〈attention〉
hb✖️knmc
🔞、序盤の方にfwがいます
ふわり、隣から香る鼻腔を擽る爽やかな匂いに不破は一瞬眉を顰める。自分の鼻がおかしくなければその匂いは同じ事務所の後輩の渡会の匂いにそっくりだった。別に他人から知人の匂いがしようがしまいが言ってしまえば何方でも良いのだが、普段絡みが無い二人だからこそ少しひっかかってしまった。
「もちさん今日ひばと一緒におったん? 」
そう率直に質問した不破に剣持は一瞬目を見開いたが、直ぐに怪訝そうな顔になった。表情豊かな剣持に薄く笑いながら相手の出方を伺う。
「…何、急に」
「いやぁ、もちさんからひばの匂いがしたから一緒におったんかなぁ、って思って?」
「…んふ、何で疑問系なの」
怪訝な顔から一転、何が剣持の琴線に触れたのか可愛らしい笑い声をあげる剣持に不破は目尻を緩ませる。つくづく、可愛らしい先輩だと実感する。齢十六の少年はその年に合わない程の実績と経験値を持っているにも拘らず、時々見せる高校生とは思えない、幼子の様な姿に不破はこれが父性か、と感動を覚えた。
そんなよく分からない謎の父性に感動していた不破に何やら良くない雰囲気を感じたのか剣持は不破の脇腹目掛けて肘で思い切り殴った。
「う”ぉおッ…もちさん…脇腹は痛いってぇ…」
「ふわっち、僕に対して失礼な事考えてたでしょ」
「いやいや、先輩にそんなこと考えませんて」
最近よく呼んでくれる様になり、自分も耳馴染んできた愛称に仲良くなったなぁとしみじみ感じ入っているとじとり、と睨まれたがにゃは~と笑いながら遠くを眺めると静かに一つ溜息を吐かれ呆れられた。一回りとちょっと離れた歳の子に呆れられるのは些かくるものがあったが仕方ない、と深く考えず流しておいた。
「それで、僕が渡会くんと一緒にいたかどうかだっけ」
「そっすね」
「ふわっちそんな事気にする人だっけ?」
「いや~、まぁ、それはご愛嬌みたいな?」
ご愛嬌…?と若干困惑した表情を向けられたが不破湊と言う男に何を言っても無駄かと諦め剣持は口を開いた。
「…僕は渡会くんと一緒じゃありませんでしたよ。同じ匂いがするのは大方、僕が渡会くんと偶然同じ香水を使っているとかでしょう」
「………ほぉ~ん」
納得したような、してないような。何か引っ掛かる感じがするがこれ以上剣持に追求しようものなら、うざがられ嫌な顔をされるのがオチなのでここで話を切り上げるようにした。
ただ、現役ホストとしてまだ可愛らしい高校生の少年に少しだけ知識をお教えしておこう。
「もちさん、」
「なに?まだなんかあるの」
「んや、ちょっと教えておきたい事があって」
小さい子供が内緒話をする様に剣持の耳元に口を持って行き誰にも聞こえない様に両手を添える。
「それだけ匂いが付くって事はよっぽど近くにいた、例えば熱烈なハグをしたとかね。もしくは夜の逢瀬をしたって思われても可笑しくないんすよ」
「…ッな…!!!」
耳まで真っ赤にさせた高校生が存外いじらしくて思わず意地悪な笑みを浮かべてしまった。そんな自分の姿に気を悪くしたのか即座に立ち上がり速攻で帰ってしまった。
悪い事したなぁ、と笑いながら見送った不破はそれでも普段の仕返しが出来たとその顔は達成感に満ち溢れていた。
大きな足音を立てながら剣持は家の廊下を進んで行く。目的の人が居るであろう部屋の前まで来ると大きく一つ深呼吸をしてドアノブに手をかける。
「渡会雲雀!!!!!!!!」
「どわぁあッッッ!!!!」
バァン、と思い切りドアを開けてリビングの中に入る。扉を開けた先には肩をびくりと揺らし光の速さで振り返った派手な髪色の彼こそ剣持の正真正銘の恋人、渡会雲雀がそこにいた。
「なになになになに、もちさん…?俺何かやらかした感じっすか…? 」
迷い無き足取りで渡会の元へと進んで行く剣持の顔はまるで般若の様だった。その様子に只事では無いと思いながらも、普段見せない恐ろしく怖い表情にじりじりと座ったまま後退ってしまう。最終的に壁の端まで追いやられて所謂、壁ドンの様な体制になった。
普段、身長差的に見下ろす形になるので見上げる形なのは新鮮で良いなぁ、と思っていると剣持の薄い唇が言葉を紡ぐために開かれる。
「ぼく、渡会くんの香水つけるのやめます」
