まず最初に車で向かった場所は元貴の家だった。お互いの恋人だったこともあり今までも励まし合ってきた。
元貴は人に言えないような仕事をしている。恐らく裏の人とも多少は関わりがあるだろう。けどそれを聞いたりはしない。元貴はいい顔はしないし、言わば暗黙の了解と言うべきか。かくいう俺も音楽系の仕事に就いてるとはいえど完全に白とは言えない。勘のいい元貴もそれに気が付いている。自然とお互いを気遣っているのだ。
元貴から渡されていた合鍵を使う前にインターホンを押す。軽快な音を奏でるそれが鳴り終わると同時に玄関の扉が開いた。
「合鍵渡したじゃん。」
「この前勝手に入ったらめっちゃビビってたから配慮してあげたんだよ。」
開口一番不機嫌そうな顔で呟く元貴に言い返す。つい先日、話し合いの為に合鍵を使って部屋に入ったらトイレから出てきた元貴とばったり遭遇して叫ばれてしまった。
「だってあの時連絡無しで来たから!…まあいいや、とりあえず上がってよ。」
「お邪魔してまーす。」
部屋に上がっていく元貴を追って玄関から家に入る。靴を脱いでいる時、靴箱の上に飾られた3人の写真が目に入った。真ん中で無邪気に微笑む涼ちゃんの姿にぐっ、と唇を噛み締める。今回ばかりは遊びじゃない、と緩んでいた気を引き締めて自分に言い聞かせた。
作業部屋と言われているリビングの隣にある空間に足を踏み入れる。壁際に設置されている大きな机の上には沢山のモニターやキーボードが置かれていて、少し暗めの部屋の中で眩しいほどの光を放っていた。部屋の真ん中に置かれているもうひとつの机の上には食べかけのカップラーメンと様々な雑誌や書物が積み上げられるように置かれている。
「お前こんな時に飯食ってたのかよ…。」
「色々してたらお腹も空くでしょ。若井もなんか食べる?」
部屋の壁に掛けられた時計に目をやる。短い針は9時を示しており、朝ごはんを抜いたお腹も魅力的な提案に賛成するように腹鳴している。
「食べたいけど、カップ麺は勘弁して。」
「えー…なんかあったっけな…。」
俺の要望に応える為に、ぶつぶつと呟きながらリビングに向かっていく元貴の背中を見送る。持ってきた鞄を適当な所に置いて部屋の中を見渡す。いつ見てもごちゃごちゃとしていて頭が痛くなる。流石情報屋と言った所か。
暫く見て回っていると、明かりを放つディスプレイに表示されている文字が目を引いた。誰かとのメッセージ画面のようで、何回かやり取りが行われている。傍らに置かれているマウスに手を添えスクロールをしようとした時、後ろから肩に触れられた。
「盗み見趣味だっけ?」
慌てて振り向けば、カレーライスを盛った皿を片手に持っている元貴がいた。
「ご、ごめん。なんか映ってたから。」
「別にいいよ、ちょうど話そうと思ってた。」
はい、と手渡されたお皿を受け取る。それをカップラーメンが置かれている机の傍に置くと、入れ替わるようにカップ麺を元貴が持っていく。どうやらモニターの方の机で食べるようで、椅子に座る元貴の顔を青白いブルーライトが照らす。
特に興味もない雑誌を手に取り、スプーンを片手にカレーを食べ進めていると、部屋に響いていたタイピング音が止む。それと同時に元貴の座る椅子がくるりとこちらに向いた。
「分かったよ、涼ちゃんのこと。」
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