ハッピーエンドとバッドエンドがあります(あんまバッドエンド納得いってないですごめんなさい)。途中で線を引くので是非、お好きな方を。
mrkm視点
僕は今、人生最大の危機に陥っていた。全身に力を入れて、歯を食いしばって。必死に掴んだ腕のその先には、生気のない目がこちらを見ていた。
「バカ、何してんの」
そう吐き捨てた僕の声を聞いたはずのいなみだが、返事はなく、ただ僕を見つめているだけだった。
inm視点
また、まただ。いつも通りの敵の幻覚技。ヒーローをやっていくうちに何となく、敵の攻撃に慣れてきていた。そのはずなのに。
「なあごめん、俺もうお前と組みたないねん」
「俺ライと合わないみたいで、すみません」
今日の幻覚は妙に、生々しくて。謝って伝えてくる姿は本人そのもの。大好きな彼らに、要らないと言われている気分がしたから。
「ヒーロー、お前何ができんの?」
「メカニック?馬鹿馬鹿しい」
「お前の機械、他のヒーローの邪魔しすぎだよ」
「ヒーロー辞めちゃえば??」
敵は倒したものの、心の傷は抉れている。仲間にも、助けた人たちにも、オレは必要ないのだろう。愚にもつかない幻覚を真に受けているオレはバカなのだろうか。そんなバカが、ヒーローをやっていて良いのだろうか。ならばまだ、死んだほうが良い。
拠点からかなり離れた廃墟ビルの屋上に来た。ここなら誰も居ないし見つかることもない。大きく息を吸って、この21年間を振り返る。
「みんなと過ごせて良かった」
でもそのみんなも、今はどうでも良くなっていた。
「オレ、誰かの役に立てたのかなあ」
ずっと迷惑をかけてばかりだったから。西で機械なんて、変な技術を持ち込んだから。外道、だったから。もう少し上手くいく予定だったんだけどなあ。
片足をビルの端に立てる。こんなに苦しい人生、もう二度と経験しませんように。
「ライ!!」
急にオレを呼ぶ声がしたから、驚いて予定より早く空に飛び立った。
「バカ……っ」
それなのに何故か彼は、オレの手を掴んでいて。ここでもヒーローとの差を見せつけられるのだ、と実感する。オレはあの距離では到底、追いつくことは出来ない。
mrkm視点
この腕だけが彼の命を繋ぎ止めていると考えると、離せる訳がなかった。なんで?そんな素振り一切見せんかったやん。
「カゲツ…」
「なんで、死のうとしてんの」
ごめん、と彼は少し微笑んで謝った。
「飛んでみたかったの、空」
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(ハッピーエンド)
mrkm視点
「飛んで、みたかったん?」
「そう。鳥みたいに翼広げて」
「なんで、?」
「空って自由じゃん?鳥じゃなくてもいい。カゲツみたいな忍術で、ちょっと空に身を投げ出すだけ」
理解が出来なかった。軽い気持ちで、そんなことをするようには見えなかったから。いつも複雑な思考をしているいなみだからこそ、彼の単調な姿に腹が立った。
「ええか?今から僕めっちゃ怒るから」
できるだけ、いなみを傷つけない程度に。それでも彼に必要不可欠な能力はあることを、僕なりに伝えようと思った。腕に力を込めたまま、大きく息を吸う。
「お前は僕と違ってちょっとでも空を飛ぶ能力はない!!数ミリだって浮きやしない!!」
目の前の大きな瞳は、呆れた目に変わった。それでも僕は続ける。
「だから空に身を任せる意味が分からん!!僕じゃダメなん、ヒーローはヒーローに頼っちゃダメなん!?」
自分の怒鳴りが徐々に大きくなっていくのが分かる。
「お前は飛べんやん!!何してんの!!高いとこから落ちたら死ぬだけやから…!!」
だから、だから。死なないで。少なくとも僕は、何度もいなみに助けられているから。
「ごめん、死ぬつもりじゃ、なくて」
僕の必死な気持ちが伝わってくれたのだろうか。彼は宙に吊るしていたもう片方の腕をビルの縁に戻し、最後の力を振り絞って屋上に足をつけた。
「なんで、なんでそんなことしたん………」
目の前がぼやけている。いなみを掴んでいた腕の感覚はもう麻痺している。目の前でしゃがんでいる彼は、少しだけ笑っているように見えた。
「人間、しんどくて」
あはは、と涙を拭きながら笑う彼には、その言葉が全く似合わなかった。
「なんでココ、分かったの」
「なんとなく嫌な予感がしたから。上の方見たら、いなみがふらふらしてたんよ」
「あは、やっぱ忍者の勘ってすごいなあ」
人間には到底ムリだ、と笑ってみせるいなみ。違う、違う。お前はただの人間かもしれんけど、ヒーローやから。メカニックだし大学生だし、僕と違って冴えている。忍者の僕は、人間のいなみに憧れを持っているから。
「まだ生きる?」
「うん、あとちょっとね」
「ちょっとかあ、もうちょい伸ばせん?」
「ん、考えとく」
「またココ来たくなったら僕に教えてや。一緒に星の数とか数えよ」
「何それいいよ、約束ね」
彼の口から約束って言ってもらえるのが嬉しくて。
「約束破ったら焼肉奢り」
ニヤニヤと笑う彼。僕も僕で、絶対に死ねない理由が出来てしまったらしい。
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(バッドエンド)
死ネタです。地雷の方注意。
mrkm視点
「そら?」
「そう、空。きっと楽しいよ」
「は?」
「カゲツ空飛べるじゃん。忍者だから、すぐ」
「死にたいん?」
「そこまで言ってないじゃん。宙に浮くだけ」
僕の腕は、限界が来そうだった。構わず彼の目は本当に、この世の人間じゃないみたいだった。僕は、ここまで生きる気力を無くした人間を見たことがない。
「腕、離してよ」
「嫌や」
「なんでよ。カゲツには関係ないことじゃん」
関係ないこと?そんな訳ない。僕はいなみに信頼を置いている。そっちからどうとか知らん。
「じゃあカゲツもこっちおいでよ」
「は?」
「自由な空だよ。何者にも邪魔されない、オレらだけの世界」
腕を引っ張り返されて、ビルから転落する。ああ神様、ごめんなさい。僕の感情は彼には伝わらなったみたいです。たった一瞬のはずなのに、スローモーションに見えた。目を瞑って落ちていく伊波の姿はとても美しく、止めようとも思わなかった。というより、思えなかった。この距離だったらどうにか助けられるはず、だったのに。自分のことすら助けることもできなさそうだ。
「カゲツ、ありがとう」
微かに聞こえたその台詞は、僕の人生の最期にぴったりだった。ねえ神様、僕は人生楽しかったから、いなみには来世に最高のプレゼントを用意してあげてな。
「そっくりそのままお返しします。ありがとう」
いなみが地面にたどり着いた鈍い音が聞こえて、自分の死を覚悟する。タコ、狼、すまん。僕はヒーロー2人を犠牲にしてしまいました。この世の過ちです。どれだけ罵ってもらっても構わんから、どうか、いなみだけには何も悪口を言わないでください。それでは。僕の髪が地面に触れたと思った直後、頭に強い衝撃が走った。
コメント
2件
ハッピーエンドとバットエンドのそれぞれの良さがあっていい、、 バットエンドの🥷の最後のセリフが最高すぎて死ぬ‼️😇