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•第二次世界大戦のパリ陥落についてのお話です。
•旧国が出てきます。
今でこそ何かとネタにされる(スンスンおじさんなど)パリ陥落ですが、当時は世界中を絶望させた出来事だったでしょうね。
ああ、終わった。
エッフェル塔の前で写真を撮る彼を見て、思わずそう思ってしまった。花の都に、世界で一番美しいこのパリの中に、汚く穢らわしい者共がいる。負けたのか、僕は。フランスは。あちらこちらから歌が聞こえてくる。……ドイツ語の歌が、聞こえてくる。美しいフランス語の歌はその喧しい歌に打ち消されて。唯一聞こえるフランス語は、嘆きの言葉で。
「祖国さま」
後ろからそう声をかけられ、頭が真っ白になった。その声の主は、僕が面倒を見てきた女の子だった。
「パリはどうなったの」
振り返ることができなかった。
「ねえ、フランスはどうなるの」
答えることができなかった。
「……負けたの、フランスは」
握りしめた拳がブルブルと震える。
「…そう、だね」
ゆっくりと振り返るとそこには、顔を歪ませたた女の子がいた。……ああ、そうだよね。
「祖国……パリが、汚れちゃうよ」
何もできない無力な自分を殴りたいと、心の底からそう思った。
フランスは大国だった。
だから予想外だった。
こんなことになるなんて思いもしなかった。
きっとみんなそう言う。
そして、そのあとこう言うのだろう。
「花が、枯れてしまった」
…
ああ、ようやく始まった。
エッフェル塔の前で写真を撮るあの方を見て、思わずそう思った。花の都に、世界で一番美しいこのパリの中に、ドイツ人という高潔なる血族がいる。勝ったのだ、私は。ナチス・ドイツは。……忌々しく中身の無いフランス語の歌は、崇高なる我らの言葉の歌で消えてゆく。それが我らの勝利を示しているようで、とても気分がいい。そして唯一この地に響くフランス語は嘆きの言葉。ああ、なんと素晴らしい。
「祖国殿」
後ろからそう声をかけられ、振り返る。そこにいたのは知りもしない親衛隊の者だった。
「どうした」
「いや、ようやくパリが陥落しましたね」
もう一度エッフェル塔を見遣る。すると今度は言いようのない不快感が、私を襲った。
『見てよ、あれ』
誰かが私に言う。
誰かの指差す方を見遣ると、そこにはまだ完成していないエッフェル塔があった。
『完成したら、きっと世界で一番美しい塔になるんだろうなあ』
表情は分からないが、確かに彼は目を輝かせていた。
『花が咲き誇っているようだよ』
「祖国?」
ああ、そうだな。
ニヤリと笑うと、顔が引き攣ったように痛む。
「花が、枯れてしまった」