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「しまった。俺、小山の家知らねーや」
威勢よく自宅を飛び出したはいいものの……目的地の住所が分からなかったのだ。興奮して頭に血が上ったまま、後先考えずに突っ走ってしまった。マヌケ過ぎる。
「ウチと反対方向っていうふわっとした知識しかなかったんだよな。何やってんだろ……」
足を止めて路端にしゃがみ込んだ。一旦冷静になった方がいい。頭の中で先ほど東野から聞いた話を整理することにした。
切り裂かれた俺の受験票……どうしてこんな事件が起きてしまったのか。東野から経緯を聞かされはしたけど、到底納得できるようなものではなかった。
犯人は同級生の小山空太。彼は俺と同じく魔道士になることを夢見て、玖路斗学苑の試験に挑んだ。でも、その結果は残念なもので……小山は一次試験を通過することが叶わなかったのだ。
試験に相当自信のあったらしい彼は、この結果を受け入れることができず、不満を募らせていたらしい。そして、そんな小山の神経を更に逆撫でしてしまったのは俺の存在だ。
俺は一次試験に合格した。ただでさえ納得のいかない結果であるのに、目の前で合格したと騒いでいるのは、お世辞にも優等生とはいえない俺。小山の精神状態はどんどん良くない方向に悪化していき、俺に対して憎悪を抱くようになった。そして事件が起きたのだという――――
「やっぱどう考えてもただの逆恨みだろ……」
試験は受かる人がいれば、落ちる人もいる……か。
小山から見て俺の態度がムカついたというのは分かる。誰が聞いているかも分からない場所で、試験の合否について話すこと自体良くなかったかもしれない。
「でもさ……だからって他人に八つ当たりしていいはずがないだろ。俺だって頑張って勉強したんだよ」
ビリビリになった受験票を発見した時は頭の中が真っ白になった。思い出すたびに心臓がバクバクと早鐘を打つ。幻獣の能力を使ってまで俺を虐げようとするなんて……
俺の試験を受けられなくしたところで、小山が繰り上がりで合格になるわけでもない。本当にただ俺を苦しめるためだけの行為。それほどの憎しみを向けられていたことにもショックだった。
もし東野がいなかったらどうなっていただろう。二次試験の直前にこの事態に気付いていたかもしれない。想像するだけで恐ろしい。
「……小山、なんで落ちちゃったんだろな」
やったことは最低だったけど、彼はスティースと契約を交わして能力を使いこなしている。少なくとも俺と同等……もしくはそれ以上の素質がある。小山本人も自身満々だったらしいのに、どうして……
合否の基準は教えられないと東野は言っていた。単純に魔法が使えればいいというわけではないのかもしれない。この辺りの話は俺がいくら考えても答えは出ないだろう。それでも……俺が合格できているのなら、小山もではないのかと思ってしまった。自分ですらそうなのだから、小山の悔しさは相当だっただろう。
「よし、ちょっと頭冷えた」
状況整理を行なったことで、高ぶっていた感情が少しだけ落ちついた。
小山の気持ちは理解できる。悔しくて周りに八つ当たりをしたくなるのも分かる。でも……やはり納得はできなかったし、許せなかった。冷静になった上でも俺の考えに変化は無しだ。小山に会いに行く。本人の口から真実を聞きだすのだ。
「そうなると……どうやって小山のいる場所に行くかだ。家が分かったとしてもいるとは限らないしな」
普通に明日学校で会えるだろうとも思った。でも学校は第三者の目が多くある場所。変な噂が広まっても困る。それに、今すぐ行動しなければダメな気がしたのだ。こういうのは勢いが大事だからな。
「そうだ。スティースに聞けばいいんだ」
東野と小山がやっていたように、あのボールみたいなスティースに聞けば分かるのではないだろうか。俺でも契約できると東野も言っていたし、試してみる価値はあるだろう。
幸いな事に、この道の近くには川がある。風の強い所が好きだという、あのスティースがいるはずだ。意識を集中させて気配を探ってみた。
「………………いた!! 見つけた!!」
思った通りだ。俺の周りにいくつかのスティースがいることが確認できた。数は2……いや、3かな。少ないけど間違いなくいる。このスティースに協力して貰えれば、小山のいる場所を突き止められるかもしれない。
俺はさっそくスティースとの『対話』の準備に入る。集中力を更に高めて……
『怜悧なる者……我が声に耳を傾け、求めに応えよ』
優しい風がふわりと俺の体を包み込むように舞起こる。スティースが呼びかけに反応している。手応えありだ。
以前、橋の近くにいたスティースと触れ合った時と似た感覚を覚えた。彼らの力はそれほど強くはない。でも魔道士の声に積極的に応えてくれる。とても友好的なのだった。
『交渉……』
『俺の同級生、小山空太を探してる。居場所を知っていたら教えてくれ』
青白い光を放つ魔法陣が足元に刻まれた。『契約成立』……スティースは小山のいる場所を知っていたみたいだ。
続いて対価だけど……さて、いくつ持っていかれるだろうか。そんなに高くないとありがたいけど……
「はっ? えっ、ウソ……0.02!?」
思わず目を疑った。いくらなんでも低過ぎる。でも陣の周りに浮かび上がる数字がそう示しているのだった。低過ぎて、もはや対価と言っていいのか分からないレベルだ。
しかもこのスティースたち……わざわざ小山のいる場所まで案内してくれるようだ。俺の周囲をふわふわと楽しそうに飛び回っている。いくら友好的と言っても限度があるのではないか。
「まっ、まあ……好意はありがたく受け取るべきだよな」
無事に小山の居場所を知ることができたし、スティースにも色々な個体がいるだろう。そんなに深く考える必要もないか。
「ありがとう、助かるよ。それじゃあ、案内よろしく!!」
気前のいいスティースたちにお礼を言うと、俺は彼らの案内に従って、小山がいるらしい場所に向かって走ったのだ。