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⚠️あらすじを必ず読んでから閲覧してください⚠️

・【ある日のこと】のリメイクです!

・リメイク前とリメイク後でかなり物語が変わっています!ごめんなさい!




これは、ある日のこと。

優しい昼間の日光が、ティーカップの中で波立つ紅茶を照らす。小鳥は囀り、子供達は楽しそうに笑う。花は風に揺られ、柔らかい香りが鼻腔をくすぐる。そんな和やかな雰囲気とは裏腹に、彼の顔は酷く不愉快そうに歪んでいる。そんな彼の様子を知ってか知らずか、紳士は無機質な笑みを浮かべていた。

「ようこそ、フランス」

今、彼らのお茶会が始まろうとしている。

___なんでこんなことになっているんだろう

彼は思案した。


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時は約三時間前に遡る。

彼は花瓶を目の前に起き、スケッチをしていた。しかし上手く描くことができないのか、彼は唸っていた。

「う〜ん…」

___この花、描くの難しいんだよね…

彼の視線の先にあるのは項垂れた白い花、スノードロップ。数々の花を絵に残してきた彼であったが、この花だけはどうにも上手く描けない。 いや…

「描きたくない、のかな?」

ふと溢した言葉が、彼の中でストンと腑に落ちる。特別、この花が嫌いなわけではない。しかし特別好きなわけでもない。花言葉だって、確かに怖いけれどスノードロップよりも怖い花言葉を持つ花は沢山ある。ではなぜ描けない?そう、描きたくないから。彼は溜め息を一つこぼすと道具を片付け始めた。

___これ以上頑張ったって描きたくないものは描けやしないんだし。

花瓶を持ち上げた時、振動音が彼の耳に入ってくる。彼は一瞬驚いたが、急いで花瓶を置くと音源を探しだした。

「あ、あれ?ここに置いたはず…あ!あった!」

スマートフォンを探し当てた彼は電話の発信者を見て露骨に顔を顰めた。

「イギリスかよ…」

___このまま着拒しようかな?

そんな考えが頭をよぎったが、大事な話だったら面倒くさいことになると考えた彼は、仕方なく応答ボタンを押した。

「Bonjour Monsieur Angleterre、御用は何かな?僕は忙しくてね、手短に頼むよ」

彼は嫌味をたっぷり込めた声で早口に言った。しかし紳士は特に気にすることなく話し始めた。

「ああ、ティーパーティに誘おうとしたまでですよ。今日は良い天気ですからテラスで準備をしていたのですけれど、さっき誰も誘えていないことに気づきましてね」

「それで僕を?」

「ええ、そういうことです」

「あっそ。でも最初に言った通り、僕忙しいから。切るよ」

「おや?残念です。せっかく良い紅茶を仕入れたと言うのに」

その言葉を聞き、電話を切るボタンに伸ばしていた指を止める。いつも紳士のことを『紅茶大好き不審者オジさん』だの『何かあったら紅茶をキメる紅茶中毒者』だのと罵っている彼だが、実は彼もまた紅茶を愛している一人だった。

___いや、でもなぁ…

紳士の中の文明はヴィクトリア朝で止まっているのか、紳士はスマートフォンという文明の利器をあまり使いこなせていない。そのため、紳士がこの利器を使用して連絡してくるということはまずないのだ。何を言いたいか?簡単な答えだ。

___絶対なんか企んでんなコイツ。

彼は訝しげに目を細めると、先程まで閉じていた口を開いた。

「…ただ世間話するため、なんてわけないよね?」

「…」

紳士は何を考えているのか、黙ってしまった。彼はいつも飄々としている紳士の痛いところを突いたのだ。そのことに、彼は密かに優越感を覚えた。紳士を言い負かすことは彼にとって、 まるでこの世で紳士と対等に立てるのは自分だけなような気がして気分がいいのだ。

