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カーテンから差し込む光が顔を撫でる。鳥の囀りと共に、自然と目を覚ましたジャヌスは上半身をゆっくりと起こし、大きく背伸びをした。
顔を洗うため、井戸のある外へ向かう。
玄関のドアを開けると、素振りをしていたフィニスが、ジャヌスの存在に気がついた。
「先生、おはよう」
錘のついた鉄の棒を振りながらフィニスはジャヌスの方に視線を送った。
「おはよう。今日は珍しく早いですね」
昨日の野盗の件を思い出すフィニス。
あの時、ニティアが動く前に、自分が野盗を撃退できていれば……
そんなことを考えていたら、いてもたってもいられず……なんてことを言えるはずもない。
「いや、なんか身体を動かしたくて」
そう誤魔化すフィニス。
顔を洗い終えたジャヌスは、そんなフィニスの顔を見てふっと笑った。
「それでは、朝ごはん食べましょうか」
その言葉を受け、持っていた棒を地面に置くフィニス。
2人が家の中に入ると、テーブルの上にはすでに朝ごはんが……できていなかった。
目が点になるフィニス。
「……」
「今日の当番は確か……」
「……ニティアだ」
大きなため息をつくフィニス。
寝坊なんて滅多にしないニティアに対して苦笑いをしたジャヌス。2人はそのまま、ニティアの部屋へ向かっていった。
⸻
コンコン
「おーい」
ニティアの部屋のドアをノックしながら声をかけるフィニス。
「きゃっ!」
ボン!
ニティアの小さな悲鳴と同時に、何かが爆発するような音。
「おい!大丈夫か!?」
その音にびっくりしたフィニスは慌ててドアを開け、その後ろからジャヌスが部屋を覗き込んだ。
ドアを開けた瞬間に漂う煙の匂い……
「ケホッケホッ……ちょっと!急にびっくりさせないでよ!」
「いや、びっくりしたのはこっちだって」
顔の前をパタパタと手で仰ぎながら、ドアの前に立つフィニスを睨みつけるニティア。
「術式の構築を間違えちゃったじゃ……」
フィニスの後ろから部屋を覗き込んでいるジャヌスに気づき、ふと辺りを見渡すニティア。
すでに日が昇っており、今日の朝食当番が自分であったことを思い出す。
「ってもうこんな時間!?ジャヌスさんすみません!すぐに朝食の準備をしますね!」
慌ててストールを羽織り、部屋から出ようとするニティアを、ジャヌスが止めた。
「ニティア、今度はどんな魔法を?」
「……気持ち悪がられない、拘束魔法……です」
「………」
昨日のことを思い出し、ニティアの答えに黙り込むフィニス。その2人を見たジャヌスは小さなため息をしながら苦笑いをした。
「……今日は私が作りますから、ゆっくり準備をしてから来てください」
ジャヌスが部屋を後にすると、フィニスが口を開いた。
「昨日。寝なかったのか?」
ピクッと眉が動くニティア。
「あんただって、早朝から素振りしてたでしょ」
「……気づいてたのか?」
ニティアのその発言に驚くフィニス。
「あれだけブンブン音がしてれば誰だって気づくわよ」
そう言いながらフィニスの両肩を持ち、くるっと身体を回転させる。そして、そのままフィニスの背中を軽く小突いた。
「ほら、着替えるから。先行ってて」
小突かれたフィニスは、小さく笑いながら片手を上げ、その場を後にした。
⸻
テーブルの上に並べられた燻製肉の乗ったトーストと紅茶。
「いただきます」と言う声と共に、トーストを齧るニティアとフィニス。ジャヌスは紅茶を一口すすった後、ゆっくりと口を開いた。
「フィニス。”力”は何のためにあると思いますか?」
トーストを持つ手を止めるフィニス。一瞬考えた後、ジャヌスに視線を向けた。
「守るため?」
フィニスは一瞬だけニティアを見た後、すぐに視線を戻した。その行動を見たジャヌスは一瞬笑みを浮かべ、ニティアの方に視線を移した。
「ふむ……ニティアは?」
持っていたトーストを皿の上に置き、俯きながら、ニティアも答えた。
「傷つけないため……」
2人を交互に見るジャヌス。紅茶をもう一度口に含んだ後、フィニスの方に身体を向けた。
「フィニス。あなたは強いですよ。おそらく、王国の騎士であっても、貴方に勝てる人はそうはいないでしょう。それに単純な腕力だけではなく、あなたは心にも”強さ”を持っています」
次に、ニティアの方に顔を向ける。
「そしてニティア。あなたの”力”は素晴らしいものです。あなたの力を怖がる人もいるかもしれませんが、助けられる人の方が大勢いるはず。そして、そんなあなたのことを見ている人も……」
フィニスの方をチラッと見るニティア。その瞬間を見逃さなかったジャヌス。首元につけているネックレスを見て、クスッと笑った。
「とりあえず、ニティア」
「はい」
「新しい術式を感覚で組み上げようとするのはやめてくださいね。じゃないと、今度は大切なものまで燃やしてしまうかもしれませんよ(笑)」
そう言ってジャヌスは自分の首元をトントンと指差す。一瞬何のことか分からなかったが、自分の首元を見てみると……ぶら下がっているネックレス。
顔を真っ赤にし、急いでネックレスを服の下に隠した。
急に機敏な動きをしたニティアに、フィニスは首を傾げる。
「ん?どうした?」
「な、何でもないわよ!」
「何で怒るんだよ!」
「うるさい!」
そのやりとりを見て優しく笑うジャヌス。
「大丈夫そうですね」
小さく呟き、トーストを食べ始めるジャヌスであった。
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緑山 紫苑