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幸せというのは減るものじゃない。
「エリス、おはようございます」


幸せというのは消えるものでもない。


「んー、ルーデウス……」


幸せとは増え続けるもの。

エリスとの生活、こんな一日を幸せと言うのだろう。


─────────────────────────


エリスの試験が終わり、少しの時が経った。

結果はもちろん合格。

エリスは特別生になった。


「エリスは、今日も可愛いですね」


「ちょっ、ルーデウス。くすぐったいわよ!」


俺はベッドの上で、眠たい目を細く開いて彼女の髪を撫でる。

赤くて綺麗な髪。

恥ずかしそうに俺から目を逸らす彼女。

ふふふ、どうしたのかな?別嬪な顔が赤くなってさらに可愛くなってるぞ?


「エリス、痛い所とか無いですか?」


「うぅーん、痛い所は無いわよ。ただ、ちょっと腰の辺りがガクガクするけど……」


「え?誘ってます?」


「なんでそうなるのよ!ルーデウスが聞いたんでしょ!」


怒られてしまった。

でも、ぜーんぜん怖くない。

だって、彼女は俺の腰に腕を回して、密着しながら耳まで赤くしているから。


誰がどう見ても照れ隠しというやつだ。


(それにしても、エリスの胸本当に大きいな)


俺の胸板に当たる、ふにゅんという柔らかい感触。

怒られるのも悪くないな。そんな思考になってきた。


俺が夢に見ていたエリスとの寮生活。

俺の朝は、彼女との添い寝から始まる。


下着姿のエリス。それを夫として毎朝見ることが出来る。

あぁ、素晴らしい。俺は幸せ者だ。


「ルーデウス?なんで硬くしてるのよ」


「あ、ごめんなさい」


エリスのお腹にグリグリと当たる、硬い物。

朝から申し訳ない。でも許してほしい。生理現象なのだ。

エリスと寝るということは、毎秒臨戦態勢になってしまうということなのだ。


「昨日もあんなにシたのに、本当にえっちね」


「はい、否定はしません」


エリスの前では俺は獣になってしまう。それは間違いない。

そして、そんなことを言う恥ずかしがり屋の彼女も、ベッドの上では俺に甘えてくれる。


「良いわよ、一回なら」


「へ?本当にシちゃいますよ?」


「ルーデウスなら、良いわよ」


普段はツンとしているお嫁さんの言葉。

我慢出来るわけがない。


俺はおでこにキスして、頬にキスして、にこっと笑う。

「その顔はずるいわよ」

そんな呟きを聞いて、唇を合わせる。

次第に、その唇からは甘い声と俺の名前しか聞こえなくなっていく。


気高い顔が徐々にだらしなくなっていく。その光景が俺の早朝最後の記憶だった。


─────────────────────────


朝のいちゃいちゃ充電ターイムが終われば、今度はトレーニングの時間だ。

えっちなトレーニングじゃないぞ?

俺たちは強くならなければ駄目だからな。

目指すべき目標のために、日々の鍛錬は欠かせない。


ガン! ガン! ガン!


