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夕方の帰り道。
駅に向かう商店街を歩いていると、空が急に暗くなった。
あっという間に降り始めた豪雨に、秀哉は思わず軒下へ駆け込む。
その時、既にそこにいた人物がいた。
「……稜雅?」
振り向いた稜雅は、ほんの少しだけ驚いた顔をしたが、すぐいつもの冷たい表情を作った。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「いや、帰り道だし。稜雅こそ、傘は?」
「……忘れたんだよ」
ツンと言い切るけれど、濡れた前髪が目の端に貼り付いていて、放っておける状態ではなかった。
「ほら、俺の入れよ」
傘を開いて差し出すと、稜雅は少しだけ目を丸くし、それから唇を尖らせた。
「……別に、入りたいわけじゃねぇし。雨やむまでここにいてもいいし」
「でも稜雅、仕事で疲れてるだろ。早く帰れよ」
そう言うと、稜雅はそっぽ向いて、声を少し低くした。
「……そうやって理由つけてくんなよ。恥ずかしいだろ」
(嬉しいくせに)
そう思いながらも、秀哉は何も言わずに稜雅の手首を軽く引いた。
「ほら、入るぞ」
「……しょーがねぇな」
ぶつぶつ言いながらも、稜雅は秀哉の傘にそっと収まる。
肩と肩が触れる距離。
稜雅は明らかに緊張していて、小さく息を飲んだ。
「近いな」
「傘狭いんだよ。文句あんならもっとでけぇの持て」
稜雅の反応はツンツンしているのに、袖だけは秀哉のシャツをそっとつまんでいた。
「……置いてくなよ」
その一言が、雨音より静かに胸に落ちた。
秀哉は、軽く微笑んだ。
「置いてくわけないだろ」
稜雅は、小さく顔をそむけて呟いた。
「……知ってる」