テラーノベル
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この小説は完全な捏造です。
地雷の方は自衛お願いします。
・解像度低め
・口調注意
・初心者
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ロスヨントス警察署。
そこは、欲望と虚飾が渦巻く掃き溜めのような場所だ。
「本日付で本署に配属になりました、音鳴です」
よろしくお願いします。そう付け加えた俺の声は、ひどく無機質に、そして場違いなほど真っ直ぐに署内に響いた。しばらくの沈黙の後、返ってきたのは、歓迎の言葉ではない。 椅子の軋む音、誰かが吐き捨てた煙草の煙、そして値踏視線の数々だった。
「⋯⋯『よろしく』、だとよ。おい新入り、ここは学校じゃねぇんだぞ。おいみんな、この行儀良さがいつまで持つか、賭けようぜ」
デスクの端で札束を数えていた一人の警官が、薄汚れた顔でニヤリと笑う。彼の隣では、押収品であろう高級時計を品定めするように眺める男が鼻で笑っている。このロスヨントス警察署において「よろしく」という言葉ほど意味のないものはない。ここでは”正義”や”仲間”などという言葉は、安酒の肴にすらならないのだから。
「仲良しごっこがしたけりゃ勝手にやってな」
俺は奴らの視線を突き抜けるようにして、与えられた席へと歩みを進める。埃の積もったデスク、ガタのきた椅子。ここが俺の新しい”戦場”になるのだ。
「⋯⋯安心してくださいよ。俺もあんたらみたいな”クソ野郎”とは仲良しごっことか死んでもやるつもりないんで」
俺はホルスターの感触を確かめて、深く椅子に腰を下ろした。
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ロスヨントスの昼下がりは、窓から差し込む陽光さえもどこかくすんで見える。
午前中の挨拶で、署内の”クソ野郎共”に明確な敵意を叩きつけた俺は、周囲からの嫌がらせに近い沈黙を無視して、署内の奥へと視線を走らせていた。
喧騒から切り離されたような一角。そこだけが、まるで真空地帯のように静まり返っている。そのデスクに座る男──レダー・ヨージローは、周囲の腐敗した熱気とは無縁の静寂を纏っていた。誰とも群れず、誰の機嫌も取らず、ただ沈黙という名の透明な壁を幾重にも張り巡らせている男。彼は報告書に目を落とし、ペンを走らせる音すら立てない。ただそこに「在る」だけで周囲を拒絶する圧倒的な何か。それは、自分を守るための殻ではなく、他者を寄せ付けないための鋭利な刃のようだった。
俺は椅子を蹴るようにして立ち上がると、迷いなくその刃の届く範囲へと踏み込んだ。
「⋯⋯あの」
俺の声に、周囲で賭けをしていた警官たちが一斉にこちらを見る。
レダー・ヨージローの目の前でぴたりと足を止めると、机を叩くこともなく、ただ至近距離でその横顔を見つめた。
「なに」
「初めまして。自分、音鳴いいます。お名前聞いてもええですか?」
少し食い気味な自己紹介にレダー・ヨージローのペンが止まる。彼はゆっくりと顔を上げ、俺を捉えた。その瞳は温度を感じさせず、覗き込めば一瞬で思考が凍りついてしまいそうなほど冷徹だった。
「⋯⋯レダー・ヨージロー、Rank4。これでいい?」
「レダーさん」
「はぁ⋯⋯悪いけど、俺も仲良しごっこはする気ないから」
うまくいった。そう思ったのも束の間、二言目にははっきりとした拒絶が返ってきた。物理的な圧力さえ感じるその一言に、周囲の連中は「ほら見ろ」と冷笑を浮かべる。
「ははっ」
冷え切った空気の中で、自分の笑い声が異質に響く。拒絶されたショックなんて微塵もない。心臓の鼓動が、午前中の不快感とは全く別の意味でうるさいほどに鳴り響いている。俺は一歩も引かずにレダーさんの至近距離へとさらに身を乗り出した。