木刀と木刀が激しくぶつかる。

エリスと俺の剣術修行だ。


「ルーデウス! もっと手数増やすわよ!」


「もぉ無理ですよ!」


足りない手数を予見眼で補う。

しかし、勝てない。

だけど、それでいい。

エリスというレベルの高い剣士と戦うこと、それが俺にとって一番の修行だ。


「げふっ!」


彼女の縦振りが俺の脳天を直撃する。

そのまま、俺は仰向けに倒れた。

なんというパワーだ。脳が無くなったかと思った。


はぁ、はぁ。


勝負アリ。

負けた俺の息ばかりが荒くなる。そんな時、二人組が声を掛けてきた。


「おうおう、やってるのニャ。朝から鍛錬お疲れ様ニャ〜」


「相変わらず化け物なの、イカれポンチなの」


イカれポンチって。めちゃくちゃ言われたな。

俺に声を掛けた二人組の正体は、リニアとプルセナ。獣族の特別生だ。


一言で言うなら馬鹿な奴らって感じだな。

まぁ、そんなこと言ってるが嫌いではない。

なんというか、憎めない奴らって感じだ。


「何?ルーデウスのことバカにしたの?」


「ひぃ! してないニャ! だから殺気出すの辞めるニャ!」


「そうなの! バカになんてするわけないの!」


エリスが木刀を上段に構える。

その瞬間、弁明を始める二人。

いやぁー、頼もしいね。俺のお嫁さん。


「エリス? バカにされてないから大丈夫ですよ。汗を拭いたら魔術の訓練に入りましょう」


「ルーデウスがそう言うなら良いけど。分かったわ! 魔術の練習するわよ!」


俺は自身が着ている服、その長袖を伸ばし、彼女の汗を拭う。

彼女の額に浮かぶ玉のような汗。

拭いてあげると「んー」というくぐもった声でお礼を言ってくれた。


いよいよ始まる、魔術の訓練。

俺はエリスの正面に立ち、少し離れる。


「エリス! しっかり僕のこと狙ってくださいよ!」


「分かってるわよ!」


エリスの魔術には大きな欠点が二つある。

それは…


「今日こそ、成功させるわ」


エリスが火系統の中級魔術を詠唱する。

落ち着いて、炎の球体を生成する。

そして、あとは放つだけ。

集中力を高めて……撃つ!


