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地獄のホテル、703号室。赤髪の少女メリィは、深紅のベルベットのソファに深く腰掛け、ザクロの果汁を滴らせながら、古びた書物を読み耽っていた。傍らには、茶色と白の猫、ビターとキャンディが、落ち着かない様子で彼女を見つめている。窓の外には、赤黒い空が広がり、硫黄の匂いが微かに漂っていた。
「ねえ、メリィ」と、ビターが遠慮がちに声を上げた。「オレにも、何か任務をくれないか?」
メリィは顔を上げもせず、「んー?」と気の無い返事をする。彼女の視線は、本の羊皮紙に釘付けだった。「あたし、今忙しいの。この『禁断の旋律』の解読が終わるまで、邪魔しないでくれる?」
キャンディが、ビターの背中をそっと押した。「メリィ様、わたくしたちも、あなたの役に立ちたいんです。せめて、お掃除でも…」
メリィは、ザクロの種を口に放り込み、ゆっくりと咀嚼する。「掃除なら、ルシファーの使い魔にでも頼みなさいな。あなた達は、あたしの気分転換要員でしょ?」
ビターは、ムッとした表情で言葉を詰まらせた。キャンディは、困ったように首を傾げている。ビターは以前から、メリィの自分に対する扱いに不満を抱いていた。キャンディばかりが任務を任され、自分はお守り同然。その苛立ちが、つい口をついて出てしまった。
「…結局、メリィは魂を奪われた、醜い存在なんだな」
その瞬間、部屋の空気が凍り付いた。
窓ガラスが悲鳴を上げ、鋭い音を立てて砕け散る。テーブルの上のランプが倒れ、床に叩きつけられた。部屋全体が、不気味な音を立てて震え始める。キャンディは、恐怖に震え、ビターの背中に隠れた。
メリィはゆっくりと顔を上げた。その顔は、先程までの無邪気な少女の面影は無く、怒りに染まっていた。彼女の赤い瞳は、血のように赤黒く輝き、口元には鋭い牙が覗いている。額には、逆さ星の紋様が浮かび上がっていた。長い赤髪は逆立ち、ドレスは所々破れ、黒ずんでいた。
「…ビター」メリィの声は、低く、震えていた。「今の言葉、訂正してくれるかしら?」
ビターは、メリィの変貌した姿に完全に腰が引け、声も出なかった。彼は、自分がとんでもないことを言ってしまったのだと悟った。
メリィは、ゆっくりと立ち上がり、ビターに近づく。その足音は、まるで地獄の底から響いてくるようだった。「あらあら、どうしたの? さっきまでの元気はどこへ行ったのかしら? まさか、自分の言葉に責任も持てない、臆病者だったりする?」
ビターは、震える声で「ご、ごめんなさい…」と謝ろうとした。しかし、メリィはそれを遮った。
「今度、またあたしに悪口を言うようなら…」メリィは、ビターの耳元で囁いた。「…鍋にぶち込んで、ドロドロのチョコに戻してあげるわ」
ビターは、全身を震わせ、必死に言葉を紡いだ。「ち、違うんです! メリィは、綺麗で、優しくて、最高の…最高の悪魔です!」
メリィは、その言葉を聞くと、表情を和らげ、元の愛らしい少女の姿に戻った。割れた窓ガラスは元に戻り、倒れた家具も何事もなかったかのように立ち上がった。
「あら、素直になればいいじゃない」メリィは、上機嫌でソファに座り直した。「やっぱり、あたしには、あなた達みたいな可愛い使い魔が必要だわ」
ビターとキャンディは、顔を見合わせ、おずおずと部屋を出て行った。背後には、楽しげにザクロを頬張るメリィの姿があった。二匹は、しばらくの間、メリィに逆らうのはやめておこうと心に誓った。