テラーノベル
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土曜日、私は芹沢慎也のデートを断り、山下公園で脇田マリとデートしていた。
港には豪華客船が乗り付けられていて、ベンチには沢山のカップル。
情緒溢れる赤レンガ倉庫に、開けた青い海に掛かる横浜ベイブリッチ。
「凄い素敵な場所」
思わず漏れた私の本音に脇田マリが笑う。
「デートスポットだからね! 突然、会いたいって電話掛けてくる相手違うから」
「ごめん。実は嘘をついちゃって⋯⋯」
私は慎也さんにデートに誘われ、咄嗟にマリと遊ぶ予定だと伝えた事を話す。
マリは盛大に溜息をついた。
「それで、本当にデートを私とする必要ある? 口裏くらい言ってくれれば合わせるのに⋯⋯」
「嘘はつきたくなくて⋯⋯」
「美香って何か⋯⋯」
マリは何かを言いかけ口をつぐむ。
「何? 言いかけたなら言って!」
「もう少し、何でその人がそんな事を言ったのか考えた方が良いかな。今、美香が教育学部の神崎君を誑かしたって噂になってるじゃない」
書き込まれたのはイニシャルでも私と同じバイトと学部ということで、神崎君は既に特定されていた。
「私、そんな事してない!」
「そんなの分かってるよ」
アパートまで送って貰った後、抱きしめられ告白された。
その告白を断ったら、私が彼を唆して弄ぼうとしたことになっている。
神崎君が私に振られた事がバレたくなくて、先手を打って噂を流したのだろう。
「人妻が大学生をを唆して遊んでいる」と言うのはネタとして面白おかしく広がった。
『真実が靴を履いてる間に嘘は世界を半周する』とはアメリカの小説家の言葉だが本当にその通りだ。
「そんなのは皆、本当は分かってるよ。神崎、痛いなって心では思ってる。でも、話題にするのには美香が神崎を弄んだ展開の方が面白いだけ。芹沢さんは美香が噂に傷ついているんじゃないかと思って、気分転換に連れ出そうとしてくれたんだと思うよ」
「芹沢さんは噂のこと何も言ってこなかったけど?」
「知ってるに決まってるじゃん。美香と芹沢家の繋がりを面白くないと思ってる奴らが絶対吹き込んでる。美香に芹沢さんが噂について言って来なかったのは傷つけない為に知らないふりしてるの!」
私は思わず口元に手を当てる。
視野が狭くなりがちな私に比べてマリは随分と周りが見えているようだ。
確かに私は一部の派手な女の子グループからはよく見られていない。
「マリのお陰で少しは垢抜けたと思ったんだけどな。もっと、皆と仲良くなりたいんだけど、気がつけば嫌われている気がする」
高校時代までは割と人気者だった自覚がある。
それなのに、いつの間にここに来て私を目の敵にしている女の子グループが存在する。
「そこ? 外野の評価なんてどうでも良くない? 皆に好かれる人なんていないんだから。問題は芹沢さんのデートを断ってしまったことでしょ。彼の事が気になってるのに、どうして逃げるの?」
「それは⋯⋯」
図星を突かれて私は目が泳いだ。ちょうど、カップルがベンチを立ったので、そこに座るようマリを促す。
脱水症状にならない為に彼女の分のスポーツドリンクも買っておいたので、トートバッグから出してペットボトルの蓋を開けて差し出した。
「ありがとう。気を遣ってくれている気持ちだけ受け取っておくわ」
下がり眉で手で制してくるマリに私は思わず首を傾げてしまった。
「熱中症になって脱水症状になったら大変だよ。頻繁に水分補給しないと」
「まだ、五分しか外歩いてないよ。テニスの試合してるんじゃないからね。それに私、脂肪の吸収を抑えるお茶を飲むようにしてるんだ。スポドリはカロリー高いし飲まない」
「カロリー?」
私は思わずスポドリのパッケージを見た。スポーツドリンクのカロリーなんて気にした事がない。体が失った必要な成分を補うのだからデブになる毒ではないはずだ。
「美香は前に痩せた時はどうやってダイエットしたの?」
「高杉家から離れたら、いつの間にか痩せた」
「⋯⋯そう、ちなみに髪の毛、艶々のサラサラだね。なんのシャンプー使ってるの?」
マリの突拍子もない質問の意図が分からず私は混乱していた。
彼女は自分の小さな黄緑色のバッグから、小さい水筒を出すとお茶を注いで飲み出す。
「ドラッグストアーで普通に売っているリンスインシャンプーかな」
「ゴホッゴホッ」」
