テラーノベル
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今年の冬は暖かいといってもやっぱり冬の夜のの空気は少しだけ痛くて、でもその冷たさすら今日の私には心地よかった。だって隣には、明王ちゃんがいるから。
「そんなに急ぐなよ、ヒナ。転ぶぞ。」
「だって…めっちゃきれいだよ。ほら、あそこ!」
指をさした先には、通りを覆うようにアーチになったイルミネーション。青と白の光が夜の空気にとけて、星より近い場所で瞬いている。
「……ねぇ、明王ちゃん。」
「あ?」
振り向くその横顔が光に照らされて、キツイ目元がちょっとだけいつもより柔らかく見える。他の人にはきっと見せない私だけの明王ちゃんの表情。そう考えるとそれだけで胸がギュッと締め付けられる。
「私、恋人とイルミネーションに行くのがずっと夢だったんだ。だから大好きな明王ちゃんと一緒にここに来れて嬉しい!」
言った瞬間、顔が熱くなる。自分でもびっくりするくらいストレートに言っちゃった。
明王ちゃんは少し目を見開いて、それからふっと笑った。
「…お前、本当変なこと言うよな。そんなことならもっと早く言えよ。」
「え、変かな?」
「変じゃねぇよ。むしろ…。」
「むしろ…?」
明王ちゃんの冷たい手が私の手に触れる。
少しの沈黙の後、おもむろに明王ちゃんが口を開いた。
「……むしろ可愛いんじゃねぇの。」
「…!」
普段は全然言ってくれないのに。
ちらりと火照った顔を明王ちゃんの方に向けると明王ちゃんはフイ、とそっぽを向いた。
―明王ちゃんも照れてるんだ。
頬が緩む。それを見た明王ちゃんはさっさと次行くぞと言わんばかりに触れるだけだった手を強く握り、私を引っ張った。
いっそう早くなる鼓動を見て見ぬふりしながら私は明王ちゃんについて行った。
アーチをくぐるたび、色が変わって、影が揺れて、私たちが歩く度にその全てが祝福してくれてるみたいだった。
「明王ちゃんも、こういうの好き?」
「別に興味ねぇけど…。」
そう言いながら、私の手を離そうとしない。
「ヒナが好きなら、まあ悪くねぇな。」
言い方は素っ気ないのに、指先はすごく優しいんだ。
「ねぇ、あっちにも行こ!」
光の並木道を駆け出そうとすると、なおも繋がれた手を引っ張られた。
「おい!走るなっつってんだろ。」
「ごめん、ごめん! でもキレイだから…。」
「分かってる。…ほら、こっち来いよ。」
引き寄せられた瞬間、肩に触れた指があたたかい。明王ちゃんは周りを気にして少し顔をしかめたけど、手は離さない。
「ヒナの誕生日なんだから、転ばれて怪我なんかされたら困るだろ。」
「それって心配してるってこと?」
「…当たり前だろ、恋人なんだから。」
その言い方があまりにも自然で、不意打ちで、胸がぎゅっとなる。
少し歩くと、広場が開けていて、大きなツリーが輝いていた。てっぺんの星まで全部光っていて、まるで夜空にもうひとつの星が降りてきたみたいだ。
「どうだ?ヒナこういうの好きだろ。」
「うん…。すごく、きれい…。」
少しの間静かにそのツリーを眺めていた。
「連れてきてくれてありがとう。今日、絶対忘れない。」
「…忘れんなよ。俺も…。」
明王ちゃんが目を逸らす。
「こういうの、嫌いじゃねぇし。」
「え、さっき興味ないって言ってたのに?」
「……ヒナと来るならって意味だよ!」
光の中で見える明王ちゃんは、ちょっと照れてて、ちょっと優しくて、いつもより少しだけ甘い。
そんな彼の横で、私は胸の中でそっと祈った。
来年も、その次の年も…明王ちゃんと一緒にイルミネーションが見られますように。
光の中で手を繋ぎながら歩くこの時間が、私にとって世界で一番のプレゼントだった。
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