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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
1,300
「豆さんって車通勤でしたっけ」
地下から長い坂道を上って、ようやく外の世界へ出る。いつもは歩いている道が視界に入り、なんだか変な気分だ。
「いや、電車とかタクシーかな」
流石にこの時間は車少ないし合流も楽だなぁ…と呟きながら車線に乗る豆さんはまっすぐ前を向いたままだ。
「ですよね、ウチ車通勤にするなら結構面倒な申請必要ですし」
弊社は基本的に社員用の駐車場は借り上げていない。その証左に、豆さんが停めていたのは一般客用の駐車場フロアだったし、出口のゲートで料金も支払っていた。
「そ。面倒だし、駐車場代もガソリン代も全然支給してくんねぇし」
1日停めた駐車料金だけで俺の飯何食分になると思ってんのまじで。文句を言いながらも対して不満そうには見えない。ぶつぶつ言いながら滑らかにハンドルを切り返していく姿は、当たり前に初めて見る。整った横顔を合法的に眺められるこの席は、もしかして最高か。
「それならなんで今日車で来ちゃったんですか」
だからお酒も飲めなかったんでしょう?
結局私ばかりが飲んで、豆さんはずっとソフトドリンクを嗜んでいた。たとえこの後仕事があるのだとしても、まず車の運転をする時点で一滴も飲めないことは明白で。
車でないといけない理由があったなら、言ってくれれば別の日にしたのに。
「…弓家さんは、たまに鈍感と言われませんか」
返ってきたのは、意図が読めない一言と、大きなため息だった。ちょうど信号が赤になり、セダンもゆっくりとスピードを落として停車する。
どういうことだろうと懲りずに横顔を眺めていれば、その顔がこちらを向くから視線がバッチリ交わってしまう。豆さんは、少し困ったような表情を浮かべている。
「あんまり言われないですね」
「そうですか」
事実、あまり鈍いとか鈍感だとか言われることはない。
緊張のあまり、つい冷たく返して終えば、柔らかくもややそっけない言葉が戻ってきて少しだけ凹む。
再び信号が青に切り替わり車が滑らかに発進する。窓の外を再び眺めながら、気持ちを紛らわせる。
全く見知らぬ道を通り、軽快に景色が変わっていく様子は嫌いではないけれど、豆さんの謎かけのような言葉と、その後途絶えてしまった会話が気になってソワソワする。
どうやって挽回したらいいのだろう、と彼に話しかける言葉をいく通りもシミュレーションするだけで、あっという間に時間が過ぎ去っていく。
景色が少しずつ見慣れてきたものになる。必然的にこのドライブも終わりが見えてきたということで、寂しさと焦りが生まれてくる。
何か言わなきゃ、なんて言おう、と必死になっていたところで、声を発したのは豆さんの方が先だった。
「弓家さんを送り届けるために、今日だけ車で来たとは考えられませんか」
焦った脳みそが、あまりにも都合の良い回答を捏造したのだと思った。何か後頭部を殴られたような、そんな衝撃が身体中を走る。
「え、今なんて…」
「さて、到着です」
聞き間違いじゃないよね、ともう一度豆さんから返事を得たかったのに、その言葉は遮られて。今日ほど自分のマンションの立地を恨んだ日はない。
「帰すの遅くなってごめんね」
時刻はまだ22時。遅いも何も
「いつも仕事して帰る時間の方がもっと遅いですね」
「ハハ、それは失礼」
軽快に笑いながらも、「ここら辺はまだマシそうですけど、夜道を歩かせたくはないので早く帰ってリモートでもなんでもしてください」なんて言い始めるから驚く。
「豆さん、そういうことも仰るんですか」
「…そういうことって何」
俺、意外と紳士的な方だと思うよ。
俺のせいで、毎日女性が夜道一人歩くのは寝覚めが悪いんでね。
「今後、夕方のスケジュールに帰宅時間埋めといて」
そうしたら、俺間違えて会議とか入れないで済むから。
「本気で仰ってます?」
「冗談だとしたら、あんまり面白くなくない?」
「いや、普段の豆さんとのギャップがすごくていっそ冗談だと言って欲しい」
「…人聞きが悪い」
気まずくなったのか、私から視線を逸らして小さく息を吐いた彼は。
「さあ、到着です」
なんて繰り返して私を追い立てるから、意外と不器用な人なのかもしれない。
扉を開ければ、じっとりとした空気が肌を包み途端に汗が滲む。
「今日は本当にありがとうございました」
改めて歩道で頭を下げる。
豆さんは、だからもうそんなにいいって、とひらひらと手を振っている。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
別れの挨拶を交わし、私はまっすぐエントランスへ向かう。
自動扉の中に入り、こっそり後ろを振り向けば、シルバーのセダンがようやく動き始めた。どうやら数メートルの距離なのに見送ってくれていたらしい。
あらゆる場面に普段目にしない彼の姿が潜んでいて、いちいちそのギャップにときめいて。
こんなに心臓を酷使したのは数年ぶりだと思う。
これはさすがにしんどい。
玄関の扉を開け、リビングのソファに思いっきりダイブする。
さっきまでの熱が、今更全身を毒薬のように回り始めて体が重い。
「もう、今日は寝る」
仕事も家事も、全部放棄だ。
幸せな記憶を抱き込んで、今日はぐっすり寝るんだ。
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