___我ながら、無様な思い違いだ。

そんなことを考えているうちに、紳士は一つ溜め息を溢した。

「…ただの相談ですよ。他の人ではなく、あなたに相談したいことがあるのです」

そんな甘い言葉に、優越感を刺激する言葉に、騙される彼ではなかった。彼は先程までの会話を思い出す。そこで、紳士が茶会の準備をしていたが相手を呼び忘れたことに気づいたと言っていたことを思い出した。 彼は考えた。

___抜かりないコイツが誰かを呼び忘れるなんてヘマするか?

答えは、もちろん否だ。

___それに、本当に相談するのなら僕じゃなくて、きっと…

彼は気持ちを切り替えるために頭をブンブンと横に振ると本日何回目かの溜め息を溢した。

「残念ながら、僕は忙しいんだ。他を当たってよね」

しかし、滅多に騙されることがない彼にも一つの欠点があった。それは…

「そうですか、残念です。来てくださったら先程言った良い紅茶を1ダースプレゼントする気だったのですがね…」

「よぉしブリカス、首洗って待っとけよ」

少々甘い言葉に弱いということである。


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「改めまして、ようこそ、愛と降伏の国フランス。歓迎いたしますよ」

腹の底が見えない笑顔を貼り付けた紳士を見て彼は内心、頭を抱えた。

___コイツ、何が目的だ?

彼の頭は不信感で満ちていたが、取り敢えず皮肉に乗っかった。

「降伏じゃなくて美だよ、ブリカス」

「ああごめんなさい、傷つかせてしまいましたね。誰でも、事実を言われると傷つきますよね。心得ました」

「ははっ……言うね?」

紳士は彼にニコリと無機質に笑いかけると、紅茶を一口、口に含んだ。それを見て彼も一口。瞬間、口に広がる優しい味に彼は思わず頬を緩ませた。

___よしっ。

「……で?相談ってなにさ?」

紳士は目を細めた。彼は長年の経験からか、紳士の言わんとしていることがわかった。

___コイツ、僕の痛いところを突く気だ。

この紳士は何も気にしていないようでいて結構過去のことを引きずっているのを、彼はよく知っていた。そして、過去のことを引き合いに出され傷つけられることも、彼は知っている。

___来たのは間違いだったのかな?

「…私、ずっと聞きたかったことがあるのです」

「…」

「私は、所謂“異常者”ですよね?」

瞬間、彼は辺りが静まり返ったかのように感じた。笑い声も囀りも、何一つとして彼の耳に入ってこなかった。

___なんて返せばいいんだ…?

「…」

何も答えない彼を見て、紳士は笑みを深めた。まるで、彼がこの表情を見せることを予測していたかのような笑みであった。

「そこで私、貴方に聞きたいことがあるのです」

紳士はまた紅茶を一口飲んだ。紳士の普段閉じている目は薄く開かれ、彼をジッと見ていた。だが、彼は紳士を見ることができなかった。見てしまえば、きっと紳士の思う壺だと考えたのだろう。彼の視線は、ティーカップの中にあった。水面に、自らの顔が映る。

___酷い顔。

「貴方から見て、私は何に見えるのですか?」

「え?」

彼の口を衝いて出た言葉に、紳士は右眉を上げた。…この反応は予測していなかったのだろう。紳士は顎に手を当て考える仕草をした後、彼に向かって言った。

「だって貴方、私のことを一度も“異常者”と呼んでいないでしょう?私はそれが不思議で不思議でたまらないのですよ。貴方の目に、私は“健常者”として映っているのですか?」

彼は思わず目を開いて紳士を見つめた。彼にとって紳士の発言は、予想していたものと違っていたのだ。

___そうか。

紳士のことだ。きっと不思議で不思議でたまらない、なんてことはあり得ない。けれど紳士にとっては、かさぶたのように気になることなのだろう。

「…僕は、君のことを」

彼はこれまでの紳士の行動、言動を思い返す。それらは、決して褒められたモノではなかった。まさしく、糾弾されるべきもの。平気な顔で嘘をつき、奪い、傷つけ、殺す。命がどれほど重いものかさえ、紳士は知らない。支配こそが真実の愛とでも思っているのかもしれない。

