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あのフラれた誕生日から数週間が経った。
4月になり、すっかり春らしい気候の日が多くなった。
季節は変われど、私は今も蒼太くんと都合が合えば飲みに行く飲み友達を継続している。
この前まではドキドキで苦しかったのに、今は胸の痛みで苦しい。
でも彼が好きだから、気まづくなりたくないから、私は飲み友達として今も仲良くしているのだった。
一方で、蒼太くんと再会する出来事にもなったコラボの件はようやく終了を迎えた。
先日、当社とモンエクがコラボするというニュースを対外発表し、コラボが開始されたのだ。
ゲーム好きな人を中心に、このコラボについてはSNSでも話題となり、一時期はトレンド入りもしていた。
ゲーム雑誌からの取材依頼も入ったりで、広報としては話題化に成功した形だ。
話題になったことで、モンエクの利用ユーザー数も増えており、うちの会社の商品の売上も伸びているそうだ。
こうやって自分の仕事が売上に繋がるとやりがいを感じる。
今回のコラボは大成功と言えるだろう。
コラボ開始により、今まで定期的に実施していた打合せなども終了だ。
つまり蒼太くんと仕事で関わることはなくなったのだった。
私はこのコラボの件の事後対応として、本件を役員に報告するために資料を作成中だ。
コラボ概要、実施内容、広報戦略、効果などをまとめているのだ。
パソコンに向かって資料作りに格闘していると、私の思考を遮るように内線が鳴った。
「はい、広報部の高岸です」
「お疲れ様です、営業の三島です。高岸さん、今少し大丈夫?」
「大丈夫ですよ!どうしました?」
相手はコラボの件で一緒に打合せに出席していた三島さんだった。
コラボの打合せが終わってからは三島さんとも関わる機会が少なくなったので久しぶりだ。
「あのさ、コラボの成功を祝して、今度Actionの方々とうちとで打ち上げをしようって話になっててさ。高岸さんと並木さんにも出席して欲しくて。今度の金曜日の夜になりそうなんだけど都合どう?」
一瞬、蒼太くんの顔が頭をよぎる。
でも仕事みたいなものだし、私が断る理由はないだろうと思い、私は快諾する。
「私は大丈夫ですよ!百合さんも今近くにいるんで聞いてみますね。ちょっと待っててください」
保留にすると、百合さんに話しかける。
三島さんからの話を伝えると、百合さんも大丈夫とのことだったので、保留を解除して三島さんに伝える。
「良かった!じゃあ時間と場所が決まったら、メールで連絡するからよろしくね」
「分かりました!よろしくお願いします!」
そして4月中旬の金曜日。
うちの会社近くの居酒屋の個室で、いつも打合せに出席しているメンバー7名でのコラボ成功を祝した打ち上げが開催された。
長いテーブル席に、4人と3人が向かい合う形の並びだ。
私と蒼太くんはそれぞれ端っこの席で、一番遠い席次だった。
飲み始めると、距離の関係から自然と4人と3人に分かれて会話をする感じになり、私の方は蒼太くんの先輩である植木さんとうちの会社の三島さんと私というメンバーだった。
「いや~今回のコラボ成功して良かったですよ!うちの商品の売上も伸びていて本当にActionさんのおかげです」
三島さんが営業らしくにこやかに植木さんに話しかける。
植木さんもそれに笑顔で答える。
「こちらこそコラボきっかけでモンエクを知って、ゲームを始めてくれる人も多くて良かったですよ。特に御社の知名度のおかげで、うちが弱い年配の層にもリーチできたのは大きいです。高岸さん、広報も話題化ありがとうございました」
「とんでもないです!コラボ自体が面白かったから話題になったわけですし!」
そんな打ち上げらしい会話で初めは盛り上がっていたのだが、お酒が入るとだんだんと話題もプライベートなことになってくる。
植木さんはどうやら人の恋路を聞くのが好きみたいで、やたら恋愛トークを繰り広げる。
三島さんもその手の話が好きらしく、植木さんと意気投合していた。
「それにしても、こうやって並んでるのを眺めると、あの並木姉弟は目立ちますね~。そちらの弟の並木さんも会社でモテるんじゃないですか?」
三島さんが別グループで話している2人に視線を向けながら、「気になっていました!」と言わんばかりに植木さんに問いかけた。
「そちらもということは、そちらの姉の並木さんもモテるということですか?」
「そりゃそうですよ!まぁ彼女は結婚しちゃいましたからね~。しかもうちの常務とですから。狙ってた男どもが撃沈したのは言うまでもありません」
「はははは。それはその光景が容易に目に浮かびますよ。こちらの並木もそりゃあの外見ですからモテるんですよ。実はこの前もですね‥‥」
「この前も何か?」
三島さんはワクワクした顔をして身を乗り出す。
植木さんは三島さんが良い反応をしてくれるのが楽しいのか、嬉々として話し出す。
私はそんな2人に囲まれて、若干置物のようになっていた。
「ええ、並木のやつ、うちの会社の若手で一番可愛いって人気の子に告白されたんですよ。その子を狙ってた男どもが撃沈ですよ、こっちも」
(蒼太くんが女の子に告白された‥‥!?しかも可愛いと人気の子だなんて‥‥!)
植木さんの話に私は人知れず衝撃を受ける。
もしかして彼女ができたのではと思うと、心臓が嫌な音を立てて鳴り出す。
蒼太くんはモテるから、女の子に告白されるなんて当たり前のことだ。
だけど、いざその事実を人づてに聞くと、どうしようもなく私の心は騒ぎ出した。
「で、彼はオッケーしたんですか?いいなぁ、可愛い彼女~」
「いやそれが結局どうしたのかは僕も知らないんですよ。2人のその後の様子からすると、たぶん付き合ってはないんでしょうけど」
「振っちゃったのか~。さすがイケメン!高岸さんもそう思うでしょ?」
急に話を振られて私は驚く。
動揺していて植木さんと三島さんの会話はあまり耳に入ってなかったのだ。
「え、あ、そうですね!はははっ!」
私は誤魔化すように急いで笑顔を作った。
そんな私の様子に気を留めることもなく、2人はまた違う人の恋愛について話し始める。
私はというと、さっきの植木さんの言葉を頭の中でリピートしていた。
(つまり、絶対という確証はないけど、告白は断ったっぽいってことだよね‥‥?彼女ができたわけではないってことなのかな‥‥)
一安心して良いのかどうなのか分からない。
というか、すでにフラれた私が蒼太くんに彼女ができようとも、告白されようとも、どうこう思う権利なんてない。
「私だけはない」と言われている身なのだ。
たとえ蒼太くんに今回彼女ができてなかったとしても、私には可能性すらないわけで、今後もこうやって蒼太くんが告白されるたびにただただ動揺することになるのだ。
動揺することくらいしかできないのだ。
そう思うと、胸が押し潰されたように苦しくなる。
(これが恋の苦しみってやつ‥‥?恋ってドキドキして自分が自分じゃなくなるみたいでしんどいし、こんなに苦しいし、いいことなんてない。こんなことなら、恋なんてずっと知らないままで良かったのに‥‥)
26年間知らずにいた感情に蓋をしてしまいたかった。
打ち上げでみんなが盛り上がる中、私は笑顔を保ちながらも心の中で涙を流していたーー。