「ハッ!?!??!」
思わぬ衝撃の一言に月の様な目を見開き剣持の華奢な肩を掴む。肩を掴まれると思わなかったのか剣持も翡翠の瞳を大きく見開き渡会を見つめる。
「なんで!?俺の香水つけるの辞めちゃうんすか!??!」
「…ふわっちに、相手の匂いが強く着くのは…その、夜の逢瀬をしたと思われるらしくて」
「そんなぁ……」
目線を逸らし気まずそうにそう告げると渡会は剣持の肩を掴んでいた手を離し、再び床にしゃがみ込む。いつも元気一杯な渡会がこうもしょげ込んでいると中々調子が狂うもので。おろおろと手を彷徨わせていると腕の隙間からか細い声が聞こえてきた。
「…ん…にぉ…すか、?」
「なんてぇ??」
途切れ途切れの単語が聞こえるだけでまるで文章にならない、と剣持は自分の耳を渡会の頭に近づけると漸くその単語が文章としての形で見えてきた。
「もちさんは、俺の匂い嫌っすか? 」
顔を上げた渡会の目や声色は酷く不安に塗れていて無い筈の犬耳がしょげているように感じた。それがあまりにも大型犬の様で剣持は恋人に一抹の可愛らしさや愛しさを感じた。
ふわふわの紫色の髪を優しく撫でてやるとその手に擦り寄る様に頭を擦り付けてくる。
「嫌じゃないよ。でも僕達の関係性を言ってなかったから周りの人達が吃驚しちゃうと思って」
「じゃぁ俺らの事周りの人達に言いましょ~よ~…!!!俺、奏斗達誤魔化すのそろそろ限界なんっすよぉ!!!」
めそめそと180を超える巨体が抱きついてきては幾ら現役男子高校生、剣道部だと言っても支えきれないものでバランスを崩してしまう。背中から思い切り行ったので大分強い痛みを覚悟していたが、その痛みは訪れる事は無く代わりに暖かい腕が添えられていた。こう言う気遣いは出来るのに何故自分のタッパを考えずに抱き付くのか剣持は理解出来なかったが、取り敢えず顔のすぐ近くにある紫色の髪を撫でる。
頭を撫でられたのがお気に召したのか抱き締める腕に力が入る。ぎゅ~、と抱き締められ流石に苦しくなったので軽くぽんぽんと背中を叩くと少し力が弱まった。
「…ぁのね、渡会くん。皆に僕らの関係を言うのはもっと後にしましょう。僕ら付き合ってる片鱗を見せた事が無いので急に報告したら皆びっくりしちゃうから」
「………じゃぁ、おれの香水もう二度と使わないんですか?」
「そんな事無いよ。事務所行かない日とか、それこそデートの日とかは付けるよ。絶対」
夜空に浮かぶ月の様な瞳と翡翠の瞳が混じり合う。翡翠に嘘は一切なく、真剣に真っ直ぐと言葉が紡がれて行く。
「絶対っすよ」
「うん、絶対」
小指を混じり合わせ約束をする。
「あ!それじゃ新しい香水渡しときますね」
はい、と手渡された香水はいつものメーカーと違うもので思わず首を傾げてしまう。
「今日はいつものじゃないんです?」
「そぉなんすよ~、それボルタでコラボさしてもらったやつで俺がプロデュースしたんすよ~!」
「へ~、渡会くんが調香したんだ」
「ちょう、こう?」
「あ…なんでもないですよ」
「え!?なんすか!?!」
渡会から貰った香水を天井照明に掲げ、静かに笑う。彼がプロデュースした、彼だけの匂い。そう思うと何だか気分が良くなってきて自分の口角が上がるのが分かった。
「ありがとうございます、大事に使いますね。…僕ばっかり貰ってばかりはあれなので、僕も何かお返しできる事があるならしますよ」
「え!何でも良いんすか?」
「ん~、まぁ、いいよ」
やった~と目を輝かせる渡会に微笑ましいと笑みを浮かべているとその無邪気な顔からは想像もしていなかった要望が飛び出してきた。
「じゃ!久しぶりにシましょ!!」
問答無用とでも言う様に此方が有無を言う前に抱き抱えられ、抗議する声も虚しく二つの影は寝室の中へと消えていった。
「ほ、んとにスるんですか?」
「?シなんいんすか」
ベッドに押し倒された後、手際よく準備をする渡会に問いかけると純粋無垢な顔をして返される。シたくない訳では無いので口籠ってしまう。その様子に小さく笑われ顔が赤くなる。
「かぁわい」
そこに居たのは普段の明るい大型犬の様な雰囲気は鳴りを潜めた、獲物を見据えた獣だった。
「ひぁ”あッッッ♡♡」
「んッ…♡もちさん、締めすぎ…w」