___でも、その歪んだ思想を生み出してしまった一端は、僕も担っているのだ。

「……ただのバカだと思ってるよ」

紳士は目を見開いた。紳士にとってあまりに予想外な答えだったのだ。その紳士の様子を見て、彼は悪戯げに笑った。勝ったとでも言わんばかりの笑みだった。その笑みを見て、紳士もまた、降参だと言わんばかりに両手を上げた。

「全く、貴方ってそういうところありますよね」

「まあね」

彼は酷く弾んだ声で答えた。

___やっぱ僕って凄いよなあ

あながち、その考えは間違いではないのである。彼のような性格でなければ、紳士とは付き合えない。他の者ならついていけず、大抵は紳士の地雷を踏み抜き、首をスパンと切られるのだ。そんな中、適切な距離感を弁えて紳士に接する彼は、紳士にとって悪くはない相手だった。それでも、彼は紳士の1番になれないのだから、世界は広い。

紳士は先程とは打って変わって、どこか悲しげな表情をしながら紅茶を飲む彼を観察していた。紳士にとって彼は悪くはない相手であることに変わりはないが、因縁深い相手でもあることは確かなのだ。それ故に、紳士が自分に向ける感情はあまり良いものではないだろうと、彼は考える。

そんな彼を見て紳士は思い出したかのように言った。

「そうでした、そうでした。私、貴方に聞きたいことがあったのです」

「…は?」

「いやはや、本題とかなりズレたことを話してしまっていました」

「え、は?」

「ほら、貴方にしか相談できないと言ったでしょう?」

彼は困惑していた。紳士が何を言わんとしているかが、全くわからないからだ。

___また触れづらいことを聞くのか?

彼は思わず身構えた。しかし彼の耳に入ってきた言葉は、あまりに予想外なものだった

「私、フランスパンの作り方を教えて欲しいんですよ」

彼は自分の耳を疑った。予想外すぎて頭で処理しきれないのだ。

「…ごめん、もう一回言ってもらっていい?」

「はあ、ですからフランスパンの作り方を…」

___聞き間違いじゃなかった!

彼は机に頭を伏せた。そして、本日何回目かもわからない溜め息を溢した。

___そうだよなぁ、コイツだしなぁ…

こういったことは多々あるのだ。その度に、彼は紳士がなんなのか分からなくなっていく。残酷非道の性格なのか、抜けていて何も考えず生きている自由人なのか。それとも慈悲深く正義感の強い性格なのか。二面性と言うにはあまりにも強すぎる性格なのだ。

___でも…あの子なら全部コイツだって言って受け入れるんだろうなあ…

彼は“あの子”を羨んでなどしていないし、“あの子”を出し抜いて幸せに…なんてことも考えていない。どちらかと言うと溺愛している方なのだが、紳士のことについてはどうにも負けたくないのだ。

___そんなこと考える時点でもう既に負けてるようなものだけどね。

それでも、まだ、認めたくはない。

「仕方ないね、教えたげるよ」

彼は悲しげに笑った。

「おや?本当ですか?嬉しいです。あとでスノードロップを差し上げますね」

「お前僕に死ねって言ってんの?」

「ふふ冗談ですよ。紅茶を1ダースから2ダースに変えて差し上げます」

「僕に任せとけよ、イギリス」




ある日のこと。

優しい昼間の日光が、ティーカップの中で波立つ紅茶を照らす。小鳥は囀り、子供達は楽しそうに笑う。花は風に揺られ、柔らかい香りが鼻腔をくすぐる。そんな和やかな雰囲気とは裏腹に、紳士の心は冷たく無機質なままだった。

シリアスなcountryhumans

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