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#料理男子
「私もそう思います。喬一さんが駄目だってわけじゃないですよ。結婚式の着物、本当に素敵でした。一人ひとりしっかりと観察して、合った色や着物を選んでくださるし、素晴らしい才能ですし、着物が好きな方なんだなって思ったんです」
「姉さんも喜ぶんじゃないかな」
まんざらでもなさそうに少し口角を上げる。
喬一さんの、自分の身内を悪く言わない部分も尊敬していたりする。
私はつい父のナルシストな部分に悪態をついてしまうから。
「でもまあうちは他の家より厳しかったかもしれないな。だからこそ、紗矢の家が居心地が良かったのかも」
「……酔っぱらった父が喬一さんに腹筋させようと絡んできたり、お酒飲んで寝落ちした兄を部屋まで運んでくれたり、迷惑しかかけてない気がしますが」
「それが楽しいんだ。あと段ボールいっぱいの野菜。それと、紗矢かな」
「私もですか」
「俺のこと、見ててくれたでしょ」
「えっ」
車が右に曲がると、遠くに訪問者用の駐車場が見えた。が、すぐに更に曲がり、身内用の駐車場へ入っていく。砂利道で少し車がカタカタ揺れるが、私はそれどころではない。
「控えめに勉強をするふりしてこちらを見る紗矢、可愛かったな。俺の方がこの家に憧れて通っているのに、勉強の邪魔にならない位置で見てるの」
「わ、分かってたんですか」
「当たり前。観察してたのは俺だからね。でも男性にめんえきがないだけだろうと期待はしていなかったよ」
眼鏡のフレームを上げながら、余裕の顔でさらりと言った。
当時の私はそれほどバレバレだったとは恥ずかしい。
「それで、兄が一人暮らしするなら自分は家に居なきゃって進学に悩んでいる、いじらしさとか。一矢とおじさんの干渉と過保護のせいで、男性と全く関わり無くて初々しい感じ。俺も今のうちに唾をつけて、自分以外の男と関わらないようにしようか、血迷ったぐらいだ」
「ひえ。知らなかった。いや、今でも男性はあんまり。会社では父や兄に近寄りたくて胡麻を擦ってる人ばかりだし」
「本当かな」
クスッと笑われる。
「本心で君を綺麗だと思っていた奴らも大勢いただろうね。可哀そうに」
車を止め、恭しく助手席のドアを開けてくれる。
「でももう俺の奥さんだから、可哀そうな奴らは一生可哀そうで結構。俺の計画勝ちだ」
「……何か浮かれています? というか酔ってる?」
「酔ってませんよ」
運転したでしょと、上機嫌だ。一体、このお正月休みの間の彼のテンションはどうしたんだ。いや、イチャイチャできて私も嬉しいんだけど、でも何かちょっと変だ。
「喬一くん、紗矢さん」
関係者用の駐車場の奥の門が開く。着物姿で駆け寄ってくるのは、お姉さんの旦那さんの麗一さんだった。先日、うちの父に酔わされ、ほとんど会話ができなかったが、私のことを親し気に呼んでくださった。
「あけましておめでとうございます。先日は酷い醜態をさらしてしまいましたが、お詫びをする前に各地のセミナーに出張してて」
「あけましておめでとうございます。こちらこそ、父が本当に申し訳ありません」
中世的な、色気をまとっている人だ。着物から見える鎖骨のラインも綺麗だし、少し茶色い髪とサラサラの髪に、やや垂れ目がちの目。深い紫色の着物が彼の透き通る肌を印象付けている。お姉さんが豪快で大輪の花が似合うような元気な人に対し、柔らかいイメージの人だ。
「お招きありがとうございます。あのうちの祖母の野菜を持ってきたんですが」
「俺が持っていくよ。そのままキッチンに持っていく」
喬一さんが片手をあげ、すぐに車の後ろへ回る。
「ちょうど先ほど、鰻が届いたんです。寿司にしようと思ったんですがね、色々ありまして」
「そうなんですね。お姉さんは」
「家内は今、届いた鰻を配膳しております」
「じゃあ私もお手伝いを」
「いえいえ、紗矢さんたちはお客様ですので客間でお待ちください。さ、中へ」
旦那さんが中へ促してくれる。喬一さんの方へ振り返ると、ポケットに入れていた仕事用の携帯から着信が鳴り出した。
「……先に入ってて」
段ボールを車の上に置くと、距離を取って話し出した。仕事が入ったのか、喬一さんの顔が少し険しくなっている。
「案内しますね。野菜も僕が運びます」
「え、いえ、これぐらい、私が」
「いえいえ。僕だって男ですから。女性に持たせたら、家内に怒られます」
「では、ありがとうございます」
ちらりと喬一さんの方へ視線を向けると、申し訳なさそうに片手を上げていた。長引きそうなので、お言葉に甘えて、先に中へと入った。
いつもなら元旦から着物の着付けで社員が朝から忙しく働いているらしいけど、今年から着付け会場を何か所か場所を借りて、神社の近くや成人式会場の近くでしているらしい。
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