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自分自身を神だとは名乗らずにぼかしていたけど、ほぼ偽りないルーイ先生の肩書きなのではないだろうか。『リフィニティ』という名前は初めて聞いたが、これが前に先生が言っていた彼の上司なのだろう。先生の力を封じて、人間たちの中に放り込んだ張本人だ。
ノアは先生の見た目と言動から高貴な身分である事は分かっていた。それでもまさか、彼らの母国ニュアージュの神『シエルレクト』よりも高位の存在だなんて想像できるはずもない。
ノアはまだ衝撃から立ち直れないのか、握手のために伸ばされた先生の右手は今だ宙を彷徨っている。先生の身分が明かされた後の反応は想定内。握り返さることが無いと判断された右手は早急に引っ込められた。先生だってノアが普通に握手に応じるとは思っていなかっただろうな。
「簡単に言うと、シエルレクトたちのリーダーみたいなもんだよ。俺の事はコスタビューテでも限られた者にしか知らされていない。他国の人間で知っているのは君たちだけだ。光栄に思いたまえ」
「…………」
「あれれ、どうしたの。何か言ってよ。もしかして俺のこと疑ってる? 信じられない? おかしいな……エルドレッドは魔法使いだと聞いているよ。それなら彼に仕えている君たちには、この羽根が何なのか分かると思っていたのに……」
ノアとカレンの表情からして羽根の正体は分かっている。今のノアには先生に構うほどの余裕がないのだろう。もしくは、これから始まる先生との対話をどのようなスタンスで乗り切るか必死に考えているか……
受けた衝撃のでかさを分かっているだろうに……先生も意地の悪いことだ。
「この黄色の羽根は『天空神シエルレクト』のものですね。ルーイ……さんは、神の体の一部を簡単に入手できる立ち位置にいると……。ご自身の身分を証明するため、オレたちにこれを見せたのですね」
「そう。で、それを踏まえてどう思う。偽物だと主張してみる?」
「さあ……でも、とりあえず今は本物であるとして、貴方を信じることにします」
「とりあえずね……。そんな簡単でいいの? 羽根の他にも色々準備してたのに」
「ルーイさんの話とやらに興味があるのですよ。神々を統率する立場にいるという貴方が、オレたちに何を伝えたいのか……」
ノアの態度が最初と全く違う。もはや別人だ。これは先生にも当てはまるが、和やかに会話をしているようで実際は腹の探り合いをしている。
「それにもし……貴方が天空神の名を使って身分を偽り、オレたちを謀ろうとしている詐欺師であるなら……後に必ず報いを受けることになるでしょう。ニュアージュの神は人間に良いように利用されて黙っているほど優しくはない。その辺りは当然覚悟の上なんですよね?」
「……ご忠告どうも。あいつの性格は君たちよりもよーく知っているからね。そんな気遣いは不要だから安心していいよ」
『話は聞いてやるが、嘘だったらタダでは済まさない』ノアはこう言いたいのだろう。先生を詐欺師呼ばわりするなど……なんて無礼な。警備隊の中に紛れ込んでいたノアには言われたくない。お前が今まさに報いを受けている真っ最中なくせに。自分自身を棚に上げたノアの発言で、またイライラしてきた。でも、そこはさすが先生。すぐさま反撃に転じた。
「人の心配をする余裕があるのかな。君たちの命運は俺が握ってるんだよ。そっちの出かたによっては、シエルレクトの制裁を受けるのは俺ではなく……君たちの大事なご主人になるかもしれないっていうのに」
「主人って……どういう意味だ!! まさか、エルドレッド様にっ……」
ノアが叫んだ直後、叩き付けるような激しい雨が降り出した。窓が割れてしまうのではと心配になってしまうほどの勢いだ。ノアとカレンの視線も自然と窓の外へ吸い寄せられてしまう。更に、今度は室内を青白い閃光が走る。それはバチバチと音を立てながら、我々がいるソファの周辺を取り囲んだ。
「主を守りたいなら、今後発言は慎重に行うことだ。せっかく双方に有益な話をしようとしているのだからね。君たちの愚行で大切な人が危険な目に合うのは嫌だろう?」
先生の感情に呼応しているかのような雨と電撃。これはレオン様の魔法だ。今回の取引に備えて事前に打ち合わせをしていたのだ。決して主が暴走しているわけではなく、意図的に作りだした状況である。
先生の怖さ……いや、威厳を強調するための演出だ。この超常的な現象を目の当たりにすれば逆らう気など起きないだろう。先生の服装と合わせてもかなり効果があるはずだ。
ノアとカレンを必要以上に脅すのもよくないが、対先生においては明確に上下関係を示さなければならない。先生は神だ。我々人間とは一線を画した特別な存在なのだから。
「やめろ、カレン。お前は大人しくしていろ」
カレンは手足の拘束を解こうとしているのか、体を捻るような動きが目につくようになる。エルドレッドが関連している話だと判明したので落ち着きが無くなっていた。そんな彼女を諭したのはノアだった。
「オレたちのせいであの方が危険に晒されるなど、あってはならない。……ルーイさん、すみませんでした。話の続きをお願いします」
先ほどの激昂から見て、ノアの内心も決して穏やかとはいえない。それでも感情を抑え込み、冷静であろうとしている。やはり対話の相手はカレンではなく、ノアを選んで正解だった。
「もちろん。そう難しいことじゃない。悪いようにはしないから安心しな」
大事な主が危険な目に合うかもと聞かされて、黙っていられるはずがない。言い方を変えれば、エルドレッドは彼らの弱点。先生は最初からそこを攻めるつもりだった。
途中何度かハラハラする場面もあったが、今のところ先生の目論見通りに事は進んでいる。このまま無事に最後まで終わればいいのだが――――