あれから何分、何時間経っただろう。段々脳が考える事を放棄し始めてきた。頭が気持ちいい以外の思考を捉えなくなってきて、視界が白み始めてくる。シーツを掴む指先に力がこもる。
「ん…もうちょっと緩めて…?♡」
「むぃ”ぃいッッ♡♡れ”ぎなぃ”ッ♡」
必死に首を振って出来ない、止まって欲しい事を伝えるも渡会の腰を振る速度は変わらない。それに更に生理的な涙が溢れ出してくる。そんな様子にも興奮した様な目の色をして自分を隅から隅まで貪ってくる。
「ん”ぉ♡も”ぉやらぁぁ♡♡♡い”けなぃッッッ♡れ”なぃ”い……ッ♡」
「できるできる…♡限界突破っすよ」
「や”ぁぁあぁあッッッ♡」
助けを求め手を伸ばすもその先に居るのは自分を今現在犯している張本人なのでそのSOSも虚しく剣持の華奢な手は絡め取られ、あっという間に恋人繋ぎにされた。渡会の一連の行動にガチでコイツ逃す気無いな、と絶望した剣持はさらに涙を溢れさせた。
「がちでもちさんかわい~…ッ♡」
空いているもう片方の手で頭を撫でられる。その優しい手つきで頭を撫でられるなら腰使いも優しくしろよ、という思いを込めて目の前にいる男を睨んでみるも軽く笑い流されて終わった。
ある種拷問の様な快楽が続く。
「…もちさんって俺と付き合う前にセックスした事ありました?」
「んぇ、?♡ぁ”♡な、いけどぉ”おッ♡♡」
そんな事をぼんやりと考えていたので急な渡会からの質問に少し戸惑ってしまう。
「ふ~ん、なら良かったっす♡」
初めてじゃなかったらどうなっていたのか、剣持は口元をひくつかせた。考えるだけも恐ろしい。必ず朝まで手酷く犯され続けたのだろう。しかしながら何故、急にそんな事を聞いてきたのかと考えていると渡会に腰を掴まれごちゅん♡と奥の奥まで深く挿れられる。
「何考えてるん…?♡」
「んぉ”ッッッ♡♡♡」
腰を思い切り掴まれ奥を突かれる。意識が混濁する。
「ね、今は俺以外のこと考えんで下さい♡」
「ん”っ♡ごぇんッなさぁ”♡♡♡」
そう言われて仕舞えば無意識ながらに目の前の渡会に意識を注ぐ。満月に似た輝きを放つ瞳が剣持の赤い顔を眺めている。普段の明るい雰囲気が鳴りを潜め獣の様で非捕食者の気持ちを味わう。
「イ”ぎぅッッ♡いっか、とま”ぁ”ッてよぉ”♡ぉお♡も、しんどいぃ”ぃいッッッ♡♡♡」
そんな剣持の必死の言葉も聞き流しながら優しい目つきで剣持を眺める。しかしながら依然として腰を振る速度は衰えを知らない。
いよいよもって剣持の体力がそこを着きかけた時にそれを知ってか知らずか渡会もラストスパートとでも言う様に剣持の体を抱きしめ、所謂種付けプレスの体制に入った。その体制になったからか、それのせいでさらに奥に入ってくる渡会のモノに剣持は思わず目を見開き仰け反ってしまった。
「お”ごッ♡」
苦しげな声を上げて喉仏を晒す剣持に捕食者としての本能が唸りを上げる。目の前に無防備に晒された喉仏にしか目がいかず思わず喰らいついてしまった。
「ひゅ”ッ♡…ぁ?♡」
渡会の尖った犬歯が喉元に刺さる。
喰われる。
生温い生活をしてきて鈍った己の本能が告げる。これは危ない、今自分は捕食者の目の前にいる事を再認識させる。しかし、それすらも快楽の渦に飲み込まれていく。
「んは、めちゃめちゃ目蕩けてますよ、もちさん♡」
喉元から口が離れたと思えば耳にするのも気恥ずかしい程に甘ったるい声の振動が鼓膜に届く。
「あ” 、あぉ”~~~~~~~♡♡♡♡ぉ”おぐ…♡しぬ”ッうぅ♡♡」
「もちさん俺もうちょっとでイくんで、一緒にイきましょ?」
と、問いかけられても剣持に返答する余裕は無い。それを良い事に自分が気持ち良くなれる様に腰を振る。剣持の意識は遠のきかけていた。
「…とぉやさん、ずぅっと一緒にいましょうね」
自分の意識が途切れる寸前で聞こえた大好きな渡会の声に自分は何と返しただろうか。ほぼ無意識に言葉が紡がれていた。ただ、最後に見えたのは嬉しそうに幸せそうに微笑む渡会の姿だった。
「やっぱ、僕たち禁欲すべきじゃないです?」
「や!!ごめんなさい!!!!次からは気をつけるんで、それだけはご勘弁を~!!!!!」
翌日、毛布に包まった若干不機嫌な剣持と、それを宥める21歳の怪盗がいたそうな。その二人の様子はこの世の幸せを集めて凝縮した様だった。