「⋯⋯さいっこうやん」
周囲の奴らが俺を哀れむような、あるいは馬鹿にするような視線を投げかけてくるのがわかる。だが、そんなものは今の俺には、道端に転がる石ころほどの価値もない。俺は机に両手を突き、レダーさんとの距離をさらに詰めた。鼻先が触れそうなほどの至近距離。彼の瞳に映る俺は、きっとひどく歪んだ、それでいて愉悦に満ちた顔をしているはずだ。
「仲良しごっこ? いらんいらん、そんなぬるいもん。俺が求めてんのは、この腐った掃き溜めで、唯一『自分の足で立ってる』奴の隣なんで」
レダーの眉が、わずかに、本当にわずかだけ動いた。 不快感か、あるいはただの微細な反応か。だが、その氷のような瞳の奥に、俺という存在が「ただの新人」ではなく「異物」として刻み込まれた確信があった。
「これからレダーさんについていってもいいですか?」
沈黙が流れる。 周囲の喧騒が遠のき、世界には俺と目の前のこの男しかいないような錯覚に陥る。レダーさんは無言のまま、手にしていたペンをデスクに置いた。カチリ、という硬質な音が、真空地帯のようなこの空間に重く響く。彼は椅子の背もたれにゆっくりと体を預けると、まるで深淵から覗き込むような視線を俺にぶつけてきた。
「……勝手にしな。ただし、俺の足元を掬うような真似をしたら、その時はギャングより先に俺が、お前を黙らせる」
「望むところですわ」
思わず口角が吊り上がる。 警告。拒絶。そして、奇妙なまでの純粋な殺意。それこそが、この腐りきったロスサントスで、俺が最も欲していた「信頼」の形だった。俺は満足げに身を翻すと、背後に突き刺さる同僚たちの嘲笑を背中で受け止めた。 午前中のあの胸糞悪い不快感は、もう霧のように消えている。
「さて⋯⋯おもろなってきたやん」
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それから数日間、俺は文字通りレダーさんの「影」になった。 彼は俺を無視もしなければ、歓迎もしない。ただ、そこに存在することを許容しているだけ。でも、それで十分だった。
ロスサントスの汚れた街路をパトロールする時でも、助手席に座る俺に向かってレダーさんが口を開くことはほとんどない。車内に流れるのは、無線から漏れるノイズと、彼がハンドルを叩く一定のリズムだけ。だが、その静寂は心地よかった。署内の奴らが垂れ流す、誰かを嵌めるための相談や、汚職の分け前に関する皮肉混じりの冗談よりも、ずっと純粋な「仕事の気配」がそこにはあった。
変化が訪れたのは、配属から一ヶ月が過ぎた頃の、ひどく蒸し暑い夜だった。
通報を受けて急行したダウンタウンの裏路地。そこには、薬物の取引に失敗して逆上したギャングどもが、銃を乱射しながら立てこもっていた。応援を呼ぶのがセオリーだが、本署の連中が「厄介ごとは死なない程度に放置しろ」と無線を無視しているのは明白だった。
「⋯⋯音鳴。死ぬ準備はできてる?」
レダーさんが、防弾ベストのバックルを締め直しながら、初めて俺の名前を呼んだ。その声には、出会った時の冷徹さとは違う、どこか鋭い期待のようなものが混じっているように聞こえた。
「死ぬ準備? まさか。俺は、レダーさんの隣で生き残る準備しかしてないんで」
俺がホルスターから愛銃を引き抜き、スライドを引くと、レダーさんはフッと口角を上げた。それは、俺がずっと待ち望んでいた、鉄壁の壁に生じた最初の亀裂だった。
「なら、遅れんなよ」
突入の合図はなかった。彼が動いた瞬間、俺も同じ景色を見ていた。硝煙と悲鳴が渦巻く中、レダーさんの動きは無駄がなく、流れるようだった。彼は周囲を拒絶する「刃」そのものとなって敵を制圧していく。俺はその背中を追うのではない。彼の死角を埋め、彼が刃を振るうための空間を確保する。
