テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「みんな、今までありがとう」
そう残して、霊夢は全人類から“博麗霊夢”に関連する記憶を抹消した。
そんな世界で、私だけが霊夢の事を覚えている。
あれから何ヶ月経ったのだろうか…
彼女はなぜ私の記憶には手をつけなかったのだろうか。
いや…考えていても仕方がない。
今日もバーを転々として、彼女の記憶を探す。
巫女服の傭兵を知らないかと訊いても、帰ってくるのはそっけない返事。
判っていたんだ…もう霊夢のコトを覚えている人間は
この世界で私だけしかいない。
プルルル、と長らく着信など入らなかった電話が鳴る。
ヒトと話すことを煩わしく思い、無視をしていたが
私の手は自然とポケットに伸びていた。
「もしもし」
「もしもし、魔理沙か?」
「この声は…チャールズか。」
チャールズ・バークレーは、私と霊夢の良き理解者であり、同僚であり…
そして、親友だ。
そんな彼も霊夢のことは覚えていない。
「またあれか…霊夢、だっけか」
「そうだ、まだ思い出せないのか?」
「思い出せないもなにも…そんなヤツ、知らないんだけどな。」
その後、しばらく談笑をして電話を切った。
私は行かなければならないところがあるからだ。
「ここ…だよな」
私が向かったのは、霊夢の家があったはずの場所。
私たちの家があったはずの場所。
そこに我が物顔して建っていたのは、もう長いことヒトに忘れ去られていたような
誰も住んでいない廃ビルだった。
暇だったので、少し中を探索してみる。
内部で木霊すのは自分の足音だけで、本当に誰もいないであろうことが伺える。
昔暴走族たちが描いたであろう落書きや、昔ホームレスが焚いたであろう焚き火の跡。
過去の残影を辿りながら進んだ先には、やはり何もない。
もう、本当に霊夢はいないのか。
今まで耐えてきた様々な感情が、私の上にのしかかる。
会って話をしたい。また他愛のない話をして
くだらない毎日を、あなたと一緒に過ごしたい。
昔そう言ってくれたのは、霊夢だろ?
なぜ霊夢は私の記憶だけをそのままにしておいたのか
ここで泣いている暇はない。
立ち止まることなら赤子でも出来る。
私は、あなたをもう一度探し出してみせる。
昔、霊夢が私にしてくれたように。
:
:
:
:
:
:
:
:
私はその後も、昔霊夢と一緒に訪れた場所を周った。
リゾート地やSCP財団、ソ連時代の廃工場。
昔一緒に逆走した高速道路、昔一緒に沸かせたフロア。
そこで霊夢の記憶を探したが
やはり帰ってくるのはそっけない返事。
もう、私は永遠にいもしない人物の幻影を追い続け
そして死ぬのだろうか。
何ヶ月も霊夢を探して、何回も心が砕けそうになった。
「また…会いたい…」
「魔理沙」
…いま、霊夢の声が
振り返っても誰もいない。私は大声で笑った。腹がよじれるくらい。
ついに幻聴が聞こえるようになっちまった!!
ついにおかしくなっちまった!!
仕方ない。仕方ない。
おかしくなるのも仕方ない。
ずっとこんな生活、耐えられない。
終わりにしよう、今日で終わりにしよう。
もう私は、博麗霊夢を探さない。
その決意どおり、私は霊夢を探すのを辞めた。
チャールズは、急に魂が抜けたように大人しくなった私を心配してくれた。
迷惑かけたなぁ、思えば私はいつも迷惑ばかりかけていた。
あの時も、霊夢は迷惑に思っただろう。
それでも私を見つけてくれた。言葉をかけてくれた。
ごめん、私は見つけられそうにないよ。
過去との決別、そんな綺麗なものじゃない。
これはただの途中放棄だと、私だって判ってる。
なぁ、どこに行っちまったんだよ。
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
:
そしてそれから何週間か経ち、私はユメを見た。
霊夢が私を呼んでいる。
「あの廃ビルで、また逢おう」
その声を聞いた瞬間、足元の妙な浮遊感で私は目覚めた。
この出来事さえ無ければ、今は なんの変哲もない朝だっただろう。
焼いたトーストにかじりつきながら、先程の言葉がぐるぐると頭の中で巡る。
もう私は霊夢を探さないと決めたはずだ。
でも…他でもない霊夢が、私を呼んだんだ。
お世辞にも優雅とは言えない朝食を済ませ、廃ビルへ向かう用意をする。
なにか嫌な予感がしたため、必要最低限の武器を持っていくことにした。
私の中で最も扱いやすい銃のひとつ、グロック17をお供として持っていくことにした。
気休めくらいにはなるだろう…
レンタカーで廃ビルへと向かう。
まさか、もう一度行く羽目になるとは思いもしなかった。
そこに何が待っているのか、私には分からない。
でも、どんな結末でも私は受け入れよう。
廃ビル周辺の空気は、冷たくて重たかった。
錯覚なのかは分からないが、その空気にあてられた肌は微かに震えていた。
私が見ることになるのは何なのだろうか…そう考えていると
背後から人の気配がした。
ポケットに手を入れてグロック17を取り出す暇はない、なら…!
