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─エリス視点─
私はルーデウスが好きだ。
すごく、すごく好きだ。
彼を見るだけで顔が熱くなって。
彼に名前を呼ばれるだけで、幸せな気持ちになってしまう。
彼が、ルーデウスが居るだけで、ニマニマとした笑みが溢れてしまう。
私は、あの日誓った。
フィットア領に帰還して彼に初めてを捧げた時。
『ルーデウスを守る』そう誓った。
だから必死に修行した。
冒険者になって、難しい依頼をこなして。
ルーデウスと結婚して。彼と時間を共にした。
毎日彼と一緒に過ごせて、すごく幸せで。
彼と、剣術と魔術を鍛える日々が私の生きがいだった。
私は、ルーデウスと一緒に強くなれている。そう思っていた。
でも違った。今なら分かる。
私は、ルーデウスに、強い彼に甘えてしまったんだ。
弱い。相応しくない。私は彼の足手纏いだった。
─────────────────────────
私の一日、ルーデウスとの一日が始まる。
今日も私はルーデウスと修行をする。
剣術、魔術。強くなるための日々を送る。
いつもと変わらない日々。そう思っていたけれど。この日は少しだけ違った。
「ルーデウス殿!我と婚儀の決闘をしてもらう!」
「へ?ぼ、僕ですか?」
ルーデウスが結婚の申し出をされた。
相手は男の獣族。
いつもなら殴りかかっていたけれど。
この時は止まってしまった。
婚儀という言葉。ルーデウスが私以外と結婚してしまう。
少しだけ不安だった。
「ルーデウス、結婚するの?」
私の言葉に彼は唖然とする。
そして、冷や汗を掻きながら。
「いやいや!僕、男ですよ!?相手も男!結婚する訳ないですよ!」
「そうなの?」
私を横目に置きながら、ルーデウスが獣族と話す。
軽く話した彼が私の疑問に答えてくれた。
結論から言うと、ルーデウスは結婚しないらしい。
結婚するのはリニアとプルセナなのだそうだ。
良かった。まだルーデウスと一緒に居られる。
彼と生活出来る。
安心が頭を駆け巡る。その瞬間、私の中に迷いは消えていた。
ルーデウスに近付く獣族を片っ端から、ひたすら木刀で叩く。
彼が怪我をしないように私が守る。
彼の前衛として、恥ずかしくないように強くなる。
私は負けない。目の前に転がる獣族の山が私に自信をくれる。
その時、聞こえた。私の耳を揺らす笑い声。
今までの敵とは違う。圧倒的な闘気と威圧。
「フハハ!良い剣士が居るな!」
「誰?」
私は目の前の人物に問いた。
黒い巨体。その身体から左右三本ずつ生えた太い腕。
一目見て分かる、強い。
直感的に思う。コイツを、この男を、ルーデウスに近付けてはダメだ。
「ハハハ!我が名は…「ふんっ!!!」
腕を組みながら、目を瞑って名乗ろうとした黒い巨体。
名乗り。自己紹介なんてさせない。
私は敵の言葉を遮り、巨体の胸を木刀で斬りつけた。
「ルーデウスに近付くんじゃないわよ!」
木刀を最速で振り切って、宣言する。
手応えはあった。避けられたわけじゃない。
私は顔を上げた。ダメージを確かめるために。倒した敵を見下ろすために。
そんな理由で上げた顔。私の視界に広がるのは、有り得ない光景だった。
「フハハ!やはり、人族はせっかちだな!」
私の視界に広がるのは、綺麗な黒。
木刀で叩いたとは思えないほど傷一つ無い巨体。
その光景に、私の握る木刀が悲鳴を上げる。
「木刀、折れたわ」
「フハハ!改めて名乗ろう!我が名はバーディ・ガーディ!魔王である!」
ダメージどころか触れられたことも忘れているような余裕。
この感覚、覚えがある。
覚え、忘れられない記憶。
泣くだけで何も出来なかった記憶。
ルーデウスが死ぬ。そう思った、最悪の記憶。
「オルステッド並みの硬さね」
