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「長谷川(はせがわ)さん」
その、高くて大きい声に、体がびくっと硬直した。
この声な絶対に日向(ひなた)さんだ。いつもクラスの中心で楽しそうに笑っている日向さんの、怒った顔を想像しながら、私は恐る恐る振り返った。
何かしてしまったのだろうか。日向さんが地味な私に話しかける理由なんて、きっとそのくらいだ。
しかし、私の目線の少し下にあったその顔は、怒るどころか、微笑みすら浮かべ、私は真っ直ぐに見据えていた。
「今日私自転車ないんだー。一緒に帰ろうよ。」
間延びした、時折高く跳ねる、あっけらかんとした喋り方。
「えっ…一緒帰るって、私、と?」
「そうだよ、帰り道おんなじだよね、だから」
帰り道おんなじだよね、だから。
気まずい沈黙が流れる。
「…どうしたの?」
不思議そうな顔で、日向さんがこっちを見ていた。
「あっ…!ごめん、もちろん、いいよ、うん、か、帰ろう」
慌ててどもりながら答える。
日向さんの顔がぱっと明るくなった。
並んで歩きながら、私はさっきの言葉を思い出していた。
帰り道おんなじだよね、だから。
日向さんは、覚えてくれていたのだ。私と帰り道が同じだということを。
私は中学2年生の春、初めて日向と会話をした。
あの時、胸に燻った感情を、まだ恋だとは知らなかった。