「あぁ!!!!」
震える腕に力を入れ、相手の腹に肘を叩き込む。
もちろんこの程度で倒せるとは毛頭思っていない。
相手が少しでも怯んでいるうちに、ポケットからグロック17を取り出す。
考えることをやめ、ただ引き金を引く。
勢いよく鉛玉が飛んでいき、相手の頭に当たる。
それと同時に私の身体は、銃を撃った際の反動で吹っ飛んだ。
重い身体を起こしながら相手を見た。起き上がる気配はない。
それにしても、しばらく銃を触っていないだけで
こんなに反動がキツく感じるとは。
反動が大きい、軽い銃を持ってきたのは間違いだったかもしれない。
だが重い銃を持ってきていたら今頃…
…色々考えるのはよそう。
とりあえずグロック17はポケットに仕舞い、代わりに私を襲ってきた奴が持っていた
サバイバルナイフを手に取る。
反動も無いし、重たくない。
今のような場面だとこっちの方が役に立つだろう。
さて、出鼻を挫かれたなと思いながら
再度廃ビル内部へと向かう。
:
:
:
:
:
:
:
:
:
廃ビルは前来た時と何ひとつ変わっていなかった。
ただ、変わったところを挙げるとするならば
私以外にも、10人以上はこの廃ビルで元気に歩き回っているという点だろう。
なるべく接敵しないように、足音が聞こえない方向を探って少しづつ探索する。
接敵した場合、遠くにいる敵には鉛玉を味わってもらい
近くまで迫ってきた敵はナイフでずたずたにした。
内臓の血は匂いがキツく、10回以上は吐いた。
朝食べたトーストが胃袋から無くなったあたりで、最上階にたどり着いた。
結局ここまでなんの手掛かりもない。
人がいるということは、なんらかの事柄は起こっているハズだが
今のところよく分からない。
ひとつ分かったのは、こいつらは雇われているということだ。
霊夢と同じように傭兵なのだろうか。
その時、微かに違和感を感じた。
目を瞑り、聴覚に意識を集中させると
それは話し声であることが分かった。最上階の一室から、男の声がする。
「君の彼女が迎えにきたらしい…健気じゃないか。」
「魔理沙が?そんなわけ、あいつが…」
男の声と、あとひとつ。
霊夢だ。感情に任せ、勢いよく扉を蹴破った。
乱れる呼吸を正しながら、彼女の前に立つ。
「霊夢、迎えにきたよ」
「このカキタレ…余計なお世話だ。」
「私の記憶を消さなかったのには、何か訳があるんだろ」
その時、霊夢の隣に座っていた男が立ち上がる。
「博麗霊夢…魔理沙の記憶を改竄しなかったというのは本当か?」
「…」
「本当らしいな…おかしいとは思ったが。」
窓の方へと歩き、カーテンを開ける。
窓を開け、部屋の中にまで漂う死臭を外へと逃す。
「これが愛というやつか。申し遅れた、私の名前はFPSgamer201。」
「その名前は…!」
「そう、世界の創造者…それが私だ。」
驚く私を尻目に、ふっと笑いながら窓の外へと視線を移した。
「私を殺すのなら、そうすればいい。」
そう続けながら彼は私の前に向き直る。
霊夢を助けたい、その一心で
私は考えることをせずに、彼の頭へ銃口を向けた。
この引き金を引けば、全てが終わる。
楽しかったあの日々が帰ってくる。
さようなら、FPSgamer201…
「待て魔理沙!!撃つな!!!」
霊夢が必死の形相でそう叫んだ。
「なんでだよ!!一緒に私たちの家に帰ろう!!」
そうだ、帰ろう。
もう一度、一緒に暮らせるだけでいい…
「なんてささやかな願いなのだろうか、愛…これが愛か」
はっはっは…と、いかにも悪人じみた笑い声をあげる。
何が楽しいのかひとしきり笑ったあと、彼が口を開く。
「もうあの日常は帰ってはこない。この世界にいる…お前以外の人間から
“博麗霊夢”に関する記憶は消去している。」
