「雨、凄いね」
どうしよっか、と言葉では言いながらも困った様子が全く感じられないような表情で笑うおらふくんが眩しい。店内のガヤガヤとした人の声、外からのザーザーという雨の音、そして自分へ向けられたカラッとしてて耳馴染みのある綺麗な、声。つい返事をするのを忘れていると、大丈夫?と声をかけられた。
「あっ、ごめん。ぼーっとしてた」
そう無理に作った笑顔は酷いものだろう、どうしてこう上手く行かないのかと自分を恨む。すぐ止むかもしれないし、待っとく?と雨をいい事に少しでも一緒にいたいという事を密かに思いながら提案した。ただ目の前のお皿は空っぽ、何も注文せず止まるのも店側に悪いだろうと、おらふくんはアイス、自分はプリンをひとつ頼む。時間潰しとおらふくんが同じメンバーであるぼんさんの話を始める。この前2人でご飯行った時こんな事があっただとかこんな面白い事があったとか、時折思い出し笑いをしながら楽しそうに。
「おらふくんはほんと、ぼんさんが好きだね」
ほんとに軽い気持ちで、あまりに楽しそうに話すもんだから、ぽろりと言葉が落ちた。勿論、友愛の意味で、それなのにおらふくんは、まるで通信の悪いビデオ通話のように固まって、時々 ぁ、とか ぇ、とか声を漏らしてながらやっと「うん」と2文字を呟いた。そんなおらふくんを見てこちらも固まる。どうしてそんな恥ずかしがる必要があるの、もしかして友愛ではない別の感情があるんじゃないか、そんな事思いたくもないのに、頭が考える事を辞めさせてくれない。だらだらと流れる冷や汗の気持ち悪さを感じながら、ははと乾いた笑いを絞り出した。
会計を終え外に出ると雨が止んで…いるわけもなく、なんなら酷く、土砂降りになっていた。天気予報を見るとこれから数時間は止みそうにないとの事。スマホを持った手から起点にサーッと血の気が引くのがわかる。やはり今日は上手くいかない、確か今朝の占いも最下位だったな、なんて思いながら静かに肩を落とした。どうしよう、おらふくんに限ってそんな事で嫌いになる事は無いだろうけれど、怒ったり、失望したりしていないかなと少し顔を盗み見る、そんなおらふくんは予想とどれも違って、笑顔でこちらに手を差し伸べていた。どんな状況?全く意図が読めない、困惑しつつもとりあえずと差し伸べられた手を取ると、待ってましたと言わんばかりに走り出した。
「あはは、走るよ!」
「うわっ、え?おらふくん!?」
成人男性2人、土砂降りの中走る。時折水溜まりを踏んではバシャッと足にかかり、運悪く目に入った雫に眉を顰めて、ベチベチと顔に当たる雨にかすかな痛みを感じながら、ただただおらふくんに手を引かれ、背中だけを追いかける。雨の音しか聞こえない、何かおらふくんは言っているだろうか言ってないだろうか、何も聞こえないから分からない。なんだか妙に寂しさが込み上げてきて、先程の、自分では無い相手を想うおらふくんを思い出す。駄目だ、やっぱり今日は上手くいかない、なんだか自分が酷く惨めで、哀れで、どうしようもなくて、鼻がツンと痛くなって喉の奥がぎゅうと痛くなって、ぶわっと目から涙が溢れた。ボロボロと止まらない涙が雨と混じってよく分からない、ずびずびと鼻を啜って、喉が鳴った。もうどうしようも無くなって、この心の制御が聞かなくて、煩い雨の音を好機とばかりに気持ち悪かったものを全て吐き出した。
「好きだった!ずっと前から!」
いつもだったら周りな引かれるような大きな声での愛の言葉も、無慈悲に雨の音にかき消される。おらふくんが何かを言ってるようだが聞こえない。きっと、おらふくんの事だから、律儀に聞き返してるのだろう、自分が一世一代の告白をされたなんて微塵も思わずに、
まだ飽きずに流れる涙を濡れた手で擦る、ボロボロと出てくる涙と降ってくる雨で自分が泣いてるのかすら分からなくなりそうな程。ああ、好きで好きで堪らない。泣いてるのに泣きたくなる。きっとおらふくんは知らないだろう、今日は君のために新しい服を下ろしてきた事、君のために髪をセットしてきた事。全部君のため、そんな物も全部 雨でぐしゃぐしゃで全てが報われなくって、今は君の背中を見て涙を流すしか出来なかった。
コメント
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この話めっちゃ好きなんだけど、、!
ほんとにストーリー神すぎる!!!