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#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
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第七十六話 結果
十月に入った。
朝の空気が少し冷たくなり、
街を歩く人たちの服装も変わり始めていた。
湊はいつものように大学へ向かう電車の中で、
スマートフォンを眺めていた。
写真展に応募してから、
一週間が経っていた。
「そろそろかな……」
何度も確認しているメール。
まだ届いていない。
結果なんて、
気にしないつもりだった。
そう思っていたはずなのに、
メールが来るたびに心臓が少しだけ跳ねる。
そして、その日の昼休み。
スマートフォンが震えた。
画面に表示された文字を見て、
湊の手が止まる。
――写真展事務局。
「……来た」
一度、深呼吸する。
そしてメールを開いた。
『この度は、写真展へのご応募ありがとうございました。』
そこから先を読む。
湊はゆっくりと画面をスクロールした。
そして――
『出展作品として選出させていただくこととなりました。』
「……え」
思わず声が漏れた。
周りを気にして、
慌てて口元を手で押さえる。
もう一度読む。
何度読んでも、
書いてあることは変わらなかった。
自分の写真が、
写真展に展示される。
「……ほんとに?」
嬉しい。
それなのに、
すぐには実感が湧かなかった。
大学が終わったあと。
湊は一人で駅まで歩きながら、
紬にメッセージを送った。
『結果来た』
すぐに返信が来る。
『どうだった?』
少しだけ迷ってから、
『選ばれた』
と送った。
数秒後。
『え!?!?』
『ほんと!?』
『おめでとう!!』
次々とメッセージが届く。
湊は思わず笑った。
『ありがとう』
『絶対見に行く』
『無理しなくていいって笑』
『行きたいの』
その言葉を見て、
湊の頬が緩む。
『じゃあ、一緒に見よう』
『うん』
数日後。
湊は写真展の会場を訪れた。
壁には、
たくさんの写真が並んでいる。
知らない誰かが撮った景色。
誰かの日常。
誰かにとって大切な瞬間。
その中に――
自分の写真があった。
『待つ時間』
写真の下に、
自分の名前が書かれている。
湊はしばらく、
何も言わずにその写真を見つめた。
撮ったときは、
ただ駅前のベンチを見ていただけだった。
でも今は違う。
知らない人たちが、
この写真を見る。
その人たちが、
何を感じるのかは分からない。
それでも。
自分が残したかったものを、
こうして誰かに届けることができた。
「……これが、写真なんだ」
小さく呟く。
そのとき、
「湊」
後ろから声がした。
振り返る。
紬が立っていた。
「来たんだ」
「約束したから」
紬は写真を見上げる。
しばらく黙って見たあと、
小さく笑った。
「やっぱり、湊の写真好き」
「……ありがと」
「なんかね、普通の景色なのに、ちゃんと人の気持ちがある感じがする」
その言葉に、
湊は少し驚いた。
それはまさに、
自分が写真で表現したかったものだった。
「俺さ」
「うん?」
「もっと撮りたい」
湊は写真を見ながら言った。
「もっといろんな人の気持ちを残せる写真を撮りたい」
紬は頷いた。
「じゃあ、これからも撮り続けないとね」
「うん」
二人は写真の前に並んで立つ。
そして湊は、
展示された自分の写真を一枚撮った。
自分が撮った写真を、
今度は自分自身が記録する。
少し不思議な感覚だった。
帰り道。
秋の風が二人の間を通り抜ける。
「ねえ、湊」
「ん?」
「今日のことも写真に残す?」
湊は笑った。
「もちろん」
カメラを構える。
シャッターを切る。
一枚。
そこには、
写真展を見終えた二人の後ろ姿と、
秋の夕暮れが写っていた。
📷 Photo.076「届けたかったもの」
撮影日:10月10日
自分が撮った一枚が、
誰かの目に触れる。
その瞬間、湊は初めて、
「写真を撮ること」だけではなく、
「写真を届けること」の意味を知った。
――次回、第七十七話「新しい挑戦」へ続く。
コメント
1件
お疲れ様です、クラリスさん🌷 第76話、湊の写真が選ばれた瞬間の「え」と、口元を押さえる仕草――あの一連の動きが本当にリアルで、一緒に息を呑みました。自分の写真が並ぶ会場で「これが、写真なんだ」と呟く湊の言葉、じんわり来ましたね。紬が「ちゃんと人の気持ちがある」と感じたこと、それこそが湊が届けたかったもの。ラストの二人の後ろ姿を撮るカットも美しくて、読後感がとても穏やかでした。素敵な回をありがとうございます。次回も楽しみにしています📸