コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
リハ後の自由時間。メンバーは思い思いにくつろいでいた。
太智は端っこのソファに座っていた。スマホを握りしめながらも、目は画面に映るSNSじゃなく、ずっと遠くのほう――というより、仁人と舜太の方向ばかり見ていた。
 (舜ちゃん、あんなにくっついて……ていうか、仁人も、なんであんな顔すんの?)
 ぴとっと腕を組んで、何かを一緒に見ているふたり。ときどき舜太が笑って、そのたびに仁人が顔を緩ませてうなずいていた。
 (あの顔、俺にも見せたことあるけど……最近、見せてくれてたっけ)
 胸の中で、ぐるぐると黒い感情が渦巻く。
気づけば太智は、ぐっと立ち上がってふたりの元に向かっていた。
 「仁人、ちょっとえい?」
 「え? あ、うん」
 いきなり間に割って入られた舜太がきょとんとする中、太智は仁人の手首を取って楽屋の隅のドアを開け、誰もいない小さな控室に連れ込んだ。
 「……だい、ち?」
 パタン、とドアが閉まると、太智は仁人から少し距離を取って、そっぽを向いたまま口を開いた。
 「じんちゃん……最近、俺のことあんまり見てくれへん気がする」
 「……え?」
 「勇斗と動画見てただけで、ちょっと目つきキツくなってたのに、舜ちゃんにはあんな優しい顔してさ……」
 仁人はしばらく無言だった。
 だけど、ゆっくりと歩み寄ってきて、太智の手を取ると、そっと自分の胸元に引き寄せた。
 「ちょっとずつ太智が不機嫌になっていく顔もちゃんと気づいてたし、最近だって見てたよ」
 「……ほんなら、なんで……」
 「太智が、俺のことをそんなふうに好きでいてくれるの、なんか照れくさくて。嬉しいけど……ちょっとした意地悪?笑」
 仁人は、太智の髪をそっと撫でながら、少し苦笑いして言った。
 「ごめん、太智。…許してくれる?」
 「…………」
 太智はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げると、ほんの少しだけ口の端を上げて、かすかに笑った。
 「……じんとのばかっ笑」
 「ごめんって笑」
 抱きしめられたまま、太智は仁人の胸に顔をうずめた。
楽屋から聞こえる、ほかのメンバーの笑い声。だけどこの部屋の中だけは、ふたりだけの世界になっていた。