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その時、パトカーのサイレンが聞こえて来る。
この悪夢のような出来事が終わるのだと、果歩から視線を外し、サイレンの音の方へ視線を移した。
だが、その音に反応したのは私だけではなかった。
サイレンを聞いた果歩が、何を思ったのか、足を踏み出した。
「死ね!」
自らが招いた不幸を認めらずに、すべて私のせいにする果歩に、憤りを覚える。
しかし、暗い瞳で凶器を持ったまま、向かって来る果歩を前に、私は動揺してしまい動けずに居た。
「美緒!」
「美緒さん!」
健治と三崎君の声が同時に聞こえた。
その声に弾かれるように私は、後ずさった。
目の前では、荷物が散乱し、健治が私を庇うように包丁を握り、その刃先から鮮血が滴る。
その果歩を取り押さえようと、駆け付けた三崎君が果歩の右腕を掴み、グィっと逆手を取る。
すると、果歩が顔を歪め、包丁が手から地面へ落ちた。
「イヤーッ! 離せ!」
三崎君は、渾身の力を込めて、なおも暴れる果歩を押さえ、膝をつかせた。
ようやく警察車両が到着し、車から降りた制服の警察官が駆けつけて来る。
「容疑者確保!」
ガチャと鈍い音を立て、果歩の手首に手錠がかけられた。
「やっと終わった」
私は身体の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
警察官たちに両脇を抱えられた果歩をまるで映画でも見ているような感覚で呆然と眺めていると、そんな私に向かって、果歩が目を見開き、叫んだ。
「離してよ!私は悪くない!全部あの女のせいなんだから!殺してやる!」
「大人しくしろ。これ以上騒いだら、公務執行妨害になるぞ!」
果歩は警察官に押さえられ、パトカーへ押し込まれた。
異常な興奮状態なのか、安堵からなのか、私は心音が耳元でドクドクと聞こえていた。
へたり込んだまま、呆然としていると、三崎君の声がする。
「美緒さん、タオルか、ハンカチある?」
三崎君の声にハッとして、かばんの中からハンドタオルとスカーフを取り出すと健治の手当てをしている三崎君に渡す。
「止血しますね」
と、三崎君は健治の手にグッとタオルを巻きつけた。
「そんなに深くないので、心配ないと思いますが、病院に掛かって診断書を取った方が良いです」
三崎君の言葉に安心して、泣かないって決めていたのに涙が溢れだした。
「美緒さんは、ケガしてませんか?」
「うん」と頷き、涙を拭いた。
警察官が車に野々宮果歩を乗せている様子を確認した三崎君が、応急手当てをしながら、声を落として健治に話しかけた。
「菅生さん、怪我をする覚悟で煽っていたのは、気が付いています。でも、万が一って事もあるんだから、無茶はいけません」
「健治ってば、本当に無茶なんだかから、こんなケガして…」
すると、健治が気まずそうな顔をして言い訳をする。
「|お医者様《三崎》が来ているのが見えたから多少の無茶は許されるかと……」
「俺は、内科医ですから手が動かなくなっても直せません。無茶はダメです」
応援のパトカーや救急車が到着した。
サイレンの音を聞いて、不安そうな顔をした住人や通り縋りの野次馬たちが集まり始めた。
中には、スマホを構えて撮影している人が居て、ちょっと嫌だなと思った。
視線の先では、三崎君が救急隊員と話をしている。怪我の具合を伝えてくれているのだろう。
その後、応援で駆けつけたパトカーの方へ行って、警察官とも話をしていた。
健治と私は、救急隊員の人に声をかけられ、救急車に乗り込んだ。