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幻獣の案内に従って道を進んでいくと、橋が見えてきた。俺の通学路の途中にある橋。ここは東野から例の警告を受けた場所だ。
そういえばあの時……小山も橋の上にいたことを思い出す。あいつの家は反対方向だから疑問に感じてはいたんだ。東野のインパクトが強烈過ぎて今まで忘れていた。俺と藤原の存在に気付いた小山は、逃げるようにその場から離れていったのだ。彼はあそこで何をしていたのだろうか。
橋に近付いていくにつれて、スティースの気配をより鮮明に感じるようになる。強い風が吹く場所を好むというスティース……俺に案内をしてくれているものと同じ種だ。
東野いわく、小山はスティースと契約して色々やっていたらしい。それを事実とするなら、スティースの多く集まる橋の上を、彼らとの交渉場所として利用していたのかもしれない。
スティースの能力で情報収集を行なっていた東野は、それを『風の噂』だなんて表現していた。小山が行っていた『色々』にもそのような使い方が含まれているのだろう。そうやって俺について調べて……俺の受験票を……
橋までの距離が残り数メートルほどになる。あの日の出来事を再現するかのようなシチュエーションに胸が騒ついた。
橋の上に誰かいる――――
一歩、また一歩と……橋に向かっていくにつれ、シルエットでしか捉えられなかった人物の全貌が見えてくる。ここまでくると、相手側にも俺の存在を知らせることになる。川の方に向けられていたその人物の視線がゆっくりとこちらに移動していく。
「……ありがとう、助かったよ」
スティースたちが俺の側から離れていった。それは案内の終わりを意味している。彼らはきっちりと俺の求めに応えてくれた。スティースに礼を伝えると、俺は橋の上に立っている人物と相対した。
「よお、小山」
あの時と同じだ……小山は橋の中央付近で佇んでいた。そんな彼に向かって軽い調子で声をかける。まるで、休日に偶然出会った同級生みたいに。我ながら白々しい……でも、いきなり怒鳴り散らすのも違うと思った。
「前もこの橋のとこにいたよな。何してんの?」
「……知ってるくせに」
「えっ、と……」
「もう全部知ってるんでしょ。ぼくが河合にしたこと。あの変なマスク被った人……あいつが全部バラしちゃったんだよね。あーあ、余計な真似してくれたよ。まさか魔道士だったなんて……」
「小山、お前……」
小山は成績も優秀で……休み時間でも難しそうな本を読んでいるのをよく見かけた。物静かで大人しい……それが俺の中にあった小山のイメージ。
いま目の前にいる少年は、本当に俺の知っている小山空太なんだろうか。ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべながら語るその姿からは、普段の面影を微塵も感じられない。
「試験が受けられなくて大慌てするとこ見たかったのに残念」
心のどこかで東野の勘違いではないのか、小山がそんなことするなんてと信じきれない気持ちが存在していた。でも現実はとても無情で……その僅かな希望を簡単に打ち砕いてしまうのだった。
小山は全部分かっていた。俺が今ここに現れたのが偶然ではないことも……東野を介して小山の現状を知ったことも全て……
俺が受験票のことを問い詰めるよりも先に、小山は勝手に自白のような言葉をいくつも並べ立ててくる。彼に会ったら事実確認をして、一発殴ってやるくらいの意気込みで来たというのに……。言い訳もなければ反省している素振りもない。俺を嘲るような言葉ばかりを投げかけてくる。その現実がただただ悲しかった。
「どうして……」
「はぁ?」
「どうしてあんな事したんだよ!!」
気が付くと俺は叫んでいた。小山の開き直ったような態度をこれ以上見せられるのが苦痛だったのもあるけど、彼の口からどうしても理由を聞きたかった。東野はその辺りの情報も教えてくれたけど、本人に直接確認せずにはいられなかったのだ。
「そんなの、お前が嫌いだからに決まってんじゃん。ウザいんだよ。何もかもが」
さっきまでの人を小馬鹿にしたような態度から一変、小山は怒りを滲ませた表情で告げた。
『嫌いだから』……本当にそんな一方的な理由で俺の受験票を切り刻んだのか。信じたくない、間違いであって欲しいと願う気持ちは、またしても踏み躙られてしまう。
「……俺らってさぁ。お互いそんな感情持つほどの接点無いじゃん。せいぜい同じクラスってだけだよね。ろくに絡んだこともないのに、嫌いだからとか言われてもピンとこねーよ。勝手に敵意持たれて陰湿な攻撃されて、こっちは大迷惑なんだよ!!」
小山の発言があまりにも酷いので、俺の感情もどんどん高ぶっていった。彼の行動は試験の結果を受けての暴走だとして……それでもほんの少し後悔とか……俺に対して悪びれるような素振りでも見せてくれていたなら、もっと穏便に会話が出来ていたのではと思う。すでに後の祭りだけど。
俺は確実に小山の神経を逆撫でする言葉を放つ。自分はよく知らない奴に逆恨みされた被害者でしかないのだと……。これを俺の口から言われるのは、小山からしたらはらわたの煮え繰り返る思いに違いない。案の定、小山は俺の発言を受け、体を小刻みに振るわせるほどの怒りに支配されていく。
「……だよ」
「えっ、なに……」
「そういうとこがムカつくって言ってんだよ!!」
小山が怒鳴った瞬間……彼の周囲が薄黄色の光に包まれた。