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リクエスト本当にありがとうございます。
書くの楽しすぎて長くなってしまい
前半と後半みたいに分けましたので
お手数かかりますが次の話も
読んでいただけると幸いです。
⚠注意⚠
暴力表現あり
自傷表情あり
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
廃れた体育倉庫。
薄暗い蛍光灯の下で、
床に押し倒されるみこと。
息を荒げて抵抗しようとするが、
いるまが片腕をねじ上げ、なつが膝で腹を
押さえつける。
「離せっ…! やめて…ッ!」
必死に叫んでも、乾いた音が響くたびに
声は途切れていく。
バキッ、と鈍い音。
なつの拳がみことの頬をとらえ、
視界が一瞬白く弾けた。
「弱いくせに、俺らに逆らうからだ」
いるまが冷たく吐き捨て、もう片方の拳を
握りしめる。
みことの肩に重い衝撃。息が詰まり、
咳と血が混じる。
「……ッ、ぐ、ぅ…ッ!ハ」
逃げ場のない倉庫の隅で、ただ殴られるたびにみことの身体が揺れる。
なつの靴が腹を蹴り上げるたびに、
痙攣するように体が跳ねた。
「もう喋んな…。声が耳障りなんだよ」
床に押し倒されたみことの身体に、
乾いた音を響かせながらなつの靴が何度も
叩きつけられる。
「いいよなぁお前はッ……!」
「幸せな家庭に生まれて……何の苦労も
知らずにのうのうと生きててッ!!」
怒鳴り声とともに、蹴りが腹や脇腹、
胸に乱暴に突き刺さる。
「やめ…ッ、やめてぇ…!ッッ”」ポロポロ
と弱々しくみことが懇願しても、
なつの動きは止まらない。
憎悪と涙の混じった声で、なつはさらに力
任せに蹴り上げる。
「ッ…っ、全部持ってるお前が
ムカつくんだよ…死ねよお前ッ!!」
その足がみことの顔にまで振り下ろされる
寸前、鈍い衝撃音に混じって、
みことの悲鳴が倉庫に反響した。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「っちょ…なつ、流石に今日こさめいない
からって、そいつに感情ぶつけすぎだろ」
いるまが額に皺を寄せて、
荒い呼吸をしているなつの腕を掴む。
「流石にそんな蹴ったら……しぬって」
なつの肩がびくりと震えた。
「…、、あぁッ…そうだなッ…、」
と呟いた声は震えていて、血で汚れた
顔を手の甲で乱暴に拭う。
けれど足元に横たわるみことの姿を
見下ろすと、胸の奥に渦巻いていた黒い感情がまだ燻っていた。
握りしめた拳が震え、止めたはずの足が
また前に出そうになる。
「なつ……もうやめとけ」
いるまが低く言うが、その目には苛立ちと
同時に「共感」が混ざっているようにも
見えた。
「なつ──足りたいなら精神から
壊せばいいだろ?」
その言葉が落ちた瞬間、なつの瞳がきらりと濁って笑みを浮かべる。
「…お前の好きならんくんは今日は助けに
来ないね〜?」
わざとらしい声で耳元に囁くと、みこの顔がさっと青ざめる。
「ッ、、、…らん…、らんはッハァハァ…生徒会長の仕事あるからッ…今日はしょうがない。、」
みことの唇が震え、ガタガタと膝を揺らしながら必死に絞り出す。
「あ、そっかぁ〜。正義のヒーロー
気取りさんは生徒会長だったか。
そっかそっか……チッ、ムカつくわ」
なつが吐き捨てるように言い、下から睨み
上げるみことを足で軽く押しやる。
「ッ…らんらんは、、ッ”ヒーロー気取りなんかじゃないッ!!」
怒鳴る声は泣き声に混じり、
喉が擦り切れそうだった。
「え?立つの?
