですか?」
門倉「翠くんの事。彼氏いるとか関係ない。絶対俺のものにする。」
翠「はぁ……僕は今の人と別れる気は全くないんで無駄だと思いますけど。」
翠がここまで強く突き放すのは滅多にない事だったので、翠自身も少し驚いていた。自分は嫌いな人にならここまで冷たく出来るのかと。いや、恋人絡みの話だからか?等と考えてるうちに店に着く。
ドアを開くと小気味いいベルの音が二人を迎える。
案内された席に座り、メニューを見る
門倉「俺のおすすめはね、これ。スフレパンケーキ。カスタードが香るふわふわな生地に季節のフルーツを乗せてるやつ。翠くん甘いもの好きだったよね?」
正直、早く帰りたかったので言われるがままに注文した。
しばらくしてからパンケーキが届いた。想像以上にふわふわな生地にカスタードの香りがとても食欲をそそる。フルーツも全て色鮮やかで、とても美味しそうだ。
パンケーキを口へ運ぶと甘い香りが身体全体に広がったような感覚になり、自然と口角が上がり、そのままの表情でしばらくボーっとしてしまった。
カシャ
翠「………はっ!」
シャッター音で意識が戻る。まさか今の表情を撮られま?こいつに?門倉に写真を消せと目で訴えてみるが、そんな事は気にもとめない様子だ。
ふと窓の外に目をやると、通行人と目が合った
翠「あっ…」
翠は慌てて店を飛び出し、先程の人を追いかけようとするが、すぐに見失ってしまった。
翠「い、今の……りょーくんだ………嫌なとこ見られた……」
すぐに電話をかけるが出てくれない。
店に戻って門倉に自分の代金を渡し、大急ぎで家に帰る。しかし、家の中には誰も居ない。机の上に置き手紙があるだけだった。
翠「なにこれ、、えっ、、、うそ……」