私は呟いた。そして、腰の剣に手を掛ける。
銀色に光る真剣。私は引き抜いた。
そして、そのまま、私は剣を上段に構える。
「剣神流か!良いぞ!」
魔王の言葉。それと同時、私は懐に飛び込んだ。
歯を食いしばって、必死で。剣を何度も何度も叩きつけた。
斬れるまで斬る。そんな考えで、ただひたすらに。
それ以降のことはあまり良く覚えていない。
最初、笑っていた魔王。そんな魔王から徐々に笑みが消えていく。
つまらなそうな顔に変わっていく。
まるで遊びに飽きた子供のような、そんな表情。
「貴様の光の太刀が見たかったのだが」
私は膝に手を付いた。
息を切らして、多量の汗を掻く私を魔王が見下ろす。
遠い、とてつもなく遠い。
私には何もかも足りない。
ポタ、ポタ。
汗が私の前髪を伝って地面に落ちる。
私に光の太刀は無い。
私は、魔王に傷一つ付けられなかった。
私は、ルーデウスを守ることが出来なかったんだ。
─────────────────────────
─ルーデウス視点─
「ルーデウス、ごめんなさいっ」
「……」
俺は今、エリスをベンチに寝かせ治癒魔術を掛けている。
そんな彼女の目覚め。その第一声は謝罪だった。
彼女が謝罪する理由。事の顛末はフィッツ先輩から聞いた。
エリスはバーディ・ガーディに斬りかかったらしい。
歯を食いしばりながら、何度も何度も、俺のために。
疲れ切った彼女。そんなエリスをバーディ・ガーディは、あの太い指でデコピンしたのだそうだ。
倒れるエリスと見下ろす黒い巨体。
図書室から帰ってきた俺は、この光景を見てしまった。
視界に広がる情報。俺は勘違いしてしまった。
エリスがバーディ・ガーディに傷付けられたと思っちゃったんだよね。
本当はデコピンだけだったのに。
それから、俺は気付いた時には叫び声を上げながらストーンキャノンをぶっ放してた。
魔王に向かって、全力のやつを。
いやぁ、早とちりって怖いね。
相手が不死魔王で良かったよ、本当に。
だって魔王の身体が粉々になったんだよ?
ナナホシと協力したストーンキャノンの威力向上。
まだまだ未完だが。うん、普通の人なら死んでたな。
うん、気を付けよう。
「我!大復活!!!」
俺の息が切れる。疲れによって少し落ち着きを取り戻した後、この声と共にバーディとフィッツ先輩から事情を聞いたというわけだ。
そして、今に至る。
「ルーデウスっ、ごめんなさい」
「大丈夫ですから、エリスは僕の相棒ですから」
俺の言葉に偽りはない。
エリスは俺の相棒で、大切な人で。
一生愛すると決めた、そんな人だ。
でも、それと同時に理解してしまった。
ヒトガミの言葉。
エリスが俺の戦闘に要らないという考え。
それは圧倒的な破壊力不足。
彼女の剣は、オルステッドに傷を付けることが出来ない。
ヒトガミの助言の真意は、これだったんだ。
「わたしっ、ルーデウスのこと、守りたくてっ!」
「……」
「でもっ、わたしはルーデウスの足手纏いで、ごめんなさいっ」
違う、エリスは悪くない。
フィットア領で彼女と離れなかったのは俺だ。
悪いのは俺。エリスは悪くない。だから、責任を取るのは俺だ。
「エリス、自分を足手纏いだ。なんて言わないでください」
「ルーデウス?」
俺は覚悟を決める。
なぁ、ヒトガミ。お前がここに来させたってことは何かあるんだろ?
エリスが、俺たちが強くなる方法が。
「一緒に斬りましょう」
覚悟は決めた。後は実行するだけ。
魔王 バーディ・ガーディ。
その先に霞んで見える。龍神 オルステッド。
手は伸ばそうとしなければ届かない。
人らしく、クズらしく。
俺は醜く手を伸ばしてやる。
エリスが自分自身を好きになれるように。
そんな光景を、幸せを掴めるように。
俺は、ゆっくりと…
…手を伸ばした。