飛んで行く炎の球。その瞬間、燃え上がる一つの人影。


「あ、熱いニャあああああ!」


燃え上がった人影、それは俺達の鍛錬を横から見ていたリニアだった。

そう、来ない。エリスの炎は俺には飛んでこなかった。


燃え上がり暴れるリニア。そんな彼女にプルセナが近付く。


「エリス、ナイスなの。ちょうど肉を炙りたかったの」


「あちしの身体で肉を炙るんじゃないニャあああ!」


きっと、カオスを絵にしたらこんな光景になるのだろう。

俺は、リニアを見て考える。

絵に描いたような大混乱。俺は掌で水魔術を生成し、リニアにぶつけた。


「ふぅー、助かったニャ」


「肉濡れたの、最悪なの」


「そもそも燃え上がった友人の身体でバーベキューなんてしないでください」


カオスな状況。露呈するのはエリスの魔術にある欠点。

一つ目は「捕捉」が出来ないこと。

魔術は、生成→捕捉→放つ。この順番で行う必要がある。

無詠唱でも、これは同じだ。


しかし、エリスは捕捉が苦手なのだ。

そのため、生成した魔術はいつもあさっての方向に飛んで行ってしまう。


これが一つ目の欠点。大きな、致命的な欠点。

しかし、これで終わりではない。これから話すのは二つ目の欠点。

正直こっちの方がヤバいし、辛い。


「ルーデウス。右腕、焦がしちゃったわ」


「大丈夫。今、治癒魔術を掛けます」


エリスの右肘から手先が火傷により赤黒く変色している。

自らの魔術による火傷。魔力制御が出来ないとこうなってしまう。


エリスに治癒魔術を掛ける。

痛そうに歯を食いしばるエリス。

辛いと言ったのはこれだ。エリスが痛がる姿を見るのが本当に辛い。


でも、彼女は毎日辞めようとしない。

それならば、見ている側が辞めて欲しいと言うのは、指導者としても家族としても駄目なことだろう。


だから、俺は今日も治癒魔術を掛ける。

苦しみながらも、頑張り続ける彼女に。

夫として、家族として。彼女が満足するまで、ずっと。


エリスの二つの欠点。

捕捉が出来ずに魔術があさっての方向に飛んで行ってしまうこと。

魔力制御が出来ず、自らを傷付けてしまうこと。


大きな二つの欠点。俺は無力だ。上手く教えられない。

だけど、俺は今日も彼女の隣に立って、支える。

無力でも全力で。小さなことかもしれない、無駄なことかもしれない。そんなことは分かってる。

でも、俺は決めたから。彼女と共に乗り超えてみせるって。

苦しみも、悲しみも。一緒に超えてみせるから。


そして、その先にある喜び。それを分かち合うって決めたから。


「ルーデウス!もう一回やるわよ!」


彼女の言葉。答えは決まってる。


「はい。何処までも一緒です!」


彼女の赤い髪に似た綺麗な炎。

そんな炎に向かって、俺は揺るぐことのない誓いを立てた。



─────────────────────────



「エリスさんの魔術克服か。難しいね」


「はい、フィッツ先輩。何かありませんか?」


エリスとの魔術訓練を終えた後は頭の訓練だ。

足を運んだのは図書館。

フィッツ先輩の隣という最高の環境で俺は調べ物をしている。


「うぅーん、特に炎魔術は制御が難しいからね」


斜め上を見ながら考えるフィッツ先輩。

一生懸命頑張ってくれるフィッツ先輩。

本当に、この人は優しいな。

最高な先輩。俺はこの人に毎度助けられている。


「うん、ボクも考えてみるよ。思い付いたらルーデウス君に報告するね」


「あ、ありがとうございます!お礼は何でもします!」


「お、お礼!?い、良いよ。ボクが好きでやってることだし」


お礼を断られてしまった。

なんだ、この人は女神なのか?いや、男の子だから天使か。

助けられたこと。正直たくさんある。


エリスは図書館には来ないから。最初は一人で本を探していた。

転移事件について、オルステッドの資料について。


何を読めば良いか分からない俺。そんな俺に彼は嫌な顔一つせず教えてくれたのだ。


フィッツ先輩、俺の憧れの先輩だ。


「それにしてもルーデウス君は凄いな。龍神に勝とうとしてるんだろう?」


「そんな、目指すだけなら誰でも出来ますよ」


「いや、目指すだけでも凄いよ。そして、エリスさんも一緒に乗り越えようとしてるんだもんね」


フィッツ先輩の語尾が弱まる。どうしたのだろう。体調でも悪いのだろうか、凄く心配だ。


「フィッツ先輩?大丈夫ですか?」


「え?あ、うん。大丈夫、少し考え事をしててね。ほら。そんなことよりも龍神について調べるんだろう?」


「はい!本探してきますね!」


良かった。フィッツ先輩も少し元気を取り戻したようだ。

俺は安堵しながら立ち上がり、本を探す。


オルステッド、オルステッド。お、これが良い。


俺は、一つの本を手に取った。

題名は…


『最強!?七大列強の秘密!』


中々目を引くタイトルだ。

今日は、この本を読もう。


俺は、再度椅子に戻りフィッツ先輩の隣に腰掛ける。

なんだか安心する。彼には包容力を感じてしまうな。


ペラペラと読み進める。北神とか、ラプラスとか。見れば見るほど馬鹿げた連中の集まりだ。


おいおい、強さの底が知りたいのに。読めば読むほど分からなくなってくるぞ?


「フィッツ先輩。俺、やる気無くなってきました……」


「ふふっ、安心しなよ。ボクから見たらルーデウス君も強くて逞しい存在だからさ」


「そうですかね?フィッツ先輩に言われたら!俺自信付いてきました!」


俺は元気に返事をする。

その時、唐突に彼の手が俺の手と重なった。


偶然だろうか?そう思った時だった。


俺の手が、ぎゅっと握られる。

彼のフローラルな香りが俺の鼻を擽る。


それぐらいの距離、凄く近い。

同性の距離はこのぐらいなのだろうか。前世じゃ部活なんてやらなかったからな。

もしかしたら、先輩との距離感はこのぐらいが普通なのかもしれない。


それならば、俺の行動は一択だ。


「前々から思ってたんですけど、フィッツ先輩の手って柔らかいですよね」


「うわぁ!///ルーデウス君、いきなり握り返されるとびっくりするから」


「あ、すみません」


俺は彼の手を味わうように握り返す。

その瞬間、彼の白い肌が赤くなる。


怒らせてしまっただろうか。

なんというか、先輩との距離感って難しいな。


「ルーデウス君は手を置いてて。ボクが勝手に握るから」


「はぁ、そういうものなんですね」


フィッツ先輩は左手の手袋を外して、俺の右手を握る。

本当に何もしなくて良いのだろうか。

俺は迷いながらもペラペラと本を読み進める。

それと同時、彼の左手が徐々に暖かくなっていく。


その時、本に一人の男が出てくる。

そう、その正体は俺の探していた人物。


「龍神、オルステッド」


北神、剣神、死神、魔神、闘神……そして『龍神』

最強の名を持つ、オルステッド。


やっぱり、馬鹿げた連中の中でも一際馬鹿げてるな。


北神には不死身と書かれていて。

剣神には最速と書かれていて。


龍神に書かれていたのは『最強』


『何が』ではないんだ。

『全て』が突出しているんだ。


俺は本を読みながら一つだけ深呼吸。

フィッツ先輩に心配をかけないように、ゆっくりと呼吸を整える。


何か無いか?