突然、彼女が口に含んだお茶を器官に引っ掛けてしまったのかむせ出した。
私は慌てて彼女の背を撫でる。
「大丈夫?」
「⋯⋯大丈夫じゃない。リンプー使ってるんかい! まさか、髪は自然乾燥だったりしないよね」
「もちろん、自然乾燥だけど」
マリは私の言葉に大きく溜息をついた。
「あのさ、そもそも美香は芹沢慎也ファンクラブみたいな派手な女どもとは会話も成立しない。中に入っても、話せば話す程嫌われるよ」
「な、何で!?」
マリは今までの友達とは全然違って、私に対して辛口だ。
それでも彼女の毒は嫌じゃない。
明らかに私の事を思って言ってくれているのが分かるからだ。
「芹沢慎也にキャーキャー言ってる連中はね。ああいう王子様みたいなスペックの高い男と付き合いたくて、少しでも可愛くなろうとしているの。高いトリートメントとドライヤー使って必死に頑張ってるんだから」
慎也さんが王子様かと言われると、見た目やスペックは王子そのもの。
だけれども、遅れてきた反抗期と戦っていたり、過保護過ぎたり等身大の男の子に見えたりもする。
彼に惹かれているようで怖かったが、彼の為に可愛いくなりたいと思っていない時点でまだ後戻りできる気がする。
そもそも私は既婚者だし、ここまで育った環境や価値観の違う相手と上手く行くとは思えない。
「私は別に可愛くなろうとしてないや」
「私は可愛くなろうなんてした事がない! 元から美人だから、そんな必要ないってどこかで思ってるんでしょ! そういう美香の内面が透けて見えるから、女子からは嫌われやすい」
「私、嫌われてる? 確かにちゃんと友達と呼べるのはマリだけだけど」
「⋯⋯ありがとう。ちょっとキツく言い過ぎたね」
私は首を振る。むしろ私は自分を改善したいと思っていた。教師になりたいのだから、皆から慕われるようになりたい。
「どんどん言って! マリが私の事を思って言ってくれるの分かるから、マリの辛口はウェルカムだよ」
手を広げて微笑むとマリは照れたように笑った。
「あの子たちの会話は流行のコスメやバッグとか、美容医療の話が主だよ。オススメしないけど、仲良くなりたいならまず持ち物とかを褒めてみたら?」
私は早速マリの小さい黄緑バッグを褒めてみる事にした。私が大きなトートバッグを持ち歩いているのと違って、小さくコロコロした形の珍しい色のバッグをマリは持っている。
「その黄緑色のバッグ可愛いね」
「却下! これはアンバーヘイズって色! 今年の春夏の流行色だよ。黄緑って言われた時点で、青虫バッグって馬鹿にされたようで気分悪くなるわ。オシャレ女子は自分のオシャレを理解しない女に簡単に気分を害するからね」
グリーンがっかたイエローは私の知る黄緑と違って確かにあまり見ない色だ。
「オシャレって難しいんだね。私、教師になりたいから誰からも慕われるようになりたいんだけどな。お父さんみたいな立派な教師になりたいんだ」
私は卒業生からもいつまでも慕われる父を思い出していた。私も父のような立派な教師になりたいのだ。
「教師ほど、知らない間に理不尽に憎まれる仕事もないと思うけどね。美香は教師に理想を求め過ぎだし、お父さんは本当に誰からも恨まれてなかった?」
マリには父が轢き逃げされて、轢き逃げ犯が捕まっていない事を話していた。
(誰かに恨みをかってた? まさか)
必死に首を振る私の頬をマリががっつり掴む。
「ちゃんと逃げずに考えな! 今のままじゃ、美香も美香のお母さんの心も轢き逃げされたままだよ!」
マリの目は潤んでいる。彼女のいう通り、失った命は戻らないと母も私も轢き逃げ犯を探さず、ただ悲しんでばかりだった。
警察に任せていても未だ見つからない轢き逃げ犯。観光地でもない地元で父を轢いたのは顔見知りの可能性が高いと考えるだけでゾッとする。
コメント
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第17話読み終わったよ〜!😭💕 山下公園デートからのマリの辛口アドバイスがめっちゃ刺さった…!「リンスインシャンプー使ってるんかい!」で吹いた(笑)でもそれだけじゃなくて、慎也さんの気遣いとか、父の轢き逃げのことちゃんと考えろって言ってくれるマリ、最高の友達じゃん😢✨ 美香ちゃんの「ウェルカムだよ」にマリが照れるシーン、じんわりきた…この2人の関係性、尊いよ〜!!🫶💕