そしてもちろんバックアップも取っていない、と続ける。
「じゃあもういい、とりあえず考えるのはお前を殺してからだ。」
「殺せるものか。私を殺せば、この世界の均衡は崩れるぞ。」
「なんだと…?」
なら、殺せないってことかよ。
私は頭を抱えた。頭痛がする。
ただ、帰りたいだけなのに…どうしてこうなってしまうんだ。
「魔理沙…魔理沙、よく聞いてくれ」
「霊夢…?」
「いい方法を思いついた。止めておいてなんだが、お前はヤツを撃て。 」
「なら、この世界はどうなっちまうんだ?」
「何も考えなくていい、終わってからゆっくり話そう。」
私はゆっくり顔を上げ、もう一度FPSgamer201に銃口を向ける。
この世界の創造者であり、私たちの父とも呼べる存在。
彼もまた、悩んだのだろう。
そして、この選択をした。
自分と最も関わりのある霊夢の存在を消す。
霊夢がいなくなった世界は、YouTubeなどとは無縁の
少しおかしな幻想郷として存在し続ける。
霊夢はそれを了承し、自分に関係する記憶をこの世界から抹消した。
それでも私の記憶を消さなかったのは…
「魔理沙!!!!撃て!!!!!!」
…考えていても仕方がない。
引き金を引くと、鉛玉は迷うことなくFPSgamer201の脳天を貫いた。
それと同時に世界は不具合を起こし、クラッシュした。
:
何もない、真っ白な世界。
そこで私は霊夢と向き合う。
「それで、ここからどうするんだ。」
「世界のバックアップを取ってあることを思い出したんだ、これで元の世界に戻れる。」
「本当か!?なら、もう一度…! 」
「それは無理だ。」
そうキッパリと言い切った霊夢の顔を見ると、少し目が潤んでいるように見えた。
「どうして…」
「私が取ったバックアップはひとつだけだ。
私とFPSgamer201がいる廃ビルへ向かう前の朝…それだけだ。」
ああ、もうそれ以上前には戻れないのか。
霊夢がいなくなる前に戻れたら、どれほど良かっただろう。
「いいか、お前は元の世界に戻ると同時に記憶を失う。
世界の抑止力が働いてしまうからだ。これは私でもどうにもできない。」
「お前はもう私に関わらない方がいい。お前はお前の人生を大切にしてくれ。」
でも、だけど、などと駄々をこねる私を、愛娘を見るような目で見つめる。
霊夢はそっと手を伸ばし、私の頬に触れた。
「私だってお前ともう一度暮らしたい…」
「一緒に…一緒に暮らそう!大丈夫だ!もう一度助けにいく!」
霊夢はダメだと首を横に振る。
だが、絶望に打ちひしがれたような顔をする私を見ていられなかったのか
最後にこう言った。
「もし、もし助けにきてくれるなら…」
「あの廃ビルで、また逢おう」
:
その声を聞いた瞬間、足元の妙な浮遊感で私は目覚めた。
この出来事さえ無ければ、今は なんの変哲もない朝だっただろう。
焼いたトーストにかじりつきながら、先程の言葉がぐるぐると頭の中で巡る。
もう私は霊夢を探さないと決めたはずだ。
でも…他でもない霊夢が、私を呼んだんだ。
しかしなぜだろう。私は、何回もやり直している気がする。
そこで全てを思い出した。
ああ、もう何十回も霊夢を助けて、失敗してるんじゃないか。
何回もユメを見て、何回も人を殺した。
それでも取り戻せないものがある。
ここから先、廃ビルに向かえばそこは非日常だ。
このまま日常を過ごすか、また何十回も非日常を繰り返すのか。
私には何が正解なのか分からない。
それでも私は、また非日常の境界線を越える。
コメント
3件
短っっっっっっっっ!!!! こんなクソ短い短編だけしか書けない奴がいるってマジ? マジなんだよなぁ… とりあえず…FPSgamer201さんは歴史に残るGMODゆっくり実況者とだけ。