オルステッドの、最強の弱点。


俺は思考を回し、龍神のページを隅から隅まで読み進める。


挑む奴は馬鹿だ!とか、奴が汗を掻いてる所を見たことが無い!とか。そんな文言を無視して読み進める。


やっぱり無いか。そう思った時、端にある一文が俺の目に飛び込んで来た。


『でも、不死身では無いらしいよ』


この短い一文。当然と言えば当然と思うかもしれない。

しかし、これは大きな希望だ。


不死身が当たり前のように使われる七大列強。

その最強と呼ばれる存在が不死身じゃない。


俺と同じ。不意を付けば殺せるかもしれない存在。


「俺と、同じか」


同じ、クズな俺と同じ。

そう思ったらなんだか勝てる気がしてきた。


少しだけ口角が上がる。龍神のことを考えて、初めて笑えた気がする。

苦笑いかもしれない。でも、初めて笑えた。一歩前進だな。


「フィッツ先輩!ありがとうございます!」


「ん?ボクは何もしてないよ?」


「いいえ!フィッツ先輩のおかげで元気出てきました!」


彼が図書館について教えてくれた。そのおかげで俺は龍神について知れた。

俺は感謝しなければならない。


フィッツ先輩。彼の願いはこの先何でも聞こう。


サングラス越しでも分かる彼のカッコいい顔。

俺はその姿を見つめて、心の中で約束した。



─────────────────────────



フィッツ先輩との調べ物が終わった後。

俺は一つの部屋に入った。


出会う相手はナナホシ。

俺と同じ異世界人だ。


「はい、これに魔力通して」


渡される魔法陣。俺はこれに魔力を流す。

淡々とした作業。雑談するのには打って付けの空間だ。


「ナナホシさん」


「何?」


魔法陣を描きながら、彼女が反応する。

俺の言葉。それはある人物についての質問だ。


「ナナホシさんって龍神と旅してたんですよね?苦戦してるのって見たことありますか?」


図書館で調べた龍神。

もう少し知りたい。俺の気持ちを彼女にぶつけてみる。


「無いわね。私を守りながら戦ってたんでしょうけど。正直、流血してるのも見たことないわ」


まぁ、そうだよな。ルイジェルドですら手も足も出なかったんだ。苦戦してるわけないか。


俺は魔法陣に魔力を流しながら、じっくりと思考を回す。

そんな俺。ナナホシは言葉を続ける。


「だから、あなたの鋭い岩。ストーンキャノンだっけ?それがオルステッドの裏拳にぶつかって血が流れた時、少しだけ驚いた」


ナナホシの言葉と同時、俺の瞳孔が開く。

そうか。俺のストーンキャノンは中々の威力があるんだな。

少しだけ自信になった。

それと同時。俺の頭に試したいことが浮かぶ。


「オルステッドは日本人じゃないんですよね?」


「そうでしょうね。それがどうかしたわけ?」


俺の頭に浮かぶ、一つの勝ち筋。

得意なストーンキャノンを更に鋭い武器へと昇華させる思考。


「前世の、知識が欲しい」


不登校だったから学べなかったこと。

俺は、もう一度見つめ直す。


「ストーンキャノンの形。ただ鋭くするだけじゃ駄目なんです。一番効率の良い形。大きさ、角度。人体を破壊する最高効率が知りたい」


この世界には無い圧力と物理。

最強も知らないこの知識で、俺は火力を上げてやる。


前世のこと。それをフル活用しなければ最強は殺せない。


「物騒ね。私も高校レベルの知識しかないけど。まぁ、あなたに恩が無いわけじゃないし、覚えてる範囲で教えてあげる」


短い会話。運命を捻じ曲げることになる二人の会話。

ルーデウスの本気。苦しい前世を思い出してでも彼は全てを捧げる。


エリスを守り、『龍神を倒す』


人の本気がストーンキャノンの威力を変える。

運命が劇的に変わる。この会話はそんな運命の一瞬であった。



─────────────────────────



ナナホシと別れて外に出る。

時刻は夕暮れ。


俺の一日が終わる。


大体のスケジュールはこんな感じだ。


エリスといちゃいちゃして、訓練して。図書館で勉強する。

今日はしなかったがザノバとフィギュア作りの特訓をすることもある。


中々、充実した一日だと思う。


引きこもりだった前世。暇を持て余していたニートとは思えない一日。

忙しくも楽しい日々。俺は掴んだ。そう考えていた。


「ルーデウス、見つけたわ!早く帰るわよ!」


再会したエリスに手を引っ張られて、寮に帰って。彼女を抱き枕にして眠る。

そうやって、俺の幸せは完遂するはずだった。


「ルーデウスを守る為に、今日もいーっぱい修行してきたんだから!」


彼女の可愛くて大きな笑顔。

俺は勘違いしてたんだ。


幸せは増え続けるものなんかじゃなかったのに。


「ルーデウス!ずーっと一緒よ!」


俺たちの試練は魔王と共に。

ヒトガミの助言を背負って、始まりを迎える。










もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら

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