「左、二人!」
「……分かってる」
言葉は最低限でいい。背中越しに感じる彼の体温と、引き金を引く指の連動。その瞬間、俺たちは確かに「相棒」という言葉を超えた何かで繋がっていた。
制圧を終え、静まり返った路地裏。肩で息をする俺の横で、レダーさんは返り血を拭うこともせず、空を見上げていた。
「……音鳴、お前って救いようのない馬鹿だな」
「最高の褒め言葉として受け取っとくわ、レダー」
その夜以来、レダーのデスクの周りにあった「真空地帯」は、少しだけその範囲を広げ、俺を内側へと招き入れるようになった。レダーは相変わらず誰とも群れない。誰の機嫌も取らない。けれど、コーヒーを二つ買って戻れば、無言で一つを手に取る。俺が独自のルートで掴んできた汚職の証拠をデスクに置けば、彼は何も言わずにペンを走らせ、一緒に「掃除」の段取りを始める。
「レダー、今日のコーヒーちょっと苦すぎん?」
「文句があるなら自分で淹れろ」
そんな、他人から見れば何気ない、けれど俺たちにとっては戦友としての儀式のようなやり取り。数年の月日が流れる中で、俺はレダー・ヨージローという男の深淵を誰よりも理解し、彼もまた、俺の狂気を飼い慣らす術を覚えた。
今ではもう、彼が報告書を書く時のペンの走り方ひとつで、その日の機嫌や追っているヤマの大きさが分かる。レダーが築いた孤独という名の城壁に、俺は楔を打ち込み、そのまま居座ってやった。今じゃその壁の強度は、俺が隣にいることで完成してるのだから。
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ロスサントスの夜風は、ロスヨントスの澱んだ空気とは違い、どこか乾いていて、それでいて刺すように冷たい。 俺たちの拠点──868のアジトの屋上で俺は一人、紫煙を夜空に燻らせていた。
あれから、色んなことがあった。 成瀬夕コという、俺たちの「狂気」をさらに加速させるような人に出会い、俺達はこの街へやってきた。仲間が増え、組織ができ、警察の制服を脱ぎ捨てて『ギャング』という名の自由を手に入れた。
『俺さロスヨントス戻ろうと思ってんだよね』
そう告げた時のレダーの瞳は、出会ったあの昼下がりと同じ、いや、それ以上に鋭利な「刃」の輝きを取り戻していた。 俺という異物が彼の孤独に溶け込み、いつしか二人で、みんなで一つの『静域』を作り上げていたはずだった。けれど、その聖域すらも脱ぎ捨ててあいつは、自らの原点である「孤高の正義」へと立ち返ることを選んだ。
「……勝手な奴やで、ほんまに」
寂しくないと言えば嘘になる。 数年間、俺が隣にいることで完成していた彼の「壁」。それを自ら壊し、再び茨の道へと足を踏み入れた男。だが、不思議と胸のうちは清々しかった。
誰よりも「レダー・ヨージロー」という人間を理解している自負がある。 誰よりもあいつの不器用な正義を、一番近くで見届けてきた確信がある。 だからこそ、レダーが選んだ道が、どれほど彼を彼たらしめるものかも分かっていた。
「あー!やっぱシリアスはあかんわ」
俺は手に持った煙草を灰皿に押し付けた。俺は暗闇を見つめ、不敵に笑う。 レダー、お前が選んだ新しい空の下でも、その刃だけは絶対に錆びつかせんなよ。俺も、レダーが認めたこの場所で誰にも文句を言わせんくらい高く飛んでみせたる。
次に会う時が、銃口を向け合う瞬間だったとしても。 俺の心臓の鼓動は、あの昼下がりと同じように、期待と高揚でうるさく鳴り響いている。
「またな、レダー。……おもろいことやろや」
俺は振り返らずに、仲間たちが待つ喧騒の中へと戻っていった。 ロスサントスの風は冷たい。けど、俺の足元はもう出会った頃のように震えてはいなかった。
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