──まだ殴られたりなかった?」
挑発するように片眉を上げるなつ。
「らんらんのこと言うからッ!!」
掠れた声でみことが叫び、よろよろと
立ち上がる。
「……お前、きも」
なつの笑顔は歪んでいた。
「今立ってる理由が“らん”ってことが
気持ち悪いわ」
その一言がみこの胸に深く突き刺さる。
「ッ…、」
みことの表情がぐしゃりと歪み、
唇が震える。反論しようと口を開いた、
その瞬間──
パチンッ。
なつの拳が頬を打ち抜いた。
「……ッぎ…!」と声にならない呻きが
漏れ、みことの体は横に倒れ込む。
「立ち上がるなって言ってんの
分かんねーの?」
なつの瞳は氷のように冷たい。
「らんらんらんらん……ガキみたいに名前
繰り返して、ほんとに頭ん中
それだけなんだろ。浅いんだよ」
ドスッ。ドスッ。
転がった体を靴で何度も蹴り上げられ、
みことの息は乱れ、
声も出せなくなっていく。
「ッ……あ…」
目に涙が滲んでも、手を伸ばす先は
何もない。
──助けて。らんらん。心の中で何度も
叫んでも、その姿はどこにも現れない。
ガタガタと震える両腕で頭を抱え、
みことは丸く小さくうずくまった。
「ッ……も……う……やだ……」
声はかすれて、空気に消えていく。
抵抗する意思はもうない。
立ち上がる理由も、言葉を返す力も、すべて叩き壊されて。
──完全に、折れた。
丸まったみこの声は蚊の鳴くように
小さく、殴り返す力もない。
なつはその姿を見下ろし、口の端を歪めた。
「……あれ?」
拳を振り上げても、何も返ってこない。
蹴りを入れても、呻きすら弱々しい。
「……なんだよこれ。……つまんねぇ」
床に崩れ落ち、震えながら涙を流すみこ。
その姿を見ても、胸の奥がスッと冷めていく感覚しかなかった。
「反論もしねぇで、ただ泣いて、
丸まって……。お前、それでいいの?」
吐き捨てる声に苛立ちが混ざる。
殴りたくて、罵りたくて、壊したくて。
『なんにもできない無能がよ』
でも、もう目の前の“獲物”は完全に
折れてしまった。
「……クソ……つまんね……」
なつは後ろ髪を掻きむしるように乱暴に
頭をかき、
床に蹲るみこを見下ろしたまま、
虚しさだけを噛み締めていた。
床に倒れ込み、動かないみこをしばらく
見下ろしていたなつ。
その沈黙を破るように、いるまがポケットに手を突っ込みながらぼそりと言った。
「……なつ、おれも飽きたし。クレープでも食いに行こうぜ」
その瞬間。
なつの目に、さっきまでの虚無が嘘のようにぱっとハイライトが差し込んだ。
「ッ!いく!!」
まるで無邪気な子供のように笑みを浮かべ、立ち上がる。
さっきまで人を蹴りつけ、叩きつけていた姿とは別人のように。
「いくいくっ!ミルクのやつ食べよーぜ!」
「はいはい……」と肩をすくめるいるま。
蹲ったままの、血と涙でぐちゃぐちゃに
なったみこを一瞥もしない。
まるで最初からそこに存在しなかったかの
ように。
軽い足取りで、ふたりはその場を去って
いった。
残されたのは、壊れたみこと、冷えた空気、そして床に落ちた涙の跡だけだった。
みことは、床に手をついて
立ち上がろうとした。
だが――。
「ッ……!」
全身を走る痛みに、思わず腕が折れた
みたいに崩れ落ちる。
肺の奥からこみあげてくる咳。
「ゲホッ…ッ、ぐ……」
喉の奥に酸っぱいものが込み上げ、
吐き気が襲う。
口元を押さえる間もなく、胃の中のものを
少し吐き出してしまう。
床に散ったその痕跡を見て、さらに胸の奥が締め付けられた。
「ゲボッッゲボッオェェ…ハァハァ」
苦しい。痛い。だけど、それ以上に――。
『なんにもできない無能』。
その言葉が何よりも、心をえぐっていた。
助けてくれるはずの“らん”すら、
今ここにはいない。
なつも、いるまも。あれほど自分を叩きつけたくせに、楽しそうに去っていった。
自分の苦しみなんて、どうでもいいとでも
言うように。
喉が震えるのに声は出ない。
泣こうとしても涙はもう出なくて、ただただ無言で床にうずくまり、
耐えるしかなかった。