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駅の高架下を抜け、人気のない階段をゆっくり上った。
静かすぎる街が、スンホには優しく見えた。
誰も見ていないこの場所だけが、自分を責めない場所に思えた。
2億ウォン。
詐欺に遭った金額は、頭の中で数字のまま空回りしていた。
どれだけ働いても減らない。
信じた人に裏切られ、逃げて、隠れて、また騙されて――
何のためにここまで来たんだろう。
風が頬を撫でる。
冷たいというより、痛みも温度ももう感じない気がした。
鉄の手すりを掴む指先が震える。
踏み越えるのは簡単だった。
「……これで、いいや」
誰に言うでもない言葉が漏れた。
過去の自分が頭の中で問いかけてくる。
(それで終わりにしていいのか?)
何度も何度も、もう一人の自分が必死に問いかける。
でも――答えられない。
答える力すら、どこかに落としてきてしまった。
(ごめん……)
母親の顔が、遠くに霞む。
あの人に恨まれても構わない。
許されなくてもいい。
せめてもう、これ以上誰も傷つけないで済むのなら。
踏み出した足が、鉄の手すりを越える。
風の音が強くなった気がした。
誰も来ない。
何も聞こえない。
スンホは、最後の一歩を踏み込んだ。
空が逆さまになっていく中で、スンホは声にならない言葉を口にした。
「……ごめん」
そして、世界は闇と光の狭間で